なんて事ない程度だよ
「なんだよ……それ」
「なんでもないし、誤解だよ」
キヨラが笑って告げるがそんな訳がないとその顔を見ると、誤魔化せないと悟ったのか、小さく息を吐いてから「余計なことを……」と呟いた。
「ちょっと二人だけで話したいからさ、カエストロさん達はまた明日、改めて話すでもいいかな」
「あぁ、オレッチらは構わねぇよ。こいつも暇だしな。明日改めてくるさ。だから喧嘩とかすんなよ。お互い冷静にだな……」
「わかってるさ」
笑って返事をしたつもりがデックスは俺の腕を軽く叩いて、「オレッチは女に手ェ上げるやつは許さねぇぞ」と告げてカエストロさんを連れて出て行ったのは、俺の顔が怖くなっているということなのだろうと、一つ深く息を吐いてから口を開いた。
「キヨラ」
「そんな大した話じゃないよ。僕は聖女だからね。ハジメの魔素を取り入れたところで、体内浄化してただけだよ。ハジメじゃそうはいかないでしょう? 僕はホラ、可愛いし聖女だし、なんて事ない程度だよ」
笑顔で告げるキヨラの嘘は見抜いているのだと、ただ黙ってその顔を見つめていれば、少し気まずくなったのか少し焦るように言葉が紡がれる。
「べ、別に隠してたわけじゃないし。言うまでもない事だと思ってただけだからさ」
「だから俺にくっついて、背中でよく寝てたのか。回復魔法を使ってくれていると思ってたけどそうじゃなかったんだな。……俺の分も浄化するのに著しく魔力も、体力も使ってくれてたのか……」
体力がないだなんて単純なことしか考えなかった
我ながらバカだなと、そんなことにすら気が付かないなんてと呟けば、「別に大した事ないのに」とキヨラが呟く。
「そうだな。空気をつかむ手を使って毎回筋肉を切る俺も人のこと言えないか」
自分の手を見ながら告げればキヨラは慌てたように俺の手を掴む。
「はぁ⁉︎ ナニソレ⁉︎ 聞いてないけど!」
「いつもキヨラが直してくれるからな」
「だからって……!」
「嘘だよ」
捲し立てるように攻めるキヨラに苦笑いで返せば、「信じられない」と吐き捨てるように呟く。
「お前が俺のことこうして心配してくれるように、俺だってキヨラに負担かけていきたくないいんだよ」
「……僕は大丈夫だって」
「なぁ……あの時、誘拐された時も、回復のために寝ていたんだろ? 人がいきなり入ってきて、騒がないキヨラじゃないもんな」
「僕は大丈夫だよ」
「一緒にこんな異世界で旅してんだ。しかも俺の我儘でアオに会いたいなんて我儘に付き合ってもらってんのにさ。キヨラばっかり負担に……」
「僕は大丈夫だって言ってるだろ!!?」
キヨラは俺の胸を押して声を荒げるのを、俺は困ったように笑って頭を撫でようとすればその手を払われた。
「俺が大丈夫じゃないから言ってんだ。旅は諸共、負担は諸共で行こうぜ!」
笑って言ってもキヨラは自分の腕を抱いて……涙をこぼしていた。
「なぁ。どうした? やっぱり無理してたんだろ? 俺は気が付かないくらい鈍いし丈夫だからさ! うまいこと二人で……」
「一緒にじゃないよ! 僕は本当に平気なんだ!! 聖女だかなんだかの力で、時間はかかるけど浄化出来る。でもハジメはそうはいかないだろ!? 僕の代わりにこんな世界に飛ばされて、それなのに一言も僕のこと責めたりしないで!!」
「そりゃキヨラが悪いわけじゃないしな」
「でも僕のせいじゃんか!!」
助け助けようとした時は確かに濃い茶色くらいのだったはずの瞳は、異世界に飛ばされ、綺麗な水色に変わったその瞳からはホロホロと大粒の涙がこぼれ落ちる。
「キヨラ、ごめん。そんなふうに思わせてたんだな」
「違う! でも僕は、ハジメがいたから、この世界でも生きようと、一緒に、日本に……っ、帰りたいってぇ〜……」
クシャリと崩れた泣き顔はきっとキヨラは見てほしくないのだろうと、俺に比べてその華奢な体を抱きしめた。
「うん。帰ろうな。キヨラのモデルの仕事も見たいし、俺だって家族にも会いたい」
口に出せばその言葉の重みに俺の目にも涙があふれる。
「バカだなぁキヨラ。そういうの言おうよ。俺、鈍いから、日々のことでいっぱいいっぱいだからさ」
「だからそれって僕のせいじゃん……っ」
「日本にいたって俺はいつだってそんなもんよ。日々大学のレポートに追われてさ、部活にバイト、彼女はいなかったけど、あー……それとついついスマホでゲームして、寝坊して、必死に大学まで走って行って教室に駆け込んで……」
思い返すように言えば「ハジメらしい」と胸の中でキヨラが笑う。
「そんなもんだよな。どこにいたって、自分のことにイッパイイッパイでさ。でもキヨラはそうして俺のこと気にしてくれてたんだな。ありがとな」
「だって僕の……」
「せいじゃないだろ。あのクソ王子らが無理矢理召喚しやがってた。こんなに可愛いキヨラを嫁にしようだなんて美味しいとこどりにも程があるだろ!」
「ふふっ、ホントだよね。国家レベルで可愛い僕を召喚如きで手に入れようなんて烏滸がましいよね」
笑うキヨラに「それに俺みたいなイケメンを男だから捨てるとかさぁ〜」と言えば「そこは議論が必要なところがあったね」とかスンとして言われた。厳しい!
「とにかくさ、俺たちは誰のせいとか……いやあの王国のバカのせいってのはさておいて、とにかくお互いのせいだとか気にしないで行こうぜ。一蓮托生ってやつだよ」
「でもさ、前々から気になってたんだけどさ……」
「ん?」
いつまでも抱き合っているのもなんだか恥ずかしくなってきたと、そっとキヨラと離れれば、キヨラはそう言って真面目な顔でこちらを見ると、
「なんで聖女が必要となったんだろう」
と、初心であり素朴な質問に「確かに!!」と、俺はアホみたいな返事をしていた。





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