依頼達成は冷たいエールで
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ゴブリンをせん滅し、ピクシーを保護してギルドに報告した後、俺たちは踊る兎亭で汗を流した。
一緒に入ろうと言うマユちゃんの誘いを巧みに躱し、一人で入浴する。
返り血を浴びてしまっていたのでいつもより念入りに体をこすった。
踊る兎亭の水はマユちゃんが相当の割合を提供しているからお風呂で水は自由に使っていいと許可を貰っている。
マユちゃん様様だね。
虎の威を借る狐の俺はマユちゃんに感謝しながら髪に櫛を通す。
風呂上りのラフな格好のまま酒場まで降りていく。
先にマユちゃんたちが上がって注文をしているはずだった。
すでに陽は落ち、今日も酒場は騒々しい。
せっかくお風呂でさっぱりしたのに、客の熱気でまた汗をかいてしまいそうなくらいだ。
あっちの卓では駆け出しさんが初めてゴブリンを倒したと興奮気味に先輩にお酒をおごられている。こっちの卓では商売の愚痴をマスターにぶつけている。
さて、本日の俺たちは勝ち組だ。
ただのゴブリン退治がゴブリンの巣の捜索及びせん滅になり、人間と協力関係にある妖精ピクシーも助け出した。
ギルドに報告すると一人銀貨1枚ずつの臨時ボーナスを出してもらった。
ピクシーは現在ギルドの職員に詳しい事情を聞かれている。
何か事件性があればギルドで依頼が出るのだろう。
と、あそこだね。
入口から一番遠い――つまりは人の出入りの少ない落ち着いたテーブル――に三人がちょこんと座っていた。
テーブルの上にはアルくんが持参した食べ物が積まれている。
酒場のマスターには申し訳ないけれど、そこは俺とマユちゃんが注文することでお目こぼしをしてもらおう。
「マスター! 鳥の塩焼きとエールちょうだい! 二人分大至急ね!」
大きな声で叫び、マスターが片手を挙げるのを確認すると俺も席に着く。
すぐにマスターの娘さんがエールを片手に持ってきてくれる。
「それでは、初以来成功を祝って――かんぱーい!」
「Eランクおめでとうございますー!」
「ありがとうございます。ほら、リリーシェも」
「ちゃんと説明してくれるんでしょうね。はいかんぱいかんぱい」
あの後、彼らはその場でEランク昇格試験を受けて簡単に突破した。
Eランクからがちょっと大変なんだけど、アルくんたちの戦闘力ならすぐ追いつかれるだろう。
追い抜かれ――ないといいな。うん頑張ろう。
「リリーシェは何を拗ねてるの?」
フォークで鶏肉をつつきながら頬を膨らませる。
「依頼は達成した。お互いの得手不得手もある程度わかった。そしてなにより臨時収入まであった。何が不満なの」
鎧を脱いで威圧感の薄れたリリーシェはため息を吐く。
「あたしはユーキが魔法使いなんて聞いてなかったんですけど? 後ろからいきなり何かが飛んできた時の驚きを分けてあげたいわ……」
むう、そこをつつかれると辛い。
嘘や秘密は後でばらすのとばれるのでは意味合いが異なる。
肉体変化能力を黙っていたのは、彼女らからすると当然信用されていなかったと受け取るだろう。
そしてその感覚は正しい。彼女らと仲良く信頼しあってやっていきたい気持ちはあったけれども、今回の依頼では信用なんてしていなかった。
互いのことは何もわかっていなかったのだ。この依頼で俺たちがもし彼らとそりが合わないと感じれば解散しただろう。
依頼を通して彼らの人間性も多少はわかり、実力も申し分ないことがわかったからいずれ折を見て説明しただろうが……そんなこっち側の勝手な事情はリリーシェたちには関係ない話だ。
そんな時は――
「驚かしちゃってごめん。私たちの生命線だったから話さなかった。マユちゃんにも黙っておくように伝えてた」
素直に謝るに限る。
両手を合わせてごめんなさい。
「……そりゃ組んだ初日から奥の手を見せろなんて言えないけど……」
持参したサンドウィッチをフォークでつっつくリリーシェ。
理屈はわかるけど、気持ちは納得いかないわよとその煮え切らない言葉は示している。
「ごめんね」
「ぐぬぬ……そう来るか」
彼女は悔しそうにサンドウィッチを突き刺し、口へと運ぶ。
「まあまあリリーシェ。君の話だと、ユウキさんの詠唱は聞こえなかったんでしょ? それが本当だとしたらとんでもないことだよ。話せなかったのも仕方ないと僕は思うけど」
アルくんはゆっくりとサンドウィッチを小分けして食べている。
リリーシェとは異なり、黙っていたことを責めるつもりはないようだ。
彼は口にこれまた持参した飲料――何が入ってるんだろう?――を含んで一拍置くと、テーブル越しに顔を寄せてくる。
「その無詠唱ってどんなことができるんですか?」
小さく、酒場の喧騒に紛れるような大きさで質問を投げかける。
もう秘密はばれたんですから教えてくださいよと口元が笑っている。
表情は仮面で見えないけど、たぶんそんな感情だろう。
俺は両手を挙げて降参する。
ここで教えなければ、彼らとの関係もそれまでだと思ったからだ。
「それじゃ説明するよ……マユちゃんもいいよね?」
「はい。わたしは構いません」
彼女の許可ももらえたので、椅子に深くもたれかかる。
三人とは少し距離が開いた位置関係となる。そして、周囲で聞き耳を立てている人がいないか確認をして――
「たとえばだけど――」
結んでいるサイドポニーの髪先を伸ばす。髪の先は机に阻まれてアルくんたちには見えていない。
髪を机の下にある彼の足にさわさわと触れさせる。どうせならとローブの中に入り込み、足首辺りを狙う。
「ひゃ!」
「アルくんの足に当たっているものわかる?」
驚き小さな悲鳴を上げるアルくん。
年相応に甲高い響きが、何かいけないことをしてしまった気にさせる。
そんなわずかな背徳感に身を任せる。
「こんなこともできたりして?」
そのまま髪を伸ばし、彼のふくらはぎにまとわりつかせる。
髪は彼を柔らかく締め付け、その先端はどんどん上へと螺旋を描いて登っていく。
「ちょ、何ですかこれ!?」
アルくんは机の下のローブを押さえつけ、得体のしれない何か――俺の伸びた髪――の侵入を防ごうと力を込める。




