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第七話

 季節は巡り日が天高く昇る頃。冬雪は桜と休暇の予定をすり合わせている。

「桜、今度の連休は実家に帰るのかしら?」

「お姉ちゃんは今年も帰らないでしょ?」

「ええ、そうね」


 冬雪は上京して以来、一度しか帰っていない。

「お母さんから、お姉ちゃんの様子を報告しに帰ってくるように言われているから、私は帰るよ」

「そう。何かお土産でも買っていくのかしら?」

「え、いいよそんな。ただ帰省するだけでしょ?」


 桜は大学の課題をしながら話を続ける。当然、冬雪はすでに終わらせていた。

「それとも、何か美味しいものとか買って行った方がいい?」

「いえ、買わない方がいいわ。次もよろしくねって言われるのよ」

 ようやく課題を終えた桜は、体を伸ばしながら飲み物を入れに行った。


 その日、ログインしたリリエルを待っていたのは、知らせを持ったクリスだった。

「会頭、セイトレイアより招待状が届いております」

 ありがとうと言い招待状を受け取るリリエル。中には肌触りの良い紙が1枚のみ入っている。


「思召によりお招きになります、ね。誰が、いつ招待してくれたのかしら?」

「いつでもいいように準備しているのでしょう」

「それもそうね」

 セイトレイアは、セントレイアの南方に位置する宗教国家であり、近辺で信仰されているルミナス教の中心地だ。


「私に何の用事かしらね。早速行ってくるわ」

「あとはお任せください」

 リリエルはクリスに出発を告げ、中央広場の噴水に向かう。


* * *


 セイトレイアに着いたリリエルは、中心部より少し北にあるセイトレイア大聖堂を目指す。手紙には何も書かれていなかったが、おそらく大聖堂に行けば何とかなるだろうという予感が8割だ。


 セイトレイアの首都ルミナシティは、まさにルミナス教のための都市だ。中央の噴水から大聖堂までの間でさえ、大小様々な教会が軒を連ねている。


 大聖堂に着いたリリエルは、正面の入り口から中に入る。大聖堂とはいうものの、統治機構の集まる建物だ。警備は厳重で、リリエルも一度止められる。


「セントレイアの商人リリエルよ。招待を受けているわ」

「これは、リリエル殿。よくぞ参られました。2階、第二執務室へお進みください」

 招待状を確認した衛士はリリエルを中に通す。


 リリエルはまっすぐに第二執務室へむかう。第二執務室の外にも衛士が立っている。

「お待ちしておりました、リリエル殿」

 衛士はリリエルを確認するとすぐに扉を開ける。中には、40代後半に見えるだろう男性が座っていた。


* * *


 中央の男は黙して動かない。最初は目に入らなかったが、脇の少し若い男が話し出す。

「宗主猊下はリリエル殿のネクサス開拓における功績を買っておられる。まさに、リリエル殿の支援がなければ今ほどの成果はなかったであろう」


「過分な評価、ありがとうございます。ところで、本日お招きいただいたのはその褒賞のためなのでしょうか」

 中央の男の素性はわからないが、ただリリエルはこのイベントを楽しもうと考えている。情報収集はオープンワールドの鉄則だ。


「ええ、この度の大躍進の立役者にお願いをしたく思い、お呼びしました」

「お願い、ですか?」

「ええ、ネクサス開拓のための寄進のお願いです」

 ネクサス開拓はセイトレイア、ひいてはルミナス教全体の目的だ。


「原初の異人ルナ・ヒラサカの痕跡探しのための寄進ですね?」

「ええ、ネクサス攻略が進めば、神の足跡を辿ることができます。そして、神の国に近づくことができるのです」

 脇の男はまさに大演説の途中かのように、大きな身振り手振りをする。


「私は、神としても原初の異人としてもルナ・ヒラサカを信仰していませんし、実在を確信していません」

「そうですか」

「しかし、ネクサスの開拓は我々異邦人(プレイヤー)にも少なくないメリットがあると思っております」


 断られたと思ったのか、暗くなっていた男の顔が、パッと明るくなる。

「残念なことに私は大金を持ち歩いておりません。ただ、この紙を我らが商会に渡せばいつでも同額の現金と交換しましょう」


 リリエルが言葉を終えると、黙っていた中央の男が喋りだす。

「そうか、寄進ご苦労。我らと、そなたらのより輝かしい未来を願って」

 それだけ言うと、男は再び黙る。リリエルは脇の男に追い出されるように、部屋を後にした。


* * *


 大聖堂での会見を終えたリリエルは、アークポラリス商会のセイトレイア支店へ足を運んだ。どこの支店にも、本店ほど大きくはないが執務のできる会頭室を設けている。


「会頭、お会いしたいと教会の方がいらしています」

 会頭室に入って10分ほどで支店長から報告が入る。すぐに応接室を抑えたリリエルは、先回りして待っている。

 ものの数分のうちに応接室のドアが開けられた。入ってきたのは、先ほど中央にいた寡黙な男だった。


「やあ、会頭殿。先程は色々とありがとう」

「これは……失礼ですが、あなたのことをなんとお呼びすれば……」

「これは失敬。すっかり自己紹介を忘れていたようだ。私はマルキネス。一応、大枢機卿だ」

 大枢機卿マルキネスは自信に満ちた声で名を告げる。


「これは大枢機卿閣下。直々にお越しとはありがとうございます」

「なに、このような大金を下のものに取りに行かせるなど私の名が廃る」

「そうですか……支店長、お持ちしなさい」

 裏に声をかけるリリエル、すぐにワゴンを持って入る支店長。

「少しばかり、多いようだが?」

 大きな金額の書かれた小切手と、それ以上に多く見えるワゴンの上の現金を見比べてマルキネスはリリエルの顔を覗く。


「ほんの心ばかりですが、ネクサスのためにお使いください」

 笑顔のリリエルは、ワゴンを持った支店長とマルキネスを見送る。ワゴンにはアークポラリス商会の商会章があしらわれていた。


* * *


 セントレイアに戻ったリリエルは、クリスに資金の移動の指示を出す。

「異例の寄進額ですね。これでアークポラリス商会ここにありと、教団に示せたのではないのですか?」

「ええ、これで向こうがどう出てくるか、楽しみね。思いがけず、大枢機卿とも知り合えたことも含めて、収穫は大きいわよ」

 リリエルは嬉しそうにしており、その様子を見るクリスも嬉しそうだ。


「それは……実は、あの後もう一通の手紙が届いたのですが、今お読みになりますか?」

「ええ」

 短い返事だが、阿吽の呼吸でクリスは手紙を差し出す。


「また教団ね。今度はネクサス攻略の慰労パーティだそうで」

「それでは、ドレスを見繕わないとですね。商会の威信をかけて至高のドレスを用意いたしましょう」

 やる気に満ち溢れたクリスに、リリエルはただよろしく頼むわと伝え、ログアウトした。


* * *


 翌日、ログインしたリリエルは雷人に通話を掛ける。

「今、いいかしら?」

「もちろん、問題ないさ」

 雷人は徹夜でログインしていたのだろうか、暦の上では休日だ。


「今度、セイトレイアでパーティがあるのよ」

「ああ、ネクサス開拓の慰労パーティだね?俺も招待されているよ」

「ええ、そうよ。パーティには、パートナーが必要。そうでしょう?」

 リリエルからの提案を、雷人は快く受け入れる。


「そうだね。俺も参加することだし、同行しようか」

「ええ、ありがとう。お礼と言ってはなんだけれど、衣装はこちらで用意させるわ」

「最高の衣装を頼むよ」

 雷人はそれだけ告げると電話を切る。


 後に残されたリリエルは、クリスにもう一着の衣装を用意するように指示を出した。

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