ミディアムとの別れ
ミディアムと再び。
ロウゲと渡世人の話を聞いた数日後の事、俺は町を歩いていた。
道を塞ぐ通行人と檻の馬車に乗るミディアム、奴隷商人が道を塞がれ馬車をゆっくり止める。それは俺から少し通り過ぎた辺り、声が届く距離。
ミディアムが叫びだした。
「御主人様~!もう二度とお側を離れるような事は致しません。御主人様の言う事に耳を傾け命令にも従います。どうかもう一度お側においてくださいお願いします」
それを聞き、ミディアムを見ていた目を下に向け、しばし考え顔を起こし、ミディアムの元に走り出そうと力を入れた瞬間、右腕を誰かに捕まえられた。
絶対に捕まえ放さない、という感じに腕と腕を絡めその上もう一本の手で捕まれていた。
振り向くとそこにはスナックのママが、少し怒った様な困った様な顔をしながら俺に話しかけてきた。
「ダメよ!あの子の選んだ道なのだから、すでに一度、救ってあげたのでしょう?」
俺はしばしママを見つめながら考え、奴隷商人に手持ちの金をなげ渡す。小銭袋とは別の、お酒の税金用の財布だ。手持ちとは言え大金だ。
一度空を見上げて気持ちを切り替え踵を返し、反対の腕でママとの腕を組みなおしてママに問いかける。
「少し買い物に付き合ってくれるかい?」
馬車はゆっくりと走り出す。
「御主人様! 御主人様~! あの女許さない! 奴隷商様、馬車を止めてください! 私は御主人様にお話があるのです」
「大丈夫だ。あのお方には私から苦情を言っておいた。二度とミディアムが仕えることはあるまい」
「なぜ!御主人様~~!!」
ミディアムの声を背中に聞き涙が零れそうになるが上を向いて堪える。
馬車が歩き出し去っていく。
馬車の音が聞えなくなってたら、俺は歩き出した。
「何を買いに行くのかしらノーバン?」
「そぅだなぁ、花が良いな」
「えっ!?」
ママは少し驚いたようだが、普通のことしか言ってない。
「ママにだよ。さっきの御礼と俺の気持ちかな」
「じゃぁ贈る花の花言葉くらい知っているのよね?」
「え!気持ちといっても感謝の気持ちで花言葉は全然知らないんだが」
「なら頑張って私に合う花を選んでね。したら自然と花言葉も合うのよね」
花言葉なんて全然知らない。予定ではなく今買いに行こうと決めた事だからだ。
「ママ、実は少し怒ってる?」
「怒ってるとしたら自分にかしらね。今回は私が絆されてノーバンに迷惑掛けちゃったもの。それを思うと悲しくなっちゃったのよね」
なるほど奴隷商がスナックに来て依頼の話をした時の事を気にしていたのか。
「そっかぁなら奮発してお店を埋めるくらいの花を買おうか」
「……ダメよ!そんな事言って花言葉を誤魔化そうとしても」
「流石にママは誤魔化せないか」
自分の中でくすぶる何かを抑えるように誤魔化す様にママとの会話を楽しんだ
ミディアムの思い
「ノーバン御主人様がもっと綺麗に火傷の痕を……くれていれば」
「ノーバン御主人様が少しくらい痛くしてももっと早く綺麗に……くれれば」
「ノーバン御主人様が命令として、しっかり引き止めてくれたなら」
「ノーバン御主人様が夜ではなく昼のお店に連れて行ってくれてたなら」
「ノーバン御主人様がしっかり家から出さないでいてくれていたなら」
ロウゲのドラ息子に酷いことをされたのを思い出したくもないし、心が拒絶しているのかロウゲのドラ息子の事は何も思い出さない。
何故か思い出すのも恨み言もノーバン御主人様の事ばかり
ミディアムの母の視点
奴隷商人に連れられ村に帰ってきたミディアムに、しばらくして結婚が決まった。
初夜にお腹のアザが元で子殺しと言われ、「違う」と反論するも、なら無垢の検査をと言われ拒否すると「やはり」と言われ結婚初夜に別れたそうだ。もう結婚は絶望。
もう奴隷商も使えないと悩んでいるうちに、ミディアムに乳癌が発病、病床に至ってはノーバン様への恨み言ばかり。
旦那は娘の言葉そのままにノーバン様に恨みを募らせているが、どうにも私は違和感を感じる。
ミディアムがノーバン様の恨み言を言っている時に悔しい感じではなく縋るように泣きながら遠い目で懐かしむようにむしろノーバン様にではなく自分に悔いい自身を恨んでいるかのように自分の手で自身の腕や胸を痛めつけている。
あの子は昔から何か有れば他人のせいにする所が有って、今も一見他人のせいにしているように見えるが以前の様子とは違う。
以前は人や物に当たって自身を痛めつけるような事は無かったから。
何が変わって何を言いたいのかも分かってあげられない。
死ぬ前に本当の気持ちが聞けたら良いのだけれど、何も出来なくても聞いてあげたいし話してほしい。
見ているだけでも辛くて無理には聞けない、問いかけることさえ出来ない、いつか話して欲しいと願うことしか出来ない
ミディアム視点
死の数日前、お母さんに本当の事を話し始めた。
「お母さん、私の話を聞いてくれる」
「何でも話して、お母さんが聞いてあげるから」
お母さんの優しさが伝わってくる様な言葉にノーバン御主人様を思い出す。
「本当はノーバン御主人様は優しかったの。ただ私がそれに気づくのが遅かったの……気づいた時には御主人様の元を離れ全てが終わった後だった」
ノーバン御主人様の事を思い出しながら、ゆっくり話し出した。
「もっと早く気づいていたら……優しさに気づいてからは好きで一杯になり戻りたかったのに戻れなかったの……だからノーバン御主人様の事ばかり考えて……でも口から出る言葉は恨み言ばかりで、好きと言ったら自分の中の最後の支えが崩れてしまう気がして、でももう嘘をつく必要もないみたい」
「ごめんね、お母さん。」
零れる涙をそのままにお母さんに話し続けた。
「話してくれて有難う。もしその人との思い出を話せそうならお母さん聞きたいな」
お母さんの言葉に少し考えたが、全て聞いて欲しいと思い秘密も話す。
「お父さんとお母さん以外で初めて優しい人に会ったんだよ……」
「奴隷商から受け取ったお金もね。本当は何処にも雇われない私を見世物しにて稼いだお金じゃないの」
「御主人様が最後に奴隷商に渡してくれたお金なの」
「でも、私は結婚相手を探す為に奴隷として売られた事は言えなかったの。」
「奴隷商も御主人様に迷惑を掛けたくないから言えなかったの、多分」
「今から話す話は誰にも言ってはいけない話なの。でもお母さんにだけは話すね。火傷は本当は教会で治したわけではないの。御主人様が治して下さったの、……お父さんにも言わないで」
もう涙腺が決壊したかのように涙が止まらない。
「とても優しく壊れ物でも扱うように接してくれて、優しく微笑み話しかけてくれて、私の痛みを自分の痛みのように感じながら治療してくれて……」
「でも、その時、何故か火傷と関係ない所も舐める様に見て触って来て、私勘違いしちゃったんだ。変態で体が目的なんだって」
「でも今なら分かるの……本人でも気づかない所や、服などで見えない見ただけでは分からない怪我や病気まで見てくれていたんだなぁって……」
「でも勘違いした私が胸を触ることを拒否したから、乳癌を見逃したんだと思うの。御主人様なら触れば……」
「今思えば凄い人だったから、だって誰にも治せない火傷の痕を治しちゃうんだもの」
「でも勘違いした私は、……御主人様の優しさに恐怖を感じて、裏の有る優しさなんじゃないかと……」
「そう思ったら優しくされればされるほど怖くて、治療のたびに怯えていていたわ」
私は自分の手で自身の体を抱き締め、怯えていた自分を思い出す
「治療をするのも手を出さないのも治療が終わった後に何処かへ高く売るためなんじゃないかと」
「夜のお店に連れ出された時も、店の人に夜の仕事をさせられないか聞いていて、さらに勘違いして怖くなって……」
「でも御主人様は私が自立出来るように、夜とは言っても安全な就職先を探していただけなのに、きっと……」
「火傷が治った後に体力も根性も無い私でも出来る仕事を探してくれていたんじゃないかと思うの」
「でも私の勘違いは冷静な判断力も奪って、火傷が完全に治ったら何かされたり酷い所に売られるんじゃないかと思ってしまったの」
「なんでだろうなぁそれまで本当の優しさを知らなかったからなのか、それとも私が優しくなかったから裏のない優しさを誰かに与えたことが無かったから勘違いしちゃったのかな……」
少し見上げるように考えてしまう。
「それに体が目的だったなら奴隷の私が拒否したくらいで諦めたりしないし、まだ治る前の醜かった私の体なんかに興味ないはずだもの」
当時の愚かな自分を思い出し、少し笑みが零れてしまう。
「皆も、奴隷商の人さえ見ただけで目線を逸らし顔を背け手の火傷の跡さえ触れることに恐怖していたけど御主人様だけは優しく何度も何度も撫でながら私の顔を見ては痛そうにしてないか気にしながら治療してくれたの」
「今思えば、とても、とても優しい手だったの……あの手にもう一度触れたい……」
無意識のうちに空に手を伸ばしていた。
「治療に恐怖を覚えていた私を見て、御主人様は痛いのだと勘違いして、壊れ物を扱うように丁寧に丁寧に治療してくれて……」
「お母さん私ね貧乏でも見た目が悪くても優しい人が好き」
恥ずかしいけど、お母さんを見つめて自分の本当の思いを告白する決意をする。
「御主人様は優しくて、たまにかっこ良くてお金も持っていて、私には良い洋服を買ってくれるのに自分は安物の冒険者の服で、色々な事を知っていて町でも人気者なの」
「ただちょっとエッチなだけなのに、町での噂は女好きのスケベで変態と有名だけど噂は間違えで本当の正体は私しか知らないの」
「不思議と噂と人気が比例しない人なの。でも今なら分かるの言えるの。もしお金も無く醜い容姿でも、とっても優しい御主人様が大好き」
心の奥底にしまっていた、本当の気持ちノーバン御主人様に伝えたかったなぁ。
「お母さん、今日は玉子焼きが食べたいな。御主人様と毎日食べた料理なの。それと卵を割る前に綺麗に洗って割った殻を全て欲しいのお願い」
お母さんの料理と同じくらい好きな料理。
「御主人様に貰われた日に御主人様は凄くエッチで高級な下着を持ってきたのね」
「身請けの日で初夜みたいに思っているんだなって、諦めながらその下着を見ていたわ」
「お風呂に入り下着は新しい物を着けるように命令されたの、そう御主人様がくれた数少ない命令の一つ」
自分の胸に手を当ててノーバン御主人様の命令の数々を思い出していた。
「夕食を食べた後、夜に服を脱ぎ下着になるように言われたわ。とっても恥ずかしかったなぁ……ふふ」
思い出し話しているだけでも恥ずかしくなってしまい、少し笑う。
「毎日、強いお酒も飲まさせられて、でもいい香りがして甘くて口当たりの良いとても美味しいお酒で体もすぐに温まるの、お父さんにも飲ませてあげたかったな」
「どうしても気になって、高級下着なんて置いてる店は少ないし御主人様と服も買いに行ったお店だからすぐに分かったの」
「とても恥ずかしかったけど、御主人様の奴隷である証を見せて、証拠の下着も見せて無理を言って御主人様の町での噂を沢山聞いたり、御主人様がどんな風に買い物したのかも訊いたけど店長は何も話してはくれなかったの」
「けど交代して陰から見ていた店員さんが色々と話してくれたの」
「御主人様が一人で女性服専門店の下着売り場に入ってね『布面積の小さいのと半分だけで支える感じのをくれ』って言ったら、恥ずかしがったのは店員の方で、店長が出てきて対応したそうよ」
「その上、目測でのサイズを言い『ある程度紐で調整できるのが良い』と言われて店長に変わってもらって、隠れていた店員は恥ずかしくなって離れて物陰から見ていたらしいの」
「とっても変態でしょう?店長もそれだけでは選べず色と材質を聞いたらしいの」
「したら『白とか薄い色で材質も薄手のもので若干透ける位のが良い』ですって、とってもエッチで大胆な御主人様、私の大好きな御主人様」
その後も、お母さんに、ノーバン御主人様に優しくされた、あれこれを大切なものを思い出すように笑顔で大粒の涙を零しながら、笑顔を作り、悲しみを隠しながら語った。
「ノーバン御主人様の子を産みたかったな……」
「でも今はノーバン御主人様の事を殺してあげたい。だってもう私の物には成らないのだから……」
お読み頂き有り難うございます。
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ワガママをお聞き下さり有り難う御座います。




