冒険者って?
どうやらここがウサギ狩りのポイントのようだ。
改めて周囲に目を向けると、見渡すと小高い丘の途中で、辺りは背の低い草しか見当たらない。
あとは切り株なんかところどころ点在しているぐらいか。
視界を遮る大きな木なんかは一切なく、遠くにうっすら見える森まで視界が確保されている。
おそらく人工的に整えられた狩り場なんだろう。
ススキ――よく似ているから勝手にそう呼んでいる――なんかが伸びすぎている箇所もあるけれど、開拓村で管理されている場所と考えれば非常に手入れが行き届いていると言える。
「ウサギを坂下から追い立てて、この網の上に乗ったら一斉に引くんだ。あとは網の穴に足を取られてるって寸法さ」
網の目を丁寧に伸ばしながらダリルはウサギ狩りの方法を教えてくれる。
追い立てるのは子どもたちの役割で、網を引くタイミングを計るのが年長者の仕事らしい。
ダリルは護衛だけれども、ウサギ狩りの指示も出すようだ。
なんという総合職。
「ユーキさんはわたしと一緒に網を引きませんか?」
ダリルの次の年長者――マユちゃん。
ダリルとは幼馴染で、小さい頃はいつも一緒に遊んでいたらしい。
まだまだ少女らしさは抜けきらないけれど、大人と少女の中間ぐらいの体付きで、性格は話した感じだと少しおませさんだ。
俺という新しいおもちゃに目を輝かせて質問してきた。
おしゃべりのために誘ってたんだろう。
今も目をくりくりさせて俺に期待のオーラを送っている。
「いいよ。タイミングは教えてね」
短く答えて、隣に座る。
そうして子どもたちがウサギを追い立ててくるまでは小声で雑談に興じる。
なにせ手入れのされている狩り場だ。
見張りだって片手間でも十分に辺りを見渡せる。
「ユウキさん、冒険者ってなんなんですか?」
ひそひそと今日のウサギ狩りについて話し合う。
これまでは俺の髪型や服装、村での流行や都会のうわさなどのファッションについての話をしてきたが、今日は話題の方向が異なるようだ。
「……どうして?」
マユちゃんの意図が掴めず、問いを返してしまう。
冒険者が楽しいかどうかは、ナーナ村に滞在している人たちを見ていれば良くも悪くも自分自身の答えがでそうだけど。
マユちゃんは自分の髪をつまんで伸ばしながら、
「わたし、冒険者になるように村長さんに勧められているんです。でも、冒険者って、お酒が大好きで乱暴で、少し怖い人たちだなって思ってたんです」
明後日の方向を向いて話しだす。
「うん」
おおむね間違っていない気がする。
ピンからキリまで。何でも屋な冒険者は性格も資質も千差万別だ。
紳士的な人もいるだろうけど、それ以上にゴロツキもたくさんいそうな世界だ。
「だからダリルが冒険者になるってずっと言っていたのも、心の中じゃ冷めた目で見てたんですよ」
「ですが、ユウキさんたちが村にやってきて。ダリルと楽しそうに話しているのを見るとわたし間違ってたのかなって。そう思えてきたんです」
「だから冒険者のユウキさんに教えてほしいです。冒険者って何なんでしょう」
最後は一息に言いきった。
「うーん」
今度は俺が髪の毛をいじる番になった。
もみあげを人差し指でくるくるとまいてしまう。
何なんでしょう、か。
難しい質問だ。
粗野で乱暴者。この認識は間違っていない。
世の中にはそれこそ夜盗や山賊と大差ない冒険者が数多くいる。
マユちゃんはそんな冒険者を幾度か見てきたのだろう。
だから彼女が抱くイメージは間違っていない。
ナーナ村に滞在しているCランクパーティーの『大蛇殺し』も口は悪いし、すぐにげんこつを落とす人たちだった。
しかし、正しくもないだろう。
俺が前世で憧れた冒険者はそうではないし、『大蛇殺し』も言葉づかいは乱暴だけど、話せば気の良い人たちだった。
さまざまな依頼は命に関わるものだってあるので、口の代わりに手が出てしまうのはある種当然ともいえる。
誤解を生じやすい職業なんだろうなあ。
じゃあ冒険者ってどんな人間なんだろう。
そうだなあ――。
「乱暴、夢見がち、無謀。地に足がついていない。不潔。酒に呑まれる。欲深い……」
突然始まる欠点あげ。
まさか冒険者からそんな評価が出るとは思わなかったのか、マユちゃんは口をぽかんと開ける。
「賭け事が好き。異性に弱い。言葉づかいがなってない。ないない尽くしの駄目人間なんだろうね。ほとんどの冒険者って」
「は、はい」
清廉潔白な冒険者。誰にでも紳士的で行儀の良い完全無欠の人格者。
探せばそんな人格者もきっと世界のどこかに居るのだろう
だけど、
「冒険者は間違いなく駄目人間の集まりだよ。ただ――彼らは何かのために命を賭けられる人、なんだろうね」
少なくとも俺が前世で憧れた冒険者はそんな人間ではなかった。
駄目人間だって良い。ただ一つ、自分の価値観を貫き通したいとあがく冒険者に憧れた。
「命を張るほどの何かに飢えている、そんな人が冒険者なんだろうね」
はへー、と息を吐くマユちゃん。
「わかったようなわからないような……。やっぱりよくわからない、です」
「言ってる私も、何となくそう思うだけだから参考にしないで」
マユちゃんの反応に、急に恥ずかしくなって顔を背ける
血が顔に上っていくのがわかる。
うう、語ってしまったあげく相手にうまく伝わらなかったよ……。
こういうのは苦手だ。
「ほ、ほら子どもたちがウサギを追い立ててきたよ」
場の雰囲気を変えるために、走る子どもたちを指差して言う。
子どもたちは真剣に、それでいて楽しそうに駆け上がってくる。
少し前方の草むらが左右に揺れて移動していることから、小動物――ウサギのはずだ――が逃げてきているのがわかる。
「それではわたしたちの仕事をしましょうか」
もっと話を聞きたかったんだけどなー、と言いながらマユちゃんは網を持つ手に力を込める。
いよいよだ。
初めて感想をいただきました。
うれしいーー!




