彼女から見るユウキさん(マユ視点)
メインヒロインのはずのレイナさんよりヒロインしているマユさん視点です。
少しだけ時間が戻ります。
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「今日はこの、いど、どり?、ていしょく、にしようかな」
「色どりですね。私も同じものでお願いします」
ギルドの食堂でユウキさんたちがお昼ご飯を食べているのを横目に受付のおじさんに渡します。
あれからユーキさんとはちょくちょく顔を合わせることができました。
あの人たちは朝と夜は食堂で食事を取っているし、昼には小動物の狩りや野草探しなんかをしていて、初心者冒険者のようなことを一週間続けていました。
討伐依頼は積極的に受けてはいないみたいです。
野草探しで顔を合わせたときはご一緒させてもらったりもしました。
その時ユウキさんはとても……その、ユニークな人だとわかりました。
わたしでも知っているようなことを全然知りません。
わたしが魔法の真似事で手から水をあふれさせた時も大はしゃぎしてました。もちろんこれはちょっと魔法の才能がある人なら簡単にできます。
木や花の名前も全く知らなくて、わたしが先生になってユウキさんに教えたりしました。
そうすると少し考え込んで、頷いたり首を捻ったりと愉快なポーズをとってくれるので、わたしも教えがいを感じてついついおしゃべりしすぎてしまうことも。
かといって常識がまったくないわけではありません。
むしろ『知らない』以外は、常識人です。
口数こそ少ないですが、立ち振る舞いは冒険者というよりはレイナ様に近いですし、子どもを怖がらせたり手荒に扱うところなんて見たことがありません。
その態度は村の人たちも好印象をもっていて、レイナ様のお付きの人とユウキさんを見ていた人も今では、変な姉ちゃん、という印象に変わっています。
……好印象って言っていいのか不安になってきた。
まあ、村の小さな子の相手をしてくれているのが高ポイントだったんでしょう。
悪い噂は聞きません。
そんなこんなで一週間経ちました。
今日は、ウサギ狩りの日です。
子どもたちはウサギ狩りが楽しみでこの日を心待ちにしていましたし、大人は大人で今日以降の肉の蓄えに直結するので気合いが入っています。
村の若い人たち――と言ってもわたしより年上です――は各方面に散らばってウサギ狩りへ向かいました。
わたしとダリルの二人は、小さい子の面倒を見るのと、その子たちに狩りの経験を積ませてあげる役割です。
比較的近場で狩りを行うので、危険は少ないでしょう。
狩り場に移動中、ユウキさんに会いました。
ユウキさんはトレーニング中だったのか、球のような汗を浮かべており、髪が顔に貼りついています。
その様子に隣のダリルがごくりと生唾を飲んだのは聞き間違いではないでしょう。
わたしだってドキドキしてしまうんですから。
ウサギ狩りの話をすると彼女はついていきたいと言い、メンバーが一人増えました。
子どもたちも気の良いお姉ちゃんが増えたと大喜びです。
そんなこんなでウサギ狩りは順調に進み、今日の成果を分配する時間になりました。
今回はウサギがたくさん取れたので、子どもたちも大喜びです。
よその狩り場ならこれ以上の成果を出しているでしょうから、しばらくの間、村のおかずが一品増えるでしょう。
近くに生えていた樹に集まって血抜きを行っていると、ふいに生温かい風が吹いてきました。なんというか生臭く、ぞっとする風でした。
「皆、危ない!」
突如、近くに居たユウキさんのが叫んだかと思うと、わたしとダリルに巻き付き地面に引き倒されました。
一体何が……!?
事態を確かめるために起き上がろうとすると――いたっ。
地面に倒れた時に変なねじり方をしたのか足首が痛くて立ち上がれません。
「無事?」
ユウキさんが普段にない真剣な声を上げます。
彼女の手にはいつの間に抜いたのか短剣がありました。
「なんとかな」
ダリルも剣を抜き、剣先を樹に向けました。ダリルはケガがなかったようです。
「いったい何が……」
彼らの視線の先には、一本の樹があります。
さっきまでわたしたちが風避けに使っていた樹は、幹の真ん中で大きく裂け、咆哮を上げています。
聞いたことがあります。
森の奥には迷い込んだ人間を食べる魔物がいると。
魔物――ウッドクォーク……。
無理です。
わたしたちを食べる森ウルフやゴブリンを日常的に食糧とする化け物。
駆け出し冒険者のダリルとユウキさん。それ未満のわたし。
わたしたちで勝てる魔物ではありません。
今すぐ帰らなければなりませんが……子どもの足では逃げ切れないでしょう。
それにわたしも……。
パンパンに赤く腫れた脚を叩きます。
……たぶんわたしはもう駄目です。
ほら、ダリルたちも逃げ出す相談をしています。堅実な判断です。
きっと逆の立場なら同じことをしたでしょう。
誰かが犠牲になるのを覚悟で、村へ走る相談を。
そのとき犠牲になるのは脚の遅い誰か――わたし。
当たり前です。わたしたちでは逆立ちしたって叶わない魔物なんです。
それしかないなら、仕方ない。
頭ではわかっているんですが、歯がカチカチなってしまいます。
どうしてでしょう。寒くないのに体の震えが止まりません。
ダリルが子どもたちを連れて丘を下り始めました。
子どもたちは声を上げながら村へ一心不乱に走っていきました。
後に残ったのはわたし――とユウキさん?
「マユちゃん、安心して。ここから先は絶対あいつを通さない」
背中越しの固い声が聞こえたかと思うと、彼女の腕が異様に長く伸びました。
何事かと目をこすると、腕の形が変わっているのがわかります。
一体どこに隠していたのかと思える身の丈ほどの大斧は、ユウキさんの腕から生えていました。
彼女はその異形の腕で魔物の攻撃を受け止めます。
「な、なんですかその腕……」
ユウキさんは土くれのように体の形を自由自在に変えて魔物と対峙しています。
自分の体の形に意味なんてないとばかりに好きに体を変化させる様はどちらが魔物だったのかわかりません。
わたしの常識では、『人』はあんな風になったりはしません。
幻覚、魔物、悪魔、色々な可能性が頭をよぎってしまいます。
どれも可能性がありそうで、背筋が寒くなります。
でも、ユウキさんはその力をもってわたしを守ってくれています。
そこだけは間違えてはいけない、そんな思いで彼女たちの戦いを見つめます。
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