第十四話
とある休日の昼下がり、リリエルはフロンティアネクサスにログインして早々雷人に捕まった。
「そういえばリリエル、君は雷毒竜の新素材の時に俺のチャンネルを使ったよな?」
「そうね、私はチャンネルを作っていないのだから、当然でしょう?」
「君ほどの有名プレイヤーがチャンネルを持っていないのももったいない。それこそ、商会運営生配信なんて他にないんじゃないか?」
出待ちをされたリリエルは心底面倒そうに雷人をあしらうも、雷人は特に気にしない。
「まあ、見せられないところを処理すれば、無二の配信になるでしょうね。ところで、攻略しない配信って面白いのかしら?」
「まあ、刺さる人には刺さるんじゃないのか?俺は見ないけど」
「それならなぜ提案したのかしら」
リリエルは呆れた顔をしながら、話は終わりと歩いて行く。
「俺としては、今のこの世界の情勢に一番明るいのはリリエルだと思っている。だからこそ、今何が起こっているかを配信するのがいいんじゃないか?」
「そう、考えておくわ。少なくとも今は、ウェスティニアに集中したいのよ」
リリエルは一瞬立ち止まり、そしてまた歩き出す。雷人は深く追わずにリリエルを見送った。
リリエルは雷人と分かれたあと、ウェスティニアに降り立つ。マルキネスの話の裏を取るためだ。
「……当然だけど、歩いていても、何もわからないわね。もっとわかりやすく関連するものが転がっていればいいのだけれど」
当てもなく歩き、いつのまにか市街を抜けて旧貴族街へと入っていた。
「いつもと変わりないわね」
ふとつぶやいた言葉に、リリエルは違和感を覚える。いつもとは、まさに主観でしかないのではないのか。
考えるや否や、リリエルは支店の方面へと足を向けていた。
* * *
「支店長、ウェスティニアに詳しいのは誰かしら?」
リリエルはいつものように支店に入り、支店長に声をかける。
「はい、用意します。応接室でよろしいですか?」
「頼むわ」
応接室へ向かうリリエルとは反対側、店舗の方へ戻って行く支店長。リリエルは、応接室の扉を開けて中へ入って行く。
しばらくして、支店長が長老を連れて戻ってくる。
「早速だけれど、ここウェスティニアの歴史を教えて欲しいわ」
「承知いたしました。会頭はこの国がたった10年前に革命によって起こった国ということはご存知でしょうか」
長老はとても落ち着いた声で話し出す。
「かつて、この地はセントレイア王国の一地方でございました。そこから紆余曲折があり独立し、ウェスティニア王国へと名前を変えていきました」
「少し待って欲しいわ。セントレイアは今も王国よね?」
「ええ、そもそもセントレイアとセイトレイアは元々一つの王国でございました。ある意味で、セントレイアは人類が初めて開拓したネクサスの一角なのです」
リリエルは大きく目を見開く。記憶が正しければ、この情報は未公開だ。
「それは、一般的に知られている歴史なのかしら?」
「いえ、ほとんどの人は歴史には興味がないでしょう。それが飯のタネになるわけでもありませんから」
長老は笑いながら話を続ける。
「時系列としましては、まずセイトレイアがルナ・ヒラサカによって建国され、そしてルナが隠れたあとにセントレイアの開拓が始まりました」
* * *
ルナは言った。地を極めしところ神に近づく、と。
セントレイアの民は隠れたルナのため北へ北へと向かい、やがて北の地に落ち着いた。
セントレイアの民はそこをセントレイアと改めて、元いた場所を宗教の始まりの地としてセイトレイアと名前を変えた。
幾年も経ち、ルナの生まれ変わりを自称する者が現れた。
その者──スプリードはルミナス教から異端とされ、南へ南へと逃げていった。北には怖いネクサスがあるからだ。
やがて南に行き着いたところで力尽き隠れた。
そこにはスプリードを信奉する新宗教──泉燈教が起こった。
* * *
「宗教周りをまとめると、こんな感じね?」
リリエルは書いていたメモを止め、長老に確認をする。
「その通りでございます。そしてウェスティニアの歴史はご存知の通り、10年前の革命へと繋がって行くのです」
「それはよくわかっているわ」
長老はリリエルの返答に大きく頷く。
「では、次に革命のことをお話ししましょう」
「よろしく頼むわね」
「最初は賢王の賢策が原因でした」
長老は再び静かに話し始める。
「このウェスティニアは小さく、そして貧しい。だからこそ持つべきものを持つところから徴収し、それを民に分配する必要がありました」
「つまり、税と福祉ね?」
「はい。賢王はそれを外から取ることにしました」
長老はやりきれないといったように顔をしかめる。
「つまり、国外の富豪に爵位を与えたのです。その名を【賜爵】。高額の献金と引き換えに、名誉ばかりの爵位。しかし、民にはそう映りませんでした」
「単純化すれば売位売官ね」
「はい。次第に目の前しか見ない民衆と、周囲しか見ない民衆と、そしてそれに流されるように革命へと至りました」
長老は目を伏せて過去を想う。リリエルは静かにそれを見守った。
フッと話を終えた長老が軽く息を吐く。
「貴重なお話、ありがとうございました」
「いえ、これくらいのことであれば、この老体の続く限りいつでもお話しいたしましょう」
「重ねて、ありがとうございます。ところで、南方連合とはどのような国なのですか?」
リリエルは何もないように南方連合について尋ねる。
「南方連合──神聖南方諸邦連合帝国は6人の選帝公によって選ばれた皇帝が治める国です。中央のサウザラ公爵、南方のケウタ大公とアビ公爵、西方のマスカー公爵、東方のリンテン大公、そして北方のルリン大公です」
「6人の選帝公ね。ちなみに、皇帝はどうしているのかしら?」
「はい、現在の皇帝は神聖南方諸邦連合帝国皇帝にしてパライ侯爵および泉燈教教会大枢機卿のソワ・ダ・パライ8世になります」
リリエルは少し考えて口を開く。
「もう一度聞いてもいいかしら?」
「はい、現在の皇帝は神聖南方諸邦連合帝国皇帝にしてパライ侯爵および泉燈教教会大枢機卿のソワ・ダ・パライ8世になります」
「つまり、侯爵と皇帝、大枢機卿の兼任ね?」
長老は大きく頷く。
「その通りでございます。他に何かお聞きになりたいことはございますか?」
「いいえ、また何かあれば伺います」
リリエルは席を立ち、そして支店を後にする。
* * *
本店に戻ったリリエルは、会頭室にクリスを呼ぶ。
「結局、私の方ではウェスティニアと南方連合の繋がりはわからなかったわ。クリス、あなたの方でも調べて欲しいのよ」
「承知いたしました。少しお時間をいただきます」
「わかったわ。よろしく頼むわね」
いつものクリスでは言わないことを言ったことに、リリエルは気がついたが言及しない。そもそも昨日の今日で、もしくは一週間あったとしてもこの世界の情報伝達の速度は追いつかない。
「今日はもう休むわ。あとは任せたわよ」
リリエルはそれだけ伝え、ログアウトした。




