話し方とかたつむり
「統治って領主様!?」
あんぐりと口が開いてしまう。
お嬢さまだと思っていたけど、思っていたよりずっと高い地位にいたらしい。
レイナさんはイタズラが成功したかのように目を細める。
「ふふ、ユウキさんでもそんな声を出す時があるんですね」
今ではすっかり言い慣れた『ユウキ』の発音をしながら生粋お嬢さまは微笑む。
つられて、たしかに、と村娘も小さく笑い声を上げる。
「普段はあまりしゃべらないようにしてるから……」
多く話すと男性的な口調が出てしまうため、できるだけしゃべらないようにしているのだ。
結果ちょっと無口な冒険者の出来上がりだ。
「ええー、素敵なハスキーボイスなのに、勿体ないですよぅ」
もっと聞きたいですー、とキャッキャとはやし立てるマユちゃん。
女子か! いや女子だ。
「基本的な魔法の説明は以上です。一にも二にも反復が大切ですので、ユウキさんも身体強化の魔法を忘れぬように頑張ってくださいね」
こうしてレイナさんの魔法講座は終了となった。
あとでこっそり聞いてみると、俺の肉体変化も分類するなら独自魔法になるそうだ。
呪文詠唱が要らないため、そもそも魔法と言えるかも微妙なところらしいが。
そのあとは他愛のない話をしている内に瞼が重くなり、眠りについた。
疲れのため、朝まで爆睡だった。
――――――
朝の目覚めは、爽やかな小鳥の歌声――ではなく、無粋なノックの目覚ましだった。
防音性に優れた部屋として紹介してもらったはずなんだけどな……。
体を起こし、背伸びを一つして来客の対応に向かう。
レイナさんはまだ夢の中のようだ。
彼女は一度寝てしまうとなかなか起きず、今も安やかな寝息を立てている。
「レイナさん、レイナさん。お客さんみたい。出るね?」
かけ布団の盛り上がりを緩く揺すり、声をかける。
「どうぞー。私は隠れていますね……」
布団の中に顔まで潜り、かたつむりになってしまった彼女は置いておいて、ドアに手をかける。
言質は取ったし、いいよね?
「はい。おはよう」
ゆっくりとドアを開けると、村長さんが立っている。
後ろにはギルドのおっちゃんも一緒だ。
「おや、ユーキ様ですか。レイナ・クリストファー様は?」
言外にお前に用事はねえよと言われた気分だ。
寝起きで栄養の回っていない頭にはいささかパンチの聞いた挨拶と感じる。
「今は、出られません。要件は私が伺います」
かたつむりになっているレイナさんを見せるのは――乙女の恥じらいとか領主の娘の威厳とかいろいろなものを壊してしまいそうだ。
「そうですか……。レイナ様とユーキ様に保管庫から食糧がなくなる原因を突き止め、可能なら排除してもらいたいのです」
村長さんは意外にも俺に丁寧に頭を下げた。
先ほどの態度は身分の差が激しい社会だと当たり前だったのかもしれないと、頭の中に浮かんだ不満が消えていく。
短絡的だったかな。村長さんごめんなさい。
「……わかりました。その依頼は間違いなくレイナ様に伝えます」
「ありがとうございます。それでは」
再び年下の少女に頭を下げ、村長は帰って行った。
後に残ったのはおっちゃんだけ。
「何?」
おっちゃんに疑問の視線をぶつける。
「いや、何だ。ちゃんと話せるんだなと思っただけだ」
「できるよ!?」
ただ、しゃべり方の加減がわからなかったので無口キャラで通していたのだ。
実際丁寧語が当たり前なのかどうかの常識すらおっちゃんと話した時の俺にはなかったのだ。
ちなみに一週間を過ごしてわかったことは、あまり気にしなくていいということ。
身分の差があってもどちらの話し方でも問題はなく、相手も不快に思ったりはしないらしい。
とはいえ、相手のことを慮ることができますよ、と伝えるためには丁寧語は一つの手段として確立している、とのことだ。全部レイナさんの受け売りです。
「ま、俺は普段の方がわかりやすくていいやな」
心の中で必死に言いわけしている俺の頭に手をポンポンと置いて、おっちゃんはがははと笑いながら階段を下りていった。
くそう、何かむしょうに恥ずかしい。
撫でられた頭をわしわしと乱暴にかいて、眠り姫様を起こす。
「後5分だけ待ってください……。ユウキさんも女の人ならわかるでしょう?」
「男だから」
「男の人でもわかってくださいぃ……」
布団にくるまりイヤイヤする彼女に根負けし、部屋の隅で瞑想をすることにする。
正座し、目を瞑れば体の中に魔力が巡っているのを感じる。
これまではまったく駄目だったのだけど、昨日の一戦からスイッチが切り替わったかのようにいとも簡単に感じ取れた。
号令魔法を使おうとした時、レイナさん漏れ出ていた魔力よりも少ないけれど、俺の魔力だ。
そうして瞑想を続けて、お腹の音が気になる頃に、彼女はのそのそと布団から這い出てきた。
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