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異世界の冒険者  作者: かやばさん
異世界にいました
32/51

待ち伏せ

―――――――


計画を練ってから実行に移すまでは非常に早かった。

毎夜村長さんに麻袋を倉庫に入れてもらうように頼み、朝に回収する。

麻袋の中には俺が詰まっていて、盗み出してもらうのを待ちながら寝ている。


レイナさんは1週間分の食料を持ってマユちゃんと魔法の訓練に出かけている。

ブラフでも何でもなく魔法戦の基礎の勉強だ。

訓練場所は村外れの盆地――俺が使用している訓練場――だ。


素人さんが1週間も野宿できるのかが心配だったけれど、村に一人隠れて残るユウキさんの方が心配です、と言われてしまい反論ができなかった。


この作戦は俺たちが不在と思われるのが肝要で、万一にも姿を見られるわけにはいかないのだ。

俺は宿屋で半日ごろごろしもう半日は麻袋の中で眠る生活を送らなければならない。


もともと暇が苦手な方ではないし、最大1週間ぐらいならなんとでもなると思い提案したトロイの木馬作戦だったけれど……。



「暇すぎる」


作戦開始から二日目、早くも俺の忍耐力は悲鳴を上げ始めたのだった。


麻袋の中で眠れずに体をもぞもぞさせ、なんとか楽な姿勢を探して寝ようと努めるがうまくいかない。

肉体変化を解除した俺の体には麻袋の布団はかなり手狭だったのだ。


日中、身体強化魔法の特訓が終わった後についうとうとしてしまったのも眠れない原因の一つだろう。

だってすることなくて暇だったんだもん……。


思い返せば暇が苦痛じゃなかったのは、それを潰せるだけの環境が揃ってたんだね。


扉の向こうには今夜の見張り番がいるので、あまり動いて物音を立てるわけにもいかない。


「これは無理だ……」


言ったからには1週間やり切らなければならないが、どうにかして日中の時間の使い方を考えないと辛すぎる。

事が起こるまで寝ているだけでいい俺でさえ二日目にして苦痛を感じているのだから、狩人さんたちがする待ち伏せはいかほどの精神力があれば成し遂げられるのか。


どうか早く来てくれますように……。

不謹慎にもそんな思いが光のない倉庫の中幾度も浮かんでは消えていった。


ううむ、暇だ。




――――――



――何か重いものが落ちたような音がした。

そして、錆びかけの金属がこすれる独特の甲高い音が続く。

寝起きでボーッとする頭でも何かが起きたのはわかった。


すぐさま体をスライム状にし、事態の把握のために耳をすます。

来たのか? それとも朝か?


はたして結果は、前者であった。

扉の開く音のあと、赤い光源を持った人間が二人もぐりこんできた。


どうか、うまくいきますように。


「それにしても、この魔法具は本当に優秀だな。ころっと寝ちまうんだから」


「とっとと運び出すぞ。荷車に乗る分だけな」


二人とも男だ。

無駄口を叩きながら、男たちは台の上に乗っている食糧を運び出していく。


「うわ、何が入ってんだこれ……」


俺の袋を持ち上げた男は感触に舌打ちをする。

何が入ってるんだろうね。


「とっとと捨てに行くぞ、気持ち悪いからな」


確認してもいいだろうに、急いでいるのか男たちは移動を始める。

運び出されてからどれくらい経っただろうか。俺が揺れに気分が悪くなってきた頃。


「へへ、やって……やってやったぜ」


男の一人が、震える声で呟いた。


「レイナ様の居ないうちに村の食糧がなくなったとなりゃあ……その名声にも傷がつくってもんよ」


もう一人の男も興奮を隠せず大きな声で答える。


「これでアーノルド様が領主様になれば……俺らも目をかけてもらえるってもんよ」


……アーノルド、初めて聞く名前だね。

レイナさんの背後には複雑な事情が絡んでいそうだ。

初めて会った時も、雇った護衛に裏切られていたわけだし……。


ねぼすけだったり冗談がわかったりと年相応なのに、レイナさんには領主の娘の肩書きが付きまとう。

それは仕方ないんだろうけれど。色々助けてくれている恩人だし、少しぐらい荷物をもってあげたいと思う。それ以前に彼女はまだまだ子ども。高校生ぐらいの年齢だろう。良い子だし助けてあげたい。


とすると今俺にできるのは……この潜入をきっちり成功させなきゃだな。


改めて気合いを入れ直して、彼らの声に集中する。

こいつらの声聞いたことあるんだよね……どこだっけか。


「これが終わったら、もう村から逃げようぜ。レイナ様が黙ってねえよ」


「……なんならこのまま逃げよう。そうしよう。今なら顔も覚えられてねえだろ」


むう、それは困る。


「『大蛇殺し』もお終いだな。団長さんらには悪いけど人身御供になってもらおう」


そっか。この人らは『大蛇殺し』のパーティーだったのか。

酒場で何度か一緒に食べたことがあるから声に覚えがあるんだ。


「よし、食糧を降ろすぞ」


大蛇殺し……Cランクのパーティー。

Cランクは俺が必死に倒したウッドクォークがDランクの魔物だからそれより一つ上だ。

パーティー全体の連携等々を考慮してCランクなのか、パーティーの平均がCランクなのかでこの二人の実力は大きく異なる。

情報集めが不足していた。


犯人はわかった。逃亡するし、ナーナ村での再犯はない。

食糧の捨て場所も把握できる――確認はしていなけれどこの場に放棄してゴブリンなんかが持ち去るのだろう。

レイナさんが来る以前から盗みを働いていた理由は不明だけど、その調査は別に依頼内容に含まれているわけじゃない。


依頼はこれで達成だ……問題は、ない。


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