新しい出会い
「何というか、見た目が怪しいやつなんだ。悪い奴じゃないんだが……」
やはり問題児らしい。
マスターの言葉を受け、この酒場で世話になっている冒険者を頭に思い描くが問題のありそうなのはそう多くなかった。
誰だろう。
「おーい入ってこいや」
マスターの言葉に、店の奥の両開き扉が開き、二人組の男女が連れだって出てきた。
先頭は少女――大きな盾と立派なフルプレートの鎧を着込んでいる。腰には長剣を付けているけれど、盾と併用できるんだろうか。わからない。
きつい緑色の目が特徴で、睨みつけられているような印象を受ける。短くざっくり切られた髪が戦う人って感じだ。ああ、髪は真っ赤だからきつい印象が強いのかもしれない。
続いて、男の子……だと思う。
先頭の少女と同じぐらい、160センチぐらいか、の背丈の人物が少女に守られるように出てくる。
「マスター……」
「いや、中身はまともなんだよ。こんななりだが! ギルドの紹介状もある!」
二人目は鬼の仮面を被った男の子だった。仮面は口元と目元以外を覆っていて、彼がどんな人物なのかは伺い知れない。
ただ、着ているゆったりとした白が基調のローブには細やかな刺繍が入っていてお金の匂いが放たれている。金色の髪と相まってゴージャスな感じだ。
そんなお金の匂いのする少年が顔を隠しているとあれば、厄介事としか思えない。
「あたしは冒険者のリリーシェよ。ひとまず同じ席に付いても構わないかしら?」
砕けた口調でしゃべりつつリリーシェさん――若干高圧的な感じだから敬称は必要ないかも――が仮面の少年への視線を遮る。
「どうぞ」
着席を促すと二人は俺たちと向き合う席に座った。
マユちゃんの右隣りにリリーシェ、その隣に仮面くん、そしてその隣に俺が座り、ぐるっと円卓を囲む形となる。
円卓の中央には山盛りいっぱいのもやし炒めが鎮座し、場を盛り上げてくれている。
「晩御飯なんだけど、一緒にどう?」
食事の提案をする。
「マスター、僕たち人数分のエールと、森ウルフのシチューを大皿でお願いします」
アルくんはメニューを追加注文して席に着く。
……わかった。この人たちは天使なんだ。
珍妙な出で立ちや高飛車な態度なんてどうでもいい。
彼らは、俺たちにたんぱく質を運んでくれる天使たちだ。
「私はユウキ、拳闘士。彼女はマユ。知ってるかもだけど水魔法使い。さあ、なんなりと話を聞こうじゃない、きょうだい」
「……マスター。あたしらは信用のおけるものの仲介を依頼したはずなんだけど……」
突如態度の変わった俺に胡散臭げな厳しい目を向けるリリーシェ。
「人格的には問題ねぇはずだったんだ……さっきまで」
眉間に手を当てて呻くマスターのおっちゃん。
「飢えは人を変えてしまう……。ね、マユちゃん」
「はい、ユウキさん」
手と手を取り合い瞳をうるませる俺たち。
「……まあいいわ。話を進めましょう」
運ばれてきたエールをリリーシェはてきとうに配って、自分の分をぐいと飲んだ。
俺もマユちゃんも配られた杯に喉を通す。
久しぶりにマユちゃんが出す魔法水以外の飲み物を飲んだ気がする。
「おいしい……」
味のある飲み物ってこんなにおいしかったんだね……。久しくその感動を忘れていたよ……。
マユちゃんにもこの生活をさせてしまっていることを思い出し、鼻の奥がつーんとしてしまう。
「あらためて、あたしはリリーシェ。見ての通り重騎士よ。盾騎士とも呼ばれることもあるわ。後衛のこいつ、アルの守りに特化してるわ」
大丈夫かこいつらといった感情を隠しもせずリリーシェは紹介を始める。
「僕はアルです。火魔法使いです。チームメンバーを探していたのですが……なかなか上手くいかず」
少年は声変わりする前の高い声で困りましたと頭を横に振る。
上手くいかないのは顔を隠しているからじゃないでしょうか。
それと、アルくんの相棒の態度ですね。リリーシェが俺たちに向ける目は探る程度じゃないですよ? 私らに手出しするなら許さんとの万感の思いが伝わってきている。
つまりそれは、仲間を探そうって態度じゃないです。
まあそれでも、
「魔法使いならその怪しい風体でも誘いはあったんじゃ?」
運ばれてきた温かな湯気が立ち上る森ウルフの肉に視線を奪われながら話を続ける。
マユちゃんの勧誘三昧が示すように、魔法使いはそれだけでステイタスなんだ。
多少怪しかろうが素人だろうが関係ない。それ以上の恩恵を魔法使いは与えてくれる。
「ずけずけ言う奴ね……。あたしらにも選ぶ権利はあったのよ」
あった、んだね。
リリーシェは疲れたように溜息を吐いている。
勧誘引く手あまたの中、きっと選んで選んで選んできた結果困窮極まる俺らに行き当たったんだろう。
……もっと余裕のあるときに手を打つべきだったんだろうね。お互い。
「マユちゃん、どう思う?」
「私は構いませんよ。リリーシェさんは女性ですし、アルさんも礼儀正しい子みたいなので安心です。それに……」
あっちが訳ありならこっちの詮索もされづらいですよね?
最後まで口には出さず微笑むマユちゃん。こういう腹芸がさらりとできるのは非常に頼もしい。短い間だったけれど確実にレイナさんからの影響を受けたんだろうね。
それとは別に、何となくだけど口にせずとも伝え合えるってのは心地良いものだ。
この辺りから小説の書き方がなんとなく掴めてきた感覚があります。




