ゴブリン追跡
「よし、話はまとまったわね! ちょうど来たみたいよ!」
タイミングの良いことに作戦がまとまったと同時にゴブリンの一団が畑の向こうにやってくる。
数は……1、2、……5体か。
内3体は盗み出しただろう薪割り斧を所持している。
けっこう多くない?
「最低1体は残す。武器を持ってないゴブリンね」
「「はい!」」
「5体なら任せて! あたしたちが行くわ!」
「…………わかった」
もう少し相談する時間があれば良かったね。
ここはリリーシェの言葉を信じて彼らに任せることにした。
ゴブリン5体なら身体強化さえ使えれば大丈夫だろう。
「我らが剣は主の剣。我らが盾は主の盾。主の意思は我らが意思。『身体強化』!!」
強化の魔法を唱えながらリリーシェは鋼の砲弾となって数十メートル先のゴブリンたちに突っ込んでいった。
リリーシェは足跡が地面に大きく刻まれているほどの力で地面をかけていく。
むちゃくちゃ速い……。
「逃げてもらいやすいよう脅かしますか……炎の道を示せ『ファイア・サークル』」
アルくんの力ある言葉とともに、彼の足元からリリーシェの後を追うように見上げる高さの火柱が二本斜めに伸びていく。
「うわあ……」
「なんというか、凄いですね……」
戦場では今まさにゴブリンの一体が大盾で地面に押し潰されている。
身体強化の一撃だ。強化魔法のかかっていないゴブリンは全身の骨が砕けているだろう。
1体のゴブリンはその隙に斧を振りかぶるも、彼女の盾を持っていない左腕一本を前に受け止められてしまう。
そしてお返しとばかりに盾で殴られ火柱の上に転がされた。
「……本当にゴブリン50体を相手にできるのかもね」
仲間の惨状に早くも撤退を決めたゴブリンの背中に鋼の塊が襲いかかり、戦闘は終了した。
「マユちゃん、消化だけしておいて。行ってくる」
「肉体は限界を超え、眼前の敵を打ち砕かん『身体強化』」
(『肉体変化・スパイク』)
靴の先端を突き破り、太い針が数本ずつ飛び出す。
この状態で走れば自然と地面に穴が開き、後を追ってくる人の目印になる。
目で確認せずとも、足の棘が草の根をかきわけ地面に刺さる感触で目印をちゃんと付けられているとわかる。
靴に穴が開いてしまうため多用は避けたいけど……便利でちょくちょく使用するから靴にお金はかけていない。
「いってきます。しばらくしたら追ってきて」
マユちゃんに伝言を残したら炎の壁に沿って、生き残った2体のゴブリンを追いかける。
顔に当たる風で伸びた髪が横にたなびき、かなりの速度が出ていることがわかる。
「チーターとは、さすがに勝負できないかな?」
独り言を漏らすぐらいには余裕を持ってゴブリンたちを追跡する。
―――――――――
近づいては木の陰や草の中に姿を隠し、距離が空けばまたそういった場所を探して近づくことの繰り返し。
時間にすれば20分か30分か。
逃げる彼らは、少し距離を置いて追っている俺に気付かなかった。
途中何度か後ろを振り返ったけど、無事姿を見られることなく尾行に成功した。
「このままだいたいの方向だけでも分かればいいんだけど――ってここは!?」
彼らが走り疲れ速度を落とした先は、昼間でも薄暗い森の入口。
その入り口には車輪の壊れたボロの荷車が打ち捨てられている。
「うーむ、似てる気がする」
入り口に捨てられている荷車は、ナーナ村で悪事を働いていた冒険者たちが食糧を廃棄するときに使用したものによくにている。
村の人たち、食糧だけ回収したのかな?
じっくり見ていると見失うので検分はしないが、こんなところに脈絡なく捨てられている荷車なんてそうそうないはず。
「そうしますと……冒険者が食糧を捨てに来なくなって、これまでは食糧に余裕のあったゴブリンが飢えた?」
そういえばあの事件の時、食糧を持ったゴブリンを見たと言っていた人も居たような居なかったような……。
「なんと迷惑な話だ……」
定期的に補充される餌に味を占めて増えたゴブリンが飢え、街まで手を伸ばし始めたのが今回の原因なのかもしれない。
「なおさら見失うわけにはいかないね」
推測が当たっていれば、集落があるのはほぼ確定。
気合いを入れ直し樹の枝に脚をかける。
安全な場所まで逃げ切れて安心したのか一刻も早く仲間に伝えたいのか、生き残ったゴブリンは大きな鳴き声を森の中に響かせている。
もう取り逃がすことはないだろう。
――――――――――




