彼女から見るユウキさん2(マユ視点)・戦い終わって
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ユウキさんの一撃は重く、一発毎にウッドクォークの体に大きな傷痕を残しています。
対する魔物の一撃もまた強く、まともにたった一度受けてしまっただけでユウキさんの方腕はおかしな方向に曲がっています。
わたしも援護をしようと魔力を練り込みますが、これまでまともな訓練などしてこなかったつけが来ていました。
攻撃魔法に、ならない。
手の先から水が湧きだしても、その水を操ることができません。
固めることができません。
一人ならユウキさんは逃げられる。
義理も何もない彼女がわたしのために命をかけて戦ってくれているのに、ただ足を引っ張ってしまう。
悔しくて悔しくて視界がぼやけます。
「マユちゃん、調子はどう?」
明るい声でユウキさんが問いかけてくれます。
まだまだ余裕な風を装っていますがわかっています。
彼女はすでに限界でしょう。
動きが鈍くなって、魔物の攻撃を受けとめることが増えています。
せめて、わたしを置いて逃げてほしい。
返事を聞くと、彼女は両腕を合わせて一つの槍に変化させました。
そして突撃の態勢を作り魔物を正面に捉えます。
「食らえええええええ!!」
ユウキさんは叫ぶと同時に爆発的な加速で魔物に肉薄します。
さっきまでとは全く異なる次元の速さ。
「……身体強化、使ってなかったんだ……」
信じがたい光景ですが、ユウキさんは強化魔法なしで魔物と戦っていたのです。
ウッドクォークの口の中に長大な槍を突き刺した彼女は力なく崩れ落ちます。
「やった……?」
魔力を使い果たしたのか、ユウキさんは身じろぎひとつしません。
魔物も力尽きグラグラと揺れ――倒れかけています。
その先には意識を失ったユウキさん。
「お願い!」
このままではユウキさんが潰されてしまいます!
体の中の魔力を練り、手の先に集めます。
魔法とは術者のイメージの具現です。
とにかく早く、多量に水を生んで魔物を押し流す!
「水の流れ、盾となりてユウキを守れ。我が身枯れることなき源泉となりて彼の者を脅かす脅威を押し流せ。事象は矢。奔流となりて我が手より放つ! 『ウォーター・ブロウ』!!」
力ある言葉とともに手から多量の水が射出されます。
イメージ通り、水は矢のようにまっすぐ魔物に向かって突き進みました。
「つっ、」
初めて魔法を使えた喜びを感じる間もなく、想像以上の水の勢いに腕がぶれそうになります。
「お願い……!」
体に力を込めなんとか腕を固定しウッドクォークに水を向け続けると、魔物はユウキさんとは反対側に大きな地響きとともに倒れていきました。
「良かった……」
ユウキさんの無事を確認したすぐ後、わたしの意識も闇に呑まれていきました。
――――――
頭の下が暖かい。
柔らかな草の上で寝ているにしても暖かい。
手を伸ばして、確かめる。
「ひゃ、」
今度は顔の上から声が聞こえた。
何だ、何がどうなってる?
目を開けても、傾いた夕日がしみてよく見えない。
「ユウキさん。……変態さんなんですね」
手でひさしを作ると俺をジト目で睨みつけるレイナさんと目があった。
「あ、いや……ごめん」
思わず飛び起き謝罪のポーズ。
両手をついて、ごめんなさいだ。
「あれ?」
折れていたはずの腕に痛みがない。
「ユウキさんが寝ている間に治療しておきました。無事でよかったです」
ジト目を崩し、微笑むレイナさん。
彼女がここに居るということは、ダリルはうまくやってくれたんだね。
「ごめん、約束破っちゃった……」
腕に手をやって何の約束を破ったか伝わるようにする。
「いえ、あなたは正しい判断をしました。後ろを見てください」
彼女の後ろには泣き顔の子どもたちや心配そうな表情の村人たちが集っている。
そういえば、泣き顔の子どもに囲まれるって――うまく思い出せないけど前にもあったような覚えが――デジャブかな?
「ありがとう。みんな無事でよかった」
にへらと笑いかけると、子どもたちはわんわん泣きながら抱きついてきた。
ダリルも嬉しそうに肩を叩いている。
何だか気恥ずかしいけど、悪い気はしない。
マユちゃんはどうしているかと、視線を動かしてみると複雑な表情の彼女が近づいてきた。
「ケガはもう平気? あの後気を失っちゃってごめんね」
彼女には辛い思いをさせてしまった。
一人残されたのもあるし、俺の変化も目の前で見せられてる。
そりゃあんな顔にもなるよね。
「あの、守ってくださりありがとうございました。ユウキさんって……その……」
口を開け閉めするマユちゃん。
「待ってください」
レイナさんが俺の間に割ってくる。
「そのお話はここでするようなものではないのではないでしょうか?」
有名人――おそらくかなりの立場に居る人――にいきなり話しかけられて狼狽するマユちゃん。
そのとかあのとか意味のない単語を何度か呟いた後、マユちゃんはガバッと頭を下げた。
「た、たしかにその通りです。レ、レイナ様……その、わたしはどうしたら……」
ついには涙目となってしまった。
ただ話しかけられただけなのに、マユちゃんは今にも土下座しかねない勢いだ。
……これが一般的な反応なのだろうか。
これが当たり前だとしたら知らぬ間に俺は不敬罪かなにかの罪を背負っているかもしれない。
「レイナさん、私もしかしてレイナさんにとても失礼だった……?」
怖くなってしまい彼女に伺いを立てる。
レイナさんはこちらを振り向き、俺の鼻を細い指でチョンとつついた。
「かしこまってくださいなんて言った覚えはありませんー」
頬を膨らませ、心外だと拗ねる彼女。
どうやら杞憂だったらしい。
とは言え、かしこまられるだけの立場にある人物なんだろう。
物腰がとても柔らかで、元の世界基準で見ても食事マナーは洗練されている。
と、話がずれていた。
「マユさん、その話は村に帰ってから部屋でゆっくりしませんか?」
俺たちの泊まっている部屋なら防音性能もバッチリだ。
「ははは、はい!」
もげるんじゃないかとばかりに首を振るマユちゃん。
それからみんなで村に帰り、夜を迎えた。
ギルドのおっちゃんや顔見知りの冒険者たちに初討伐を祝福され、なかなか解放されなかったのは余談である。




