ゴブリン退治のまき
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「よ、ようやく着いたのね……」
肩で息を吐くリリーシェの速度に合わせて歩くこと2時間、ようやくゴブリンの被害にあっている街外れの畑につくことができた。
依頼をギルドで受けてから反対側の街の端に行くだけで彼女は鎧の重さに潰れそうになっていた。
「はー、冒険者ってこんなに大変なのね……」
「リリーシェさん……」
精根付き果てましたと地面に倒れ込むリリーシェと、気の毒そうに彼女を見るマユちゃん。
鎧を鳴らし真っ赤になりながらも必死で歩く彼女を前に、急ごうと言える人間は残りの三人にはいなかった。
道中が楽でも後で困るからと『身体強化』を使わなかったリリーシェの根性を今は黙って褒めてやりたい。
「だからユーキは軽装なのね……。勉強になったわ」
俺は動きやすさ重視でいつもの服装―――肌着の上に、荒い生地の袖口がゆったりとした上着、膝下を紐で結んだズボンに革のブーツ――に加えて胸部を守るためのブレストアーマーを装着している。
ブレストアーマーは鉄製ではなくリザードマンの鱗を縫い込んだ革製だ。
軽く、通気性が良いのが売りだけど、防御力に不安が残る。ここぐらいは鉄にしたいが手が届かなかった。
鉄製や上位の魔物の皮には劣るとはいえ、なかなかの品だ。防具は命に直結するから妥協はしなかった。銀貨5枚。
あとは魔物の体液に直接触れないよう、革のガントレットを付けているぐらいだ。銀貨1枚。
俺はたしかに軽装で、自分でもちょっと地肌の見えている部分が多いとは思っている。
ただ、あまり強力な素材で体を覆ってしまうとその部分を『肉体変質』させたときに素材が邪魔で奇襲し辛いと考えての選択だ。
「私は身軽さが売りだから。リリーシェはその大きな盾でみんなを守るんでしょ?」
それぞれの役割があると彼女の持つ大きな盾に手を乗せる。
リリーシェは今回のことで探索に関してはほぼ素人だとわかったけれど、彼女なりの考えがあるから全身鎧で来たんだろう。
「そう、そうよ! あたしに任せなさい!」
盾を両手で天に掲げ彼女は復活を果たした。
ゴブリンはどこだと息まく彼女はマユちゃんに頼んでおいて、俺はアルくんと共に依頼人に会いに行くことにした。
依頼の細かな内容は彼と聞いておけば問題ないでしょう。
畑と隣接する粗末な小屋をノックし、中に居た中年のおじさんに入れてもらう。
音の出るイスに座り話を聞かせてもらう。
「いくら追い払っても二、三日すればまた来るんです……」
おじさんは髭を震わせ悔しそうに話し始める。
「今までは武器を持って追いまわせばしばらくはこなくなっていたのですが。最近になって急に凶暴になりまして……何匹か殺しても無駄なのです」
「ゴブリンがよほど切羽詰まってるのかな?」
「何匹退治しても来るとなるとはぐれゴブリンでなく、集落があるまであるかもしれませんね」
ゴブリンは三体から五体ぐらいの群れで行動する生き物だ。
二、三体倒しても新しいゴブリンが補充されるなら……アルくんの言うように集落があってもおかしくない。
「ですので、次に畑に来たゴブリンだけでなく、どこかにあるゴブリンの巣を見つけていただきたいのです……」
ゴブリンの集落となると二十体ぐらいを相手取る覚悟が要るだろう。
こちらも複数だし集落さえ見つけられれば無理じゃないけど、銀貨1枚はちょっと安すぎないかな。
「集落がなければ適正報酬。集落があれば、溜めこんだ宝物が期待できるかもしれない……どうしよう?」
「――受けましょうか」
後だしで若干詐欺くさい依頼だけど、ここで帰ったら後味が悪いもんね
「おお、ありがたい! ありがとうございます!」
アルくんの手を取り、破顔するおじさんを冷ややかな気持ちで見つめる。
あとでギルドには報告させてもらいますからね。
「それじゃ、ゴブリンが来るまで待ちますか」
小屋を出てマユちゃんたちと合流した俺たちは先ほどの話を彼女たちに伝える。
「わかりました。頑張りましょう!」
「ゴブリンなら1匹でも50匹でも対して変わらないわ」
50匹はさすがに無理だろう……。
とはいえどちらも気合い十分で問題はなさそうだ。
「じゃあ作戦だけど。何度追い払っても数日でまた畑を荒らしに来るらしいから、ゴブリンが逃げ込める集落が近くにあるのはほぼ間違いないと思う。だから、来たゴブリンを何体かわざと見逃して集落まで案内してもらおうと思う」
意見を告げて三人の顔を見回すと、不本意そうな全身鎧が一名いたが反対意見はなかった。
「追跡は反対意見がなければ私がするけど?」
「私はもちろん賛成です」
俺たちのチームで斥候は俺の役割だ。
俺が軽装で動きやすいのもあるし、魔法は一撃が大きい分消費も激しいから無駄遣いは避けたい。
「二人はどう?」
「構わないわよ。あたしじゃ無理だし」
「しかし、女性がゴブリンの集落を見に行くとなると……僕が行きましょうか?」
意外なところから反対意見が出た。
アルくんは仮面で隠されていても、伝わる気遣いを見せてくれている。
野性のゴブリンはときおり人を攫う習性がある。
雄ゴブリン・雌ゴブリンのバランスが崩れるとその習性は表れ、主として子どもや女性を対象に性欲のはけ口として利用する。
集落まで探索すると悲惨な現場を目にするかもしれず、それをアルくんは気遣ってくれたのだろう。
「追跡が得意とかじゃなく、気遣いとかだったら今回は任せて。一緒に組むんだったら役割で考えるべき」
「……わかりました。お願いします」
迷いを見せつつも一応納得してくれた。
これで反対意見はなくなったかな?
冒険は危険を伴う。不覚を取る確率を下げるために、男女の差などの理由を挙げるべきではない。
むろん、画一的な決まりではなく柔軟性が必要だけど。
今回は当てはまらないだろう。
俺は元々男だし、現場を見ても精神的なショックは女性より薄いはずだからだ。
「大丈夫。私、ゴブリン得意」
「なんでかたことなんですか」
苦笑し突っ込むアルくんの頭をポンポンと叩く。
「気にしてくれてありがと」
身長さがほとんどないので、正面から見つめる形になってしまった。
俺の方が年上だからお兄さん風を吹かせたかったのだけれど……残念。
「いえ、ユウキさんこそお気遣いありがとうございます」
「よし、話はまとまったわね! ちょうど来たみたいよ!」
タイミングの良いことに作戦がまとまったと同時にゴブリンの一団が畑の向こうにやってくる。




