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異世界の冒険者  作者: かやばさん
異世界にいました
17/51

村娘――マユ登場(マユ視点)

新キャラ登場です。



――――――――


「マユは冒険者を目指すべきじゃ」


飽きもせず毎日村長さんにそう言われるのにも少しずつですが慣れてきた今日この頃。

わたしは冒険者になれるそうです。

と言いますのも、攻撃魔法を使えるほどの潜在魔力があったからです。

ほとんどの人は身体強化を使えるぐらいの魔力しか持ち合わせておらず、とても他の強い魔法を使ったりはできません。

周りに影響を及ぼせるほどの素養があったので、村では冒険者になってほしいと皆から思われています。

村出身の冒険者がいれば、何かと融通してもらいやすく村の大きな助けとなるからです。


それに、限りなくゼロに近い話ですが、有名な冒険者の出身地となれば一つのステータスにもなりえます。

ナーナ村は貧しいので、少しでも生活が楽になればとみんな願っています。

魔法を扱う才能があったからこそ、活躍を期待されているのです。


けれどもわたしは、あまり冒険者が好きではありませんでした。

というより怖かったのです。


わたしたちの生活をよくしてくれる職業であることは理解しているのですが、実際に村に常駐する冒険者さんや、行商の護衛をしている冒険者さんたちはみんな力強そうで、とても怖かったです。


だから冒険者に憧れているダリルを変わっているなあと思っていました。



転機が訪れたのは、つい最近。

村に、レイナ・クリストファー様がいらっしゃった時のことです。


あの日、うちの村には激震が走りました。

なにせ領主様の長女、レイナ様が村を訪れたのですから。

風のように情報は広がり、一目レイナ様を見ようと村の人たちが大勢冒険者ギルドに詰めかけました。

わたしは出遅れてしまい見にいけませんでしたが、ギルドのおじさんが物見遊山は追い返したようです。

素敵な女性と聞いていましたので、わたしも遠目にでも拝見したかったのですが……。



次の日、配達物を届けるため冒険者ギルドに寄った時のことです。


――変な人がいました。



きめ細かくつややかで、美しく輝く金色の髪をした女性はレイナ様でしょう。

レイナ様はとてもお淑やかな女性だと噂で聞いたことがあります。

ぱっと見ただけで、背筋をまっすぐ伸ばしてナイフを口に運ぶ姿はこれまで見てきた冒険者さんたちとは異なっています。


ああ、これが貴族様なんだ……。

思わずため息。


そして、変な人はその隣に座っていました。

ついレイナ様を見惚れ、気付くのが遅れましたがとてもおかしな人です。

まず服が変でした。

簡素な作りで派手な装飾は見当たりませんが、あまりに薄着です。

今の季節は寒くないといえ、手足を露出するのは旅する者の格好ではないと思います。

髪色も髪型も初めて見ました。黒髪は街でも非常に珍しいと商人さんから聞いたことがあります。彼女は光を吸い取るまっすぐな黒髪を頭の横で軽く結び、頭を振る度にふわふわ揺らしています。

後ろに括るのは知っていますが、あえて横に括る意味はなんなのでしょう。

可愛らしい感じはしますが、作業の邪魔になりそうです。


そんな彼女はちょっと顔をしかめながら食事を取っています。

隣のレイナ様は柔らかく口元を緩ませながら食べていますが、黒髪の女性には合わないのでしょうか。

ここの食事は村でも美味しいと評判なのですが。


「ん? こっちを見てる?」


黒髪の女性がわたしに気付き顔を上げました。


しまった、お仕事で来たのに注視しすぎました!


「ご、ごめんな……?」


無礼な振る舞いを貴族様にしてしまい、罰を受けるんじゃないかと謝罪の言葉を口にしようとしましたが、最後まで口にできませんでした。


黒髪の女性、その瞳に目を奪われてしまったからです。

髪の色と合わせた、黒。

体中に電撃が走り、まるで魔法攻撃を受けたかのようでした。

黒曜石よりもなお黒い彼女の瞳は、ギルドの明かりを反射し夜空に浮かぶ月のように輝いていました。

わたしの意思などお構いなしで、彼女の目から視線が外せません。

わたしはさながら月を目指して飛ぶ蛾といったところでしょう。

惹かれて飛んで、届かない。



「し、失礼なまねをしてしまい、その……あの……」


どうしても次の言葉が出てこず、そしてついには仕事を果たせず冒険者ギルドから逃げ出してしまいました。


「なんだったんだろう?」


「ユーキさんの目と髪は、一部の人には人気がありそうですから……」


背中越しに二人の声が聞こえてきました。

そうですか、彼女はユーキさんというのですね。



そうして家に逃げ戻り、配達の仕事をすっぽかしたことを村長さんに怒られているときも思い出すのはユーキさんの姿でした。

わたしがこんなに惹きつけられる理由、それは絵本の中にあるはずです。


今日の仕事を終えベットに飛び乗ると枕の横の荷物入れから、擦り切れた一冊の本を取り出します。

幼いころ、父と母に無理を言って買ってもらった国の始まりの昔話です。


建国の絵本は何冊かありどれも人気ですが、この本は特に子どもたちに一番人気の絵本です。

その人気は毎年新しい挿絵と共に再版されるほどです。

買ってもらったときは嬉しすぎて抱きしめて寝た思い出があります。

読み過ぎてぼろぼろになった今では、父と母の形見として大切に保管していました。


もちろん中身は暗記していますが、確認のために期待に震える指で絵本を開きます。


中には異界の知識をもって初代王を補佐した賢者様の物語が広がっています。

彼が提案した施策は今では生活の必需となっていて、国の時代を三世代進めたとも言われています。


この絵本でわたしの大好きなシーンは、賢者様が王様に意見する場面です。

王様にそんなことをしたら大変なことになってしまうのに、彼は恐れませんでした。

杖を片手に王に向かい堂々と立つ姿はとても格好良く、憧れました。


賢者様の一番有名なシーンで、街では華やかな劇にもなっています。

一度見に行ってみたいです。



そこには彼の絵が大きく描かれていたはず―――あった!


わたしの記憶通り、頭の先からつま先まで真っ黒なカラスのような不気味な人物が描かれていました。

この不気味さこそ良いんだ、と子どもたちに大人気な賢者様。

これまで何の気なしに読んでいましたが、その髪や目の色は本当に真っ黒です。


村の人や冒険者さんでそんな色は見たことがありません。

今日生まれて初めて黒い人を見ました。ユーキさんです。


絵本を閉じます。

あらためて絵本を読んで確信しました。


彼女――ユーキさん――と目が会った瞬間の胸の鼓動の高鳴り。息をするのも忘れ立ちすくんだこの衝動は、幼いころ夢見た『憧れ』に出会えた嬉しさからだったのでしょう。


彼女がわたしを見た瞬間、その瞳の輝きについ魅せられてしまいました。

ユーキさんがどうこうではなく、黒目・黒髪なのがいけないのです。

わたしを虜にした『憧れ』がそこにあったのですから。


とはいえ、彼女自身に魅力がないかと考えればそうではありません。

スプーンを口に咥えて眺めるその表情、首の動きに合わせてわたしを誘惑する黒に濡れた髪先。今思い返しても素敵な女性でした。


……なんというかミーハーな気がして恥ずかしくなってきました。

相手は話したこともない人です。

性格なんて粗野で粗雑で乱暴者かもしれないじゃないですか。

昔お母さんが人を見かけで決めつけてはいけませんと言っていました。

ちょっと素敵な人に会えたと浮かれてしまいました。


いけないいけない。


頭を振り、吐いた息とともに心の熱を逃がします。

冷静な頭でユーキさんを振り返ってみると――そういえば少しハスキーな声でしたね。

若干男の子のような雰囲気ととても合っていましたね――って違う違う。


そんなこんなで夜が更けるまで考え事をしていたせいで、次の日は寝不足になってしまいました。


村長さんに聞いてみるとユーキさんは冒険者なんだそうです。

冒険者ということはきっと冒険者ギルドに顔を出すはずです。

これまで荷物を届けに行くのが嫌だったギルドへ行くのが、少し楽しみになってしまいました。

自分の単純さに頭が痛いです。


――――


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