作戦密会
ゴブリンの話はさっくり終わる予定です。
「まず、ローラー作戦だけど、これは至って単純。犯人が村の中に居る可能性が高いんだから、全員に聞いてみればいいんじゃないかな。レイナさんの『号令魔法』で。おススメはしない。ただ結果が出るのは早いと思う。もっとも、『号令魔法』が私の考えている通りだったらだけど」
次いで、理想的な条件を伝えてみる。
効果は即効。かつ抵抗できない強制力があるかどうか。
それにしたって難点は、証言のみで裁判してしまうところにあると告げる。
よく漫画で読んだけど、この種のパターンは嘘の告白を強制させた不安を拭いとれないことにある。
どうしたって周りの不信感は募ってしまう。
「『号令魔法』はそれほど万能な魔法ではありません。詳しくは秘密です」
話を聞いて、レイナさんはそんな都合良い魔法ではないと困ったように微笑んだ。
「もう一つは、ばれないようにひそんどいて現場を押さえちゃえばいいと思うんだ。その場で捕まえちゃってもいいけど……」
実に冒険者らしい待ち伏せ作戦だ。
「けれど……?」
「村の人たちが尻尾を掴めないなら、相手は用心深いと思うんだよね。単に見張ってるだけだと駄目だと思うんだ」
「確かにそうかもしれません……では、ローラー作戦で行きますか?」
ローラーはこっちでも通じるんだね。
「私の世界の話なんだけどさ。相手にわざと魅力的な物を盗ませて、それに伏兵を潜ませとくって戦い方があるんだよ」
「……価値のあるものに罠を仕掛ける――こちらでは――貴族の品に手を出すな――ですね」
「貴族こわ……当たり前にそんなことしてるんだ……」
納得したとばかりに手を打つお嬢さま。
「トロイの木馬作戦なら、もしかしたらこれまで盗まれた食糧の行方までわかるかもしれませんが……」
「倉庫に隠れてても犯人に見つかってしまいませんか?」
元々、盗人は用心深い可能性があることが前提の作戦会議。
この村はただで食糧を盗ませてやるほど余裕のある村ではないから、これまでにも罠を仕掛けたことはあったろう。
「そこで、これ」
「袋、ですか?」
取り出したるは、大きな麻袋。
倉庫にたくさん置かれていたので一袋拝借してきました。
袋に足から入り、袋を持ち上げる。
なんとなく、寝袋に入ったように感じた。
「その中に入って待つ、と?」
「そ。ただこれだと見た目でバレちゃうから……」
話しながら、肉体変化で足先から体を液体化させていく。
イメージは粘度の高いスライム状の液体だ。麻の隙間から漏れださないぐらいのぷるぷるを目指す。
どんどんと身長が低くなり、いつの間にやらレイナさんを見上げるほどになってしまった。
もうまともな形で残っているのは首から上だけで、あとは全て麻袋の中だ。
よし、成功した。
「肉体変化、この目で見ても信じられないものがありますね……」
しゃがみこみ、麻袋の中を覗き込もうとするレイナさんを俺は止める。
「レイナさん、けっこう衝撃的なことになってるかもだから見ない方が……」
俺は絶対見たくない。
体が液体化してるだけならまだしも、色や中身がどうなっているのかを想像するだけで冷や汗ものだ。
忠告を受けた彼女は伸ばした手を何度か開閉し引っ込め、床に女の子座りをする。
視線は再び俺の方が高くなり、レイナさんからは袋の中が見えない角度となる。
「ユウキさん、意識ははっきりしているのですか?」
俺を見上げ、覗きこまないぞと決意を態度で示すレイナさんは気遣わしげに問いかける。
「ここまでは平気かな。ありがとう」
ウッドクォークの戦いで何度も肉体変化をしている内にコツでも掴んだのだろう。
大規模な肉体変質にもかかわらず今回のスライム化はほとんど負担を感じない。
ただ、頭の先までスライムにするのは怖い。
冷静に考えると、肺がないのに声だって出せているし呼吸もしている。
スライム状の体だって自由に伸び縮みができそうなので、おそらく、きっと、全身を変質させたって平気だと思うけれどそこまでの勇気はまだない。
「人が来たらこうやって隠れて、運び出してもらうのはどうだろう?」
ズポッと液体の中に首を埋める。
暗闇の中ならこれでもう、中に入っているものなんてわかりはしない。たぶん。
「隠し場所等々を発見したら、すみやかに逃げ出してくださいね?」
「もちろん」
袋から顔を出し、力いっぱい頷いておく。
この言い方なら彼女も賛成かな?
いそいそと体を戻し、肉体変質をした際に脱げてしまった服を着替えていると、レイナさんが右腕にはめていた腕輪を渡してきた。
普段からレイナさんが付けている腕輪だ。
銀色に光り輝いていて、三つの赤い宝石がついている。とても高そうだ。
「これは?」
とりあえず俺も右腕に通す。
留め具なんかは見当たらないから、落っこちそうでちょっと不安だ。
「魔封じの腕輪です。外と内の魔力の伝導性を低くする――内から外へと放出する魔法を使いづらくなる代わりに、外から内へと影響する魔法が効きづらくなる腕輪です。ユウキさんは魔力が非常に通り易いようですので……」
魔法具来た!
右腕を持ち上げて腕輪を触ってみる。
さっきまで高そうな腕輪としか感想を抱いていなかったけれど、なかなかどうして魅力的なデザインな腕輪じゃないか。真ん中の赤い宝石が少しだけ大きいのも素敵だ。
うん、この落っこちそうで危なっかしいところも、扱いづらい魔法具だと思えば――いや、これはやっぱり危なっかしいですね。
「お気に召したようで嬉しいです」
わかりやすく上機嫌になってしまったらしい。
レイナさんは、憧れのおもちゃを貰った子どもを見るような顔になっている。
「そ、それでこれは何のために?」
顔が熱いのをごまかすために話を戻す。
よもや年長者の俺があの微笑ましい視線を向けられてしまうとは……。
枕に顔を埋めたくなったが我慢する。
「今回の依頼はおそらく魔法使いが絡んでいると思いますので対策です」
食糧盗難事件は、倉庫番の村人が手引きしてるのでなければ不可解なところが多い。
推理小説ではトリックやアリバイ探しが重要だけれども、この世界は剣と魔法の世界。
魔法こそが最大のトリックなんだろう。
「ありがとう」
レイナさんにお礼を言って腕輪を触ると冷たく固い感触が心地よい安心感となって返ってくる。
「どういたしまして。そういうわけですので『その腕輪は絶対に外さないでください』ね」
その後詳細を詰め、さっそく明日から作戦を決行することになった。
内容は至ってシンプルに待ち伏せするだけで、連絡方法を決めるのに時間がかかった。
なんとか俺が隙を見て逃げ出して、レイナさんに直接会いに行く
「ところでその腕輪、一度見せてもらってもいいですか?」
「ん? 何か気になることでもあった?」
腕輪を外してレイナさんに渡すと、彼女は一瞥しただけで俺の腕にすぐ戻した。
「ええ、腕輪の効果はきちんと発揮されているようで安心しました」
意味ありげにふふ、と笑っている。
何だったんだろう。
「本当に安心したんです」
繰り返す彼女は嬉しそうで、その笑顔を見ているだけで俺も楽しくなってしまうのだった。
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