ただいま
「ん? なんだこれ」
「おめでとうございます。彼女がシャノン様の眷属になった証です」
現れたのは、2本の赤い紐が絡み合うような形の紋章だ。
「2千年前の勇者が仲間にしたモンスターにも、こういう印があったのか?」
「はい、そのように言い伝えられています」
アデリカは、浮き出した印を愛しげに指で撫でている。
「マスターと繋がっているのを感じます」
「俺もなんとなくだけど、アデリカとの絆みたいなのを感じるな」
「これで私は、マスターの所有物……」
アデリカはうっとりと目を細めた。
殺気を感じて振り向くと、サフィアは違う意味で目を細めている。
「サ、サフィア? まだ怒ってるのか?」
「いいえ、気のせいです。それより、彼女に全てのモンスターを撤退させるように命じて下さい」
「ああ、そうだったな。頼めるか? アデリカ」
「その必要はありません。皆、マスターの気配に気づいたようです」
「え……?」
アデリカは俺の身体を両手で優しく包んで持ち上げ、背の中に折りたたんでいた翼を広げた。
「おわぁ!?」
そのまま勢いよく屋根の上から飛び降りたが、翼の浮力のおかげで俺達はゆっくりと地面に着地する。
そこへ、モンスター達が一斉に駆け寄ってきた。
アデリカのようにハァハァしながら詰め寄られたらヤバイと警戒したが、少し様子が違う。
どちらかというと、動物達に異常に好かれていた時のあの感じだ。
犬型のモンスターは嬉しそうに尻尾を振り、コウモリ型のモンスターはキィキィとかわいい声を上げながら俺の周りを飛び回っている。
「あれ? このモンスターって、バットリーと、ヘルサバーカだよな」
「その通りです、マスター」
「俺……こいつらのこと知ってる。ヘルサバーカは連係プレイがうまくて、集団での狩りが得意だ。バットリーの超音波攻撃は、敵を混乱させたり、戦闘不能にできる。リンゴが好物で、おやつにあげるとすごく喜んで……」
なんだ? この感覚。
俺はなんでこんなことを知ってるんだ?
2千年前にこの世界にいたと言われても、今までなにも思い出せなかった。
だが、モンスターの詳細データだけは苦もなく頭に浮かぶ。
そっか……。
俺って、本当にこの世界の人間だったんだな。
今になってようやく実感できた。
「待っててくれて、ありがとな。……ただいま」
「キィキィ!」
「ワオーン!」
モンスター達は、俺の呼びかけにはしゃいだ声を上げる。
どうやら、俺に覚えてもらっていたことが嬉しいらしい。
「マスター、彼らとも契約を」
「ああ、そうだな」
アデリカは、両手を地面に近づけて俺を降ろしてくれる。
俺は、モンスター全員に『汝、我が眷属となれ』と声をかけて回った。
返事は『キィ!』だったり『ワン!』だったりしたが、彼らの身体にアデリカと同じ赤い紐の文様が浮かび上がったのが確認できた。
俺達の後を追って屋根から下りたサフィアは、モンスターの頭を数えながら満足げに微笑む。
「幹部クラス1人、眷属クラス30匹。さすがシャノン様、初陣なのにすごい成果ですね!」
「まぁ、ほとんど何もしてないけどな」
「それでいいんです。シャノン様は最強の勇者なんですから!」
俺の活躍を間近で見られたのが嬉しいのか、サフィアはとても幸せそうだ。
「さて。俺達も怪我人の救助と消火活動を手伝うか」
「そうですね。一度騎士達を集めて、役割分担を――」
「サフィア殿下……!」
今後の方針を話し合っていると、散らばっていた騎士達が慌てた様子で駆けてきた。
「ご報告します! どういうわけか全モンスターが攻撃をやめ、撤退を――」
「うわあぁぁ!?」
「な、なんでこんな所にモンスターが集まってるんだ!?」
騎士達は、ちまっとしたハムスターの背後でひざまづいているヴァンパイアとモンスターの大群を見つけて動揺する。
そんな彼らを見渡しながら、サフィアは得意げに口を開いた。
「ちょうど招集をかけようと思っていた所です。計画通り、ヴァンパイア部隊はシャノン様の軍門に降りました」
「え、ええ!?」
「軍門に降るって……ホントにこのモンスター達を勇者様が!?」
「ああ。全部仲間にした」
「なっ……」
騎士達は絶句し、お互いの顔を見合わせる。




