魔法のお勉強
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「そもそも、ユウキさんとマユさんは魔法についてどれくらいご存じですか?」
レイナさんがありもしない教科書を開くような動作をしたところから、魔法講座は始まりを告げた。
魔法――俺はほとんど知らない。不思議なことができるって知識しかない。
それと詠唱が必要だってことぐらいだ。
俺は、全然知らない、と頭を横に振る。
魔法。言葉にすればたった三文字の響きだけれど、その言葉は俺を誘惑し捉えて離さない
ファンタジーに生きるなら魔法に触れたい。使いたい。
その甘美な言葉の講座がここに幕を開けようとしている。
夜は更けてきていても、俺の気持ちは日の出を迎えるというものだ。
「ええと、基本的には、火・水・風・土の四つの属性があります。加えて、人に直接影響を及ぼす補助魔法や独自の系統の魔法があります。あとは――呪文を口にする必要がある、ぐらいですかね。詳しくはわたしもあまり知りません……。」
マユちゃんが指を折りながら魔法の説明をしてくれる。
火、水、風、土の四属性か。まあ基本的だよね。
補助魔法は、身体強化とかその辺りだろう。
「おおむねその通りです。付け加えるならば、呪文に定まった文言はないということでしょうか。自身の意思を口に出すことで明確化し、魔力に指向性を持たせることが重要なので、別に決まった呪文があるわけではないのです。具体的なイメージを形作るのが魔法の基本であり、全てです。」
魔法学校では、イメージをもたせやすくするためにあえて定型文で指導したりもしています、とレイナさんは俺のために説明してくれた。
想像力が全てというのは、ある意味潔くてわかりやすい。
とっつきやすいのが高評価だけど……古代のロマン的なものはちょっと足りないかな。
「じゃあさ、補助魔法ってどんなの?」
たぶん自分の考えている通りだと思うけど、確かめるために聞いておく。
「はい。補助魔法は、身体的な強化であったり、相手に暗示をかけることであったり、病気にしたりと、とにかく人に影響を及ぼす四属性以外の全部が補助魔法に分類されています。幅広いのです」
大ざっぱなんですね。
ちなみに、当たり前のようにレイナさんは語っているけれど、隣のマユちゃんはほへーと口を開けて紅茶のカップをもったまま動かないので常識かと問えば怪しいところだろう。
さすがはレイナさん、お嬢さまなだけあって座学は村人――マユちゃん――の知識量ではなさそうだ。
「では、では。独自魔法について教えてください!」
はいはい、と挙手するマユちゃん。
彼女も魔法使いの卵だから興味津津なのだろう。
「独自の魔法は、一般的な再現が非常に困難――不可能――と言われている魔法のことです。私見としましては誰かが開発してきた魔法ですので、やってできないことはないと思うのですが……他者による成功事例は耳にしたことはありません」
何か特殊な条件があったりするのかもしれない。
ふーむ、まだ付いていけるな。
剣と魔法に憧れている人間ならこの程度設定ともいえないレベルだ。
息をするように自然と頭に浮かぶぐらいの内容だ。
…………俺の黒い歴史はおいておこう。
「そういえば号令魔法って何?」
火や風といった四属性とは関係なさそうだから、補助魔法かな?
それか、独自魔法か。
「補助魔法の一種――ですが、誰でも使用ができるわけではありませんのでクリストファー一族に受け継がれる独自魔法とされています」
独自魔法。心をくすぐられる響きだ。
「効果は至って単純。『ユウキさん、立ちなさい』」
一瞬彼女から魔力が漏れたかと思うやいなや、俺はイスを引き立ちあがってしまっている。
「はー、これが号令魔法……」
驚きの声とともに再びイスに座りなおす。
意思とは無関係に命令を下せるから、号令なんだろう。
「率直に言って無茶苦茶だ……」
どっと出た汗を腕でぬぐう。
レイナさんから聞いたこの世界の魔法はどれも強力で、魔法使いが一人いれば村が滅ぶ事もあるらしいけれど、この『号令魔法』も負けず劣らず強力――いや凶悪だ。
強力というより、凶悪。
うん、しっくりくる。
言葉一つで人を意のままに扱うなんて恐ろしい話だ。
もちろん気付けていないだけで細かい制限なんかはあるんだろう、いやあってほしい。
なかったらやばい。
さきほど『号令魔法』をかけられそうになっていたマユちゃんの顔色は良くない。
そりゃそうだ。心を縛られる寸前だったんだから……。
あっさりとその選択をしようとしたレイナさんがあらためて恐ろしく思える。
と言っても、出会った日には人に留めを刺す場面もあったから、必要があれば冷静な処理ができる人という印象はあった。
その辺りをあまり残酷に思わないのは、記憶がぼやけている影響で価値観があやふやになっているのだろうか。
それとも元々ドライな性格だったのかもしれない。
あるいは、信じていた人に裏切られたレイナさんの境遇に同情しているからかもしれない。
どちらにしても考えていても仕方ないことのような気がしたので、しばらく置いておこう。
「クリストファー一族は、この魔法で武を示し、王国からマニュット地方の統治を任されています」
なるほどなるほどレイナさんの一家はこの地方を統治しているということ――統治?
「統治って領主様!?」
そろそろストックが尽きそう……




