第十五話、沙汰
去って行ったミディアムは幸せになれるのか?
ロウゲとミディアムの歩む道とは。
ミディアムが去ってから一週間が経ち、ミミィちゃんとの食事デートの日。
その日はスナックに別の依頼人が待っていた。
そのお話はまた次の機会に。
更に一週間が経ち、ミディアムが去ってから二週間。
土曜日にスナックで飲んで居ると、何時ぞやの奴隷商が尋ねて来た。
「私もノーバン様と同じ物を」
「はい、清酒入りビールです。どうぞ」
奴隷商はまたも俺と同じ物を頼んで来た。自分の好きな物を頼めば良いものを。
「ノーバン様、先日の奴隷は如何なされましたか?」
「如何とは?」
「いえ、最近一緒ではないようなので」
「売った後も気に掛けているとは御苦労なこったな。だが心配する必要はないと思うぞ。新しい主人? いや未来の旦那か? 見つけたみたいだから。まぁ少し気に成って一度は引き止めはしたのだがお互いの気持ちもあるからな。まぁそう言う事だ」
俺が忘れかけているのに、傷を抉るような事を。
「ノーバン様が火傷を治されたのですよね」
「誰から何を聞いたか知らぬが、教会でお祈りをしたらある程度治っただけだ。後は化粧で誤魔化せるだろう」
奴隷商も教会へ連れて行ったと言っていた、嘘だと分るだろうが本当の事を言っても碌な事にはならない。
「なるほど、してそのお布施や食事などに掛かった費用は相手方から身請け代として、如何程受け取りに?」
面倒な、只で譲ると言ったのに、今更お金の話とは何が言いたいのやら。
声に出しては言わないが、俺は金銭的に大赤字なんだ。
心だって癒された分以上の深手を負ってると思うのに。
「いや、その分はあの娘に体で払ってもらったからな、それ以外は無しだ、悪いがあんたにも払えん」
「いえいえ、元々そう言う契約でお譲りしましたので構いません、あの娘も治療されて満足でしょうし私も満足です、これ以上は過ぎると言うものです」
奴隷商が何を話しに来たのか要点が掴めない。
「何が言いたいのか、俺に何を言わせたいのか見えないんだが?」
「いえ良くない噂を耳にしたものでして、確認に来ただけです」
俺の噂なんて今更だろうが、だったら最初から俺に奴隷を寄越すなと言いたい。
「噂は知っていて俺に依頼した筈だ、結果は期待するなとも言った筈だが?」
「ええ、そうですとも御機嫌を損ねたのなら謝ります」
「いやいい」
「ミディアムが幸せを見つけたなら私も満足です、有難う御座いますノーバン様」
「あぁ」
「私はこれにて失礼致します」
何が言いたいのか分らない奴隷商だったが、最後には礼を言っていたので良いのだろう。
奴隷商と話をして、ミディアムの事を思い出してしまったので俺も店を出る。
「ママ、今日は帰るが、また来るよ」
「またねノーバン」
スナックを出て一度は自宅に帰ったが、何かモヤモヤして納まらない。お酒と肴の魔石を持って再び出かけた。今度はキャバクラに向う。
お店に入る前に、店から見知った顔が出て来るのを見かける。ミディアムを身請けした男だ。
人の事を言えないが、ミディアムを幸せにすると言いつつキャバクラ通いか?
ミディアムを身請けした男は俺に気付かないまま、街に消えていった。
「おはよう」
「いらっしゃいノーバン」
キャバクラのママが迎えてくれ。黒服に案内されてBOX席に座る。
「先にお酒の魔石を渡すよ」
「いつも有難う。税金分のお金は帰りに渡すわ。他はサービスね?」
「あぁそれで頼む」
お酒の魔石を渡し精算方法を話して少し世間話をした。
「話は変わるが、俺が入店する時に出て行った男は良く来るのか?」
「ノーバンだから言うけど関わらない方が良いわよ。中級商家ドラ息子のロウゲよ。以前は良く来てたけど家からお金を貰えなくなってから、しばらくは来なかったのだけど、最近また来るように成ったわ」
「もう少し聞かせてくれないか?」
そうだロウゲ、何処かで聞いた名前だと思ったら、良くない噂のドラ息子だ。
「最近、何処かで奴隷を手に入れたらしくて、その奴隷に働かせてるらしいわ」
「その金で飲み歩いていると?」
いや、まさかとは思うが……、気持ちがザワつき少し息苦しいものを感じる。
「そうらしいわ」
「その奴隷とは女か?」
「ええ自分が楽しんだ後、奴隷に体を使わせて稼いでるって言う話だわ」
「なるほど有難う」
嫌な予感しかしない。心の中が苛立つ様な怒りに満ちる様な、押さえ込まなければママに怒鳴ってしまいそうな程だ。
ママにお礼を言って、腰を浮かせる俺を、ママが引き止める。
「まって、まだ続きが有るのよノーバン!」
「何だ?」
「先ほど渡世人が花を置きに来て、面通しして行った帰り際に、近々沙汰が有ると言っていたわ、近づかないでね」
渡世人とは夜の街を影ながら守る団体の事だ。夜の店に花を配達したり、店の女性従業員の送迎や揉め事の対処と様々だ。その分を各お店から少しづつ手当てを貰っている。
だが怖い面もある。例え商人でも夜の商売は渡世人に話を通さなければ成らない、それを破れば最悪、三途の川を渡る羽目になる。
「ありがとうママ、助かったよ」
「大した事じゃないわ。たまたまよ」
危ない危ない、怒りに任せてロウゲに乗り込んでたら、獲物の横取りで、俺も渡世人と事を構える所だった。俺は少し気持ちを落ち着けて、席に座り直す。
渡世人と事を構えて生きて行けるほど、この夜の街は甘くない。
特に俺は、酒の納入を渡世人に目溢ししてもらっている立場だ。
「お礼に、六十九階層のホヤと、七十階層のキャビヤを贈るよ」
「嬉しいわノーバン」
ママは飛び上がるほど喜んでくれた。ホヤは値段はそこそこだが出回る数が少なく入手しがたい。キャビヤは高級品だ。
良い店には金持ちも来る。高級品の需要もあるのだろう。
「但しホヤは一日口に味が残る事も有るから確認して出してくれよ」
「気をつけるわ」
両手いっぱいのホヤとキャビヤの魔石をママに渡した。
八つ当たりに狩をした時のボスのドロップ品だ、山ほど有る、情報料に丁度良い。
「そろそろ帰る。楽しかったよママ」
「またいらしてね。それと税金分渡すわね」
税金分のお金と、次に来る時に欲しいお酒のリストを渡された。
「またな」
「よろしくねノーバン」
キャバクラを後にして家に帰った。
ミディアムの事は心配だが、渡世人が動く以上は任せるしかない。
考えても仕方が無いので諦めて寝ることにした。
泥人形
奴隷商への逆戻り
奴隷商視点
奴隷商の所に、渡世人が調査に来た。
「最近ロウゲと言う商家の息子に、女性の奴隷を売ったか?」
「いいえ、その様な方は存じ上げませんが」
渡世人は鍛えているのか体格も良く、威圧する様に問いかけて来た。
「そうか、何か情報が有ったら話せ」
「何も知りませんが、情報が入りましたら御連絡致します」
「わかった。そうしてくれ」
最近で手放した女性奴隷はミディアムしか居ない。ロウゲにと言っていたから他の町の奴隷商と思いたいが、この町で奴隷を売るには私に話が来る筈だ。
町で一度ミディアムとノーバン様を見かけた時に、ミディアムは火傷も綺麗に治っており、元気そうだったので先程の話がミディアムで有って欲しくはない……でも、嫌な予感がする。ノーバン様の所に確認に行かなくては。
ノーバン様に会いに行き話しを聞いたら『未来の旦那か? 見つけたみたいだから、一度は引き止めはしたのだが、お互いの気持ちもあるからな』と言う話をされた。
話から『未来の旦那を見付けた』と言うなら、ミディアムがノーバン様から離れた事になる。ノーバン様から売った訳では無い事が理解出来た。
話に『無しだ。悪いが、あんたにも払えん』との内容からもノーバン様は、金銭も受け取った様には思えない。
スナックでノーバン様に話を聞き、夜だが、その足で渡世人の所へ急ぎ今の話とミディアムの経緯を全て話し、ノーバン様は「死なせてやれ」と言われたのに私が無理にお願いをした旨も話して謝罪した。
おそらくミディアムはロウゲに唆され、ミディアムからノーバン様の元を離れたと。ノーバン様の心中を察して「ノーバン様に気付かれぬ様に沙汰をして頂きたい」と聞き届けられるか分からないお願いをした。
ただ、それは自分の為の偽善かもしれない。自分の心が少しでも軽くなる様に。
それから二日の後、ロウゲが尋ねて来た。
ロウゲは右手に包帯を巻いていて親指が無い様に見えた。関わったら自分も同じ目に合うと、背筋が凍り付く様な感覚と、全身に鳥肌が立つのが分った。
渡世人は指を切り落とす時、刃を潰した鉈で、骨ごと叩き切ると聞いた事がある、ロウゲの手を見て思わず自分の指が、骨を砕かれながら切り落されるサマを想像し、身震いしてしまう。
しかも左の小指でなく右親指となると、ロウゲは相当な怒りを買ったのだ。
平静を装わなくては……、上手く切り抜けなければ。
「奴隷商よ、女を売りに来た」
「無垢の女で御座いましょうか?」
「あぁ無論だ」
ミディアムは俯いていて何も言わない
「嘘はいけませんな~私は奴隷商です。見れば分ります」
「騙すつもりなど無い。無垢でないのなら俺の所に来る前だろう」
ミディアムには悪いが買い取って関わる訳にはいかない。
「無垢ではない様なので子が宿っているかもしれませんな~、それと顔と手のシミ、いくら若くても買い取りは出来かねますな」
以前、町で見かけた時に火傷は綺麗に治っていたが、今はシミのように見える。
「この服と首輪を見ろ、高かったんだぞ」
「な!」
ミディアムが驚いた様な怒ったような一瞬声を上げた。
「ほ~う~~ん、安物ですな。何処でお買い上げに?」
「そんなはずは……」
ミディアムが聞えないほど小さな声で何かを言っていた。
「遠くの町から取り寄せた分高いのだ」
革の首輪はノーバン様が買いに来た物、だとすれば高級な服もノーバン様が買い与えた物だろう。質も分からず取り寄せたから高い等と嘘を。
「他を当たってみては? 元の持ち主とか」
「ならん! 子の心配が無ければ買うのか?」
「う~~ん、どうした物か、どう判断しろと言うおつもりで?」
「こうすればいいのであろう?」
ドカッ!!
「うっ! ゲホッゲホッ」
ロウゲはミディアムのお腹に、強烈な蹴りを入れた。ミディアムはお腹を押さえ蹲ってむせ込んでいる
「奴隷商が引き取らねば俺の指がまた無くなる」
ロウゲが小声で焦っている様に呟いた。
「分りました分りました、引き取ります。ですが奴隷にも食費や生活費がかかる為、お金は払えませんよ」
「分かったそれでいい。引き取れ」
ロウゲは右手を押さえながら去って行った。
ミディアムに気になった事を問いただした。
「ミディアム、何故ノーバン様の元を離れた?」
「ノーバン御主人様が、あのロウゲに私を売ったのです。それから酷い目に、全てノーバン御主人様のせいです。私は約束を守り、命令にも従い、仕事も一生懸命に頑張ったのに、他人に売るなんて酷いです」
それからミディアムは何を聞いても、ノーバン様の恨み言しか言わなかった。
ノーバン様が噂通りの人でない事は分っている。ミディアムが何を思っているのかが分からない。
ミディアムがノーバン様に会ってしまう前に、村へ返そう。
火傷の治療もし優しくしたのに、何故ミディアムは去ってしまったのか?
ミディアムに未来はあるのか?




