巨乳ヴァンパイアが、ハァハァしながらこっちを見ている
「なぁ、アデリカ」
気軽に呼びかけると、彼女はなぜか肩で息をしながら、ちらちらとこっちを見てくる。
「ど、どうした? 具合でも悪いのか?」
その顔は赤く染まっていて、まるで熱に浮かされているかのようだ。
「妙な気配がするとは思っていたが、この匂い……。貴様、何か特殊な香を使っているな!?」
「え? 匂い? 別に何も使ってないけど」
「ま、待て! 動くなぁ!」
アデリカは、悲鳴のような声を上げて身もだえる。
「なんだよ、俺ってそんなに変な匂いするか?」
すぐ隣にいるサフィアを見上げると、彼女は小さく首を横に振った。
「いいえ。私にはわかりません」
うーん、アデリカにしか感知できない匂いってことか。
その時俺は、天女ニビエスの説明を思い出した。
確か『側にいるだけで猛烈に好かれる』って言ってたな。
つまり俺の身体からは、モンスターをメロメロにするフェロモンみたいな物が常時発散されてるって事か?
よーし、だったらもっと近くで嗅がせてやろう。
俺はじりじりとアデリカとの距離を詰める。
「いやあぁぁ! やめてぇ! こっちにこないでええ!」
彼女は両手で箒をぎゅっと握りしめながら、ぶるぶると身体を震わせた。
来るなと言いつつも、その眼差しには期待の色が浮かんでいる。
「本当にいいのか? いなくなっても」
「え……?」
少し意地悪なことを言うと、とたんにアデリカの表情が情けなく歪んだ。
「別にいいんだぞ。俺は忙しいから、お前の相手をしてる暇なんてないんだ」
「そんな……! お願い、待って! 行かないで……っ」
俺はニヤリと口の端を持ち上げた。
なんてチョロいヤツだ。完全に落ちたな。
目に涙を浮かべて懇願する彼女には、敵意などみじんも感じられない。
「お前にはわかるんだろ? 俺の魂に刻まれた深い愛が」
「あ、ああっ、あああああああっ!」
さらに距離を詰めながら言葉で責めると、彼女はこらえきれなくなりその場に崩れ落ちた。
「どうした、もう降参か」
「いやあああぁぁっ、しゅきいいいいいい!!」
う、うん。
魅了スキルの効果を確認できたのはいいが、思ってたより強烈だな……。
明らかに性的に興奮してるぞ。
美女がハァハァしてる分には構わないが、他のモンスターも全部こうだったら、ちょっと対応に困りそうだな……。
「ああん……っ、ご主人、様ぁ……っ」
ゴクリ。
妖艶な美女が、まるで私を食べて下さいとでも言いたげな顔で俺を誘っている。
まぁ俺はハムスターだし何もできないけど、とりあえず言っておこう。
異世界最高!! 生まれ故郷万歳!
帰ってきて、本当によかったああああ!
「シャノン様。なんですか、そのガッツポーズは」
「え? あ、いや」
しまった。
美女をいじめるのに夢中で、すっかりサフィアのことを忘れていた。
恐る恐る見上げると、彼女はまるでチベットスナギツネのような渋い顔をしている。
「お戯れが過ぎるのでは」
「ご、ごめん。魅了スキルの効果が面白くて、つい……」
「ずるいです、モンスターにばっかり」
「え……?」
そう言いながら、サフィアはぷいっとそっぽを向いてしまった。
え、何? どういう意味?
私もいじめて欲しいってこと!?
「と、とにかく! 遊んでないでちゃんと彼女を仲間にして下さい!」
「仲間に? えーとそれは、どうやるんだ?」
「身体のどこかに触れて、汝、我が眷属となれ、と命じるだけです」
なるほど、それがこの世界の作法なんだな。
よーし、やってみよう。
アデリカは屋根の上に座り込み、相変わらず頬を染めながらハァハァしている。
俺はそんな彼女の膝に触れながら語りかけた。
「……汝、我が眷属となれ」
勧誘の台詞としては、ずいぶんシンプルだ。
だが、気持ちは伝わっているはず。
俺が、モンスターを無碍に扱うような人間……じゃなかった、ハムスターではないということも。
「また一緒に旅ができるのですね、マスター」
「え……?」
彼女はすがすがしい笑顔で、小さな俺の手を取った。
「2千年前、全てのモンスターに愛され、世界に平和をもたらした勇者。わずかではありますが、同族達の記憶が私の魂にも刻まれているようです」
アデリカはその場に跪き、恭しく頭を垂れる。
「身も心も全てあなたに捧げます、マスター」
そう宣言すると同時に、彼女の右肩がぼんやりと赤く光り、文様のような物が浮き出した。




