なんでもない日1
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「今度どんな依頼を受けるかわからないけど、あと何か購入しておいた方がいい道具はあるかしら?」
日が頂点に昇る頃、リリーシェは従者のエレンと共に冒険者の街を歩いていた。
むろん全身鎧はつけておらず、少し上等な布で織られたラフなロングスカートだ。
といっても腰には服装に似合わぬ物騒な長剣をはいていて暴漢対策は十分だ。
「次は絶対に完璧な準備で皆を驚かせてやるんだから」
先日のゴブリン退治の時は戦場に出るかと見まごう重装備で目的地に着く前にへばってしまったのを思い出し鼻を鳴らす。
今度は足手まといにならぬよう、一日の仕事をかなり早めに切り上げ従者のエレンと買い物に来たのだった。
「バックパックに水袋、ロープ、ランタン、火打石と購入してきましたが、私には何が必要でそうでないやらわかりません」
力になれず申し訳ありませんとエレンは頭を下げる。
彼女はタルミアの平民出身なので、お嬢さまなリリーシェにとっては何かと頼りになる存在だ。
――場末の貴族かつ末っ子なリリーシェに与えられたたった一人の従者である点から、彼女の色眼鏡が多少入っていることも考慮に入れねばならないが、それでもエレンは優秀だ。
平民出身のエレンが、末っ子とはいえ貴族のお付きになれるぐらいには家事能力に長けていた。
「うーん、他はあたしもわからないわね……と、ちょうどそこが知り合いの取っている宿だから聞いてみるのはどう?」
「良い考えだと思います」
居るといいんだけどなー、と呟きながら二人は踊る兎亭の両開き戸に手をかける。
「繁盛してるわね……お昼時だから?」
1階の酒場は、相席すら期待できないほどのぎゅうぎゅう詰めで、狭い隙間を看板娘が慣れた足取りで歩いていた。
店内は思わず眉をひそめそうになるぐらいは雑然としている。大声で注文をする客、朝からの成果を自慢げに披露する冒険者や、夜の客を相手にするためようやく起き出した客引きなどなど混沌としている。
「なんとか2階まで行くわよ……」
思わず頭を押さえて一歩を踏みだすリリーシェ。
時間を変えれば良かったとその表情には後悔の念がありありと浮かんでいた。
「あ、リリーシェさんじゃないですか」
そんな悲壮な覚悟を決めた彼女の背中に声をかける少女が居た。
「今日はとってもお綺麗な格好で、どうかしたのですか?」
「あなたたちに会いたかったの。外で話しましょ!」
喜色満面の顔でリリーシェが振り返ると、そこには探し人の一人マユが立っていた。
彼女も買い出しだったのだろう、大きなリュックが膨らんでいる。
こうして三人は連れだって、店の外に出されたイスに腰掛ける。
エレンは立ったままを主張したが、マユが恐縮するので座ってもらった。
リリーシェたちは今回の目的を話し、マユに意見を求める。
「そうですね。ええと後買ってない物ですと……裁縫用の糸と針、中身の入っていない空の袋、調合済みの薬草、解体用ナイフなどがあれば便利です。それと、一日で終えるつもりの依頼であっても保存食を持っておく方が良いです」
「なるほどね。糸と針って何に使うの?」
「何かあったときに服をつくろったりです。それと……回復魔法の使い手が居ない時に傷が深ければ縫合することもあるとも聞きました」
治療の恐ろしさに顔を青くさせながらマユは酒場の冒険者から聞いた話を伝える。
マユもユウキもこれまでそのようなケガを負うことはなかったし、初級の回復魔法をアルが使用できるためお世話になることはないだろうが備えは必要だ。
「そ、そういうことも確かにありうるわよね……」
厳しい訓練で自身を鍛えてきたリリーシェだってケガには慣れているが、大きなケガはさすがにしたことがない。
小さなケガでもかかり付けの魔法医に治してもらってきているので、その場で縫合するなんてとても想像がつかない世界だった。
「あと必要そうなものは……ユウキさんに聞いてみましょうか」
マユもこれ以上は浮かばない。
「そうね。ユーキはどこにいるの?」
「この時間は酒場の裏手にある木材置き場にいるはずです」
「ふうん、マユが買い出しに行っているのにね」
分ければ軽くすみそうな荷物を持っているマユを見て、皮肉気に呟くリリーシェ。
「お嬢さま……」
「ふふふ、ユウキさんは宿代を稼いでるんですよ。ですので代わりに買い出しは私が行くって言ったんです」
「あー、それはごめんなさい。酷いこと言ったわ」
「ご心配ありがとうございます。私たちはちゃんと仲良しですよ」
バツが悪そうにリリーシェが頭を下げる。
「こちらになります」
酒場の裏手に案内されるとそこには――――十人前後の大人と子どもが混ざり合って地面に座り込んでいた。
「何してるの?」
思わずそう問いかけてしまう彼女を責めることはできないだろう。
傍から見ると昼間から怪しげな儀式でもしているようにしか見えず、大人も子どもも真剣な表情で地面に何か書きこんでいる。
「わからないよー!」
と投げだす子どもの声に、
「じゃあそこの石をいっぱい取っておいで」
と聞き覚えのあるハスキーボイスが応える。
ユウキだ。
彼女は細い木の枝を片手に持ち地面になにやら書き込んでいた。




