マユの魔法(マユ視点)
「この声は……ピクシーかもしれません」
そう答えるアルさんも確信はなさそうでした。
ピクシー。ギルドで以前勉強しました。
彼らは世界樹に住むイタズラ好きの生き物で、妖精の一種とされています。
イタズラと言っても面白半分で子どもを攫う、幻術をかけて人を餓死寸前まで惑わすなど子どものイタズラで済む程度ではない、でしたね。
それでも種族として人間と敵対関係にあるわけではありません。彼らの作る特別な魔道具や魔法技術、人間の工芸品を交換する仲でもあります。
「ピクシー? 何でゴブリンとピクシーが一緒なのよ」
「わかりません。しかし、もし本当にピクシーでしたら何の策もなく家の中に入るのは避けたいです」
もし仮に二種族が協力関係にあったら、家の中は罠だらけの可能性があります。
拠点に罠を張るなんて命の危険があって普通はありえないのですが、幻術ならあり得ます。幻術だとわかっていれば対処は可能なのですから。
ゴブリンにそこまでの知能があるかは別にしても警戒は必要です。
「ゴブリンの犠牲者かもしれないところが厄介だね。誰か良い案はない?」
助けられるなら助けたい、とユウキさんは木にもたれかかります。
「わたしに案があります」
少し考えてみると一つ案が浮かびました。
以前ユウキさんと討伐依頼を受けた時に使った魔法の応用案です。
「どんなの?」
「はい。遠目から見ましてもあの家は古びています。おそらく中もボロボロで水の侵入を防ぐ手段はないと思います。ですので、私の水魔法で浸水させます。その後水を凍らせて動きを封じるのはいかがでしょうか。幻覚魔法があってもゴブリンが動けなければ意味ありません」
「あたしたちは異変を感じて逃げ出したゴブリンを順次狩っていけばいいわけね。わかりやすくていいじゃない」
「氷漬けにするくらいなら仮に被害者がいたとしても問題ない、ですね」
「寝かされている人がいても溺れちゃわないように、壁の隙間から水が漏れ出てきたらそこで凍結させよう。足首まで凍っちゃえばゴブリンの動きは十分封じられるはず。奇襲も受けないでしょう」
話はあっさりまとまりました。
皆さん樹の陰に隠れて最後の確認を始めます。
リリーシェさんとユウキさんは入り口付近に待機し、凍結後リリーシェさんから順に突入することに。
アルさんは、わたしが集中している間の周囲の警戒を行うことに。
そしてわたしが今回の要です。
「マユちゃん、準備はいい?」
ユウキさんの問いに杖を構えて応えます。
「いくよ」
ユウキさんの合図と共に四人は身体強化を使用します。
「「肉体は限界を超え、眼前の敵を打ち砕かん『身体強化』」」
わたしとユウキさんは呼吸を合わせます。
「同時詠唱なんて器用ね」
ユウキさんと同じタイミングで身体強化を唱え終えたわたしはすぐさま次の呪文に取りかかる。彼女は黒い髪をなびかせ所定の位置まで翔けていきます。
「この地は我が住まいなり。我が領域なり。我が意思により満ちよ。満ちよ『ウォーターフィールド』!」
力ある言葉ととに体は急激に寒くなり、気を抜けば声が震えてしまいそう。
体の中の目には見えない魔力が抜け落ちていくのが実感としてわかります。
その代償として、足元から音もなく染みだし草木を濡らすのは魔法の水。
わたしの思い通りに動くその水は止めどなく生まれ、廃屋に向かって静かに流れていく。
余計に広がらなぬよう、魔力を消費して動きを制御。草木の色が濡れて代わり、ゴブリンの根城の廃屋まで一本の濡れた道が繋がりました。
「あと少し……」
道が繋がれば後は流し込む。
中と外を分けるわずかな段差なんかものともせず、わたしのもう一つの手足は水量を増して流れ込みます。
この魔法をユウキさんが「まるで台風時の川だ……」と呟いたのを覚えています。
嵐の時に川を見に行ってはいけない、人はなす術く流されてしまいます。
ユウキさんがそう評してくれたのはうれしいですが、そこまでのものではありません。
けれど、リリーシェさんたちにせっかくなのでいいところを見せたい。
わたしの体がふわりと水に押し上げられる。
イメージする嵐の川に魔法が染め上げられ水は勢いを増す。泥で茶色に濁った水――もはや濁流――のたうつ蛇のような勢いで家の入口に殺到する。
「出てきました!」
たまらず2匹のゴブリンが水の勢いに足を取られつつも、顔を腕で守りながらたまらず家から飛び出す。
武器を持ってないのはこの異常事態を敵襲とは思えなかったのでしょう。
完全に動転して出てきたゴブリンたちは、入口横に待機していたリリーシェさんが処理します。身体強化した体に任せ右手一本で持つ大剣をいかんなく振るいゴブリンの頭を叩き潰す。
「水に近寄らないでください! 『凍結せよ!』」
再び体の中の魔力がぐんと減り、体に違和感が走ります。
具体的には手足の痺れ。
とはいえ限界はまだ先にあります。
力ある言葉とともに水は湧き出るのを止め、わたしの足元から順に形を変えていく。
おそらく家まで氷が張るまで5分と言ったところでしょうか。
水の勢いがやみ、これ幸いと出てくるゴブリンはユウキさんとリリーシェさんがなんとかしてくれます。
「お疲れ様でした。水魔法……初めて見ましたがすごいものです」
アルさんがねぎらいの言葉をかけてくれます。
彼は器用にわたしの周囲に『ファイアーボール』を浮かせています。
「熱かったら言ってください」
「体が冷えているのでうれしいです」
脚が魔法の影響で凍り付いてしまっているのでとてもありがたいです。
(突入)
ユウキさんのハンドサインを受けてリリーシェさんを先頭に二人が家に駆けこんでいきます。
「ちょ、滑るわよ!」
リリーシェさんの悲鳴にも似た叫び声と一緒にゴブリンのくぐもった悲鳴が家の外にも聞こえてきます。
そして生き物の鳴き声がなくなる直前、
「タ、tル、タス、タスケテ! ニンゲン!」
という子どものような甲高い悲鳴が聞こえました。
片言でありましたがそれは紛れもなく人族語で……その直後、家の壁の反対側を何か赤黒いものが破壊して伸びました。その赤黒いものの先端には潰れたゴブリンと思われる生き物がへばりついています。
あれは……ユウキさんの腕です……。
その後、家からは泣きじゃくる羽の生えた妖精をひっつかんだリリーシェさんと、バツの悪そうな顔をして苦笑するユウキさんが出てきました。
ユウキさんはリリーシェさんの陰で手を合わせてごめんなさいのポーズをわたしに向けています。
―――――――
そろそろ話のストックが・・・。
週1更新なのに情けない;
細々と更新しておりますが、いつも読んでくださりありがとうございます。




