仲間の条件
お風呂も終え一日の汚れを落として、ベットに腰掛けていると一日の疲れが出たのか睡魔が襲いかかってくる。
船を漕いでは、起きるを何度か繰り返しているとレイナさんが俺を見て微笑んでいた。
「だって眠いんだもん……」
どこの子どもかと言いたくなるような言いわけをしていると、部屋に控えめなノックの音が響いた。
「マユちゃんかな」
「おそらくは」
レイナさんが扉に向かおうとするのを手で制し、俺が扉を開ける。
話しかけられただけでマユちゃんはあの様子だったんだ、出迎えられたりしたら倒れてしまうかもしれない。
慎重にドアを開くと、緊張した面持ちのマユちゃんが立っていた。
「あれ?」
何となくいつもと印象が違ったので注視してみると、彼女は昼間より質の良い服を着ており、薄く化粧もしていた。
その影響で普段より大人っぽく見えたのだ。
失礼のないようにと気合いを入れてきたのがよくわかる。
「とっても可愛らしいよ。マユちゃん」
「は、はい。お邪魔します」
軽口を叩いて彼女の緊張をほぐそうとするが、効果があったかは定かではない。
真ん中の小さなテーブルを囲んで、三人で顔を突き合わす。
さて、どう説明したものか……。
三人分のお茶を淹れ、それぞれに配る。
薄ぼんやりと灯る燭台に照らされ、湯気の煙が三人分上っていく。
一口、お茶を含んで、
「……私に聞きたいことがあるんだよね?」
口火を切るのは俺。
遠回りな会話を楽しむ間もなく、本題に移る。
お茶会を楽しむには今日は色々ありすぎた。
「はい、ユウキさんは……その……」
頷いて続きを促す。
「その、『時の迷い人』さんですか!」
マユちゃんは身を乗り出して顔を近づける。今までの逡巡が嘘のような勢いだ。
短い彼女の髪が俺に当たり、石鹸の匂いが鼻をかすめる。
「マユちゃん近い」
すいません、と椅子に座りなおすマユちゃん。
その隙に視線をレイナさんに向けると、彼女は小さく頷いた。
これは話してもいいということだろう。
「たぶん、そう」
やっぱり、と思いを確信したのだろうか。
マユちゃんは短く溜息を吐いた。
「私としては秘密にして欲しいところだけど……どうするつもり?」
「わたしを、あなたの旅に連れていってください!」
「……?」
レイナさんの話では、『時の迷い人』は非常に珍しい。
マユちゃんに脅迫されるとか下手すれば売り飛ばされるなんて覚悟もしていたが不要だったようだ。
「ううむ、そのパターンでしたか」
隣で小さく唸っているレイナさん。
マユちゃんが来るまでに二人で幾つかのパターンをシミュレーションしていたが、このパターンは予想していなかった。
どちらかというと悪い場合のことを想定していた。
「わたし、ユウキさんみたいな冒険者になりたいんです!」
俺の手を取り、キラキラと熱いまなざしで告げるマユちゃん。
な、なんだこれは。
彼女の瞳には隣でそっぽを向くレイナさんなんて映っちゃいない。
お願いレイナさん。知らないふりしないで!
「ええと……」
レイナさんは俺の助けてオーラに根負けし、優雅に紅茶のカップをソーサ―に置くと口を開いた。
「私としましては……」
「ひっ」
レイナさんがしゃべり始めると、マユちゃんは短く悲鳴を上げてイスを鳴らす。
さっきまでレイナさんの方は全く目に入っていなかったのに、すごい反応だ。
「ユウキさんさえ宜しければ、マユさんとパーティーを組むのは悪くはないと思います」
マユさんには魔法使いの適正があるようでしたし、と彼女は続ける。
俺が気を失った後マユちゃんは俺を助けてくれていたらしい。
起きたら辺り一面びしょびしょだったのは彼女の奮戦があったからだった。
マユちゃんが救いの女神を見るかのような視線でレイナさんを見つめる。
そう、実はレイナさんはこの場における最高責任者。
『時の迷い人』の珍しさも重要性も俺は全く理解していない。
下手な返事はレイナさんに迷惑をかけかねず、それは俺の本意ではない。
だからこそ時間の許す限り相談をしてから、マユちゃんの来訪を待っていたのだ。
「ただ、ユウキさんが『時の迷い人』でなかったらの話です」
「そ、そんな……」
一転して絶望の淵に落とされるマユちゃん。
「事は慎重を期さなければなりません。マユさんわかりますね?」
「は、はい……」
『迷い人』は希少で重要。この世界の常識なんだろう。
俺のわからぬ異世界の常識に少し背筋が寒くなる。
「何よりユウキさんは私の命の恩人です。私にできる限りの恩返しをしたいのです」
駄目だ、とレイナさんは言うのだろう。
それだけ『時の迷い人』は重い意味がこの国にはあるのだろう。
「誓えますか?」
「「へ……?」」
「私、レイナ・クリストファーの前で、ユウキさんが『時の迷い人』であることを公言しないと誓えますか?」




