冒険者適正 中
「嬢ちゃんの現在の能力だけどな。
種族は人間。
性別は女
年齢は18歳か。若いな。
性格は、調和を好む緑。協調性の少ない冒険者たちをまとめる役にいいんじゃねえの?」
胡散臭い性格診断みたいな結果だ。
大丈夫かこれ。
「ここからが本題だな。嬢ちゃんの現在の能力値だな。何も知らねえと思うから少し細かく言うぞ。
まずは、
体力はDクラス、訓練を初めてしばらく経った兵士ってことだ。使えんことはない。
筋力はEクラス、一般人だな。ま、ルーキーならこんなもんだ。
敏捷はCクラス。敏捷は足の速さや反応速度なんかを合わせた総合的なもんなんだが、Cクラスならちょっとした売りに出来るぜ。
精神はAクラス。これは大したもんだ。Aクラスなんざほとんど見たことねえ。まぎれもなく一流だ。とはいえ精神は戦いに直結するわけじゃないのが残念だが……。
魔力は、あー、えーと……Fクラスだな。体の中に流れる魔力量自体はD程度はあるから、自己強化ぐらいは可能だが……。魔力耐性がほとんどない。幻覚魔法や催眠魔法なんかに非常に脆い。致命的に弱いから、とにかく気を付けるべきだな。うん」
最後の方は言い淀みながらもおっちゃんは検査結果を報告してくれた。
話を聞いてみると冒険者としての資質が欠けているわけではなさそうだ。
敏捷や精神力なんかは初心者としては高い方なようだし、もしかしたら冒険者としてやっていくのも不可能ではないのかもしれない。
――魔力関係には全力で目を瞑る。
しかし、レイナさんや女冒険者の魔法を直に見てみた上で考えると、この世界で魔力が低いのは大きな欠点だ。
おっちゃんの反応からもそれは窺える。
まあ、今後どうにかして伸ばしていくのも不可能ではないだろうし、悲観はしないでおきたい。
「全体的に見ると、冒険者としてやっていくのに問題はねえな。むしろうちのしまで登録をしていって欲しいぐらいだ。性格も悪かないから、今後に伸び代がある」
この検査の測定方法はわからないが、クラス分け自体は非常に単純な仕組みだろう。
おそらく多くの冒険者からデータを集め、数量化し、一定基準を満たしているものを○○クラスと分類する方法だ。
そうだとしたら、この検査は測定方法が正しければ信憑性のおけるクラス分けだと思う。
だとすると、冒険者として生きるのは十分に一つの道と言える
「能力値から行くと、俺なら敏捷を生かせるレンジャーとして登録するのがお勧めなんだが……」
歯切れ悪いおっちゃん。
どこか納得しなさげに腕を組んで頭をひねっている。
「なんだが?」
先を促す意味を込めて、彼の最後の言葉を借りる。
「見聞の玉は嬢ちゃんの適正職をグラップラー、つまり拳士、それとアサシンと推してんだよ。暗殺者なんざ冒険者の登録としちゃ認められねえし、グラップラーは……嬢ちゃん筋力ねえのにな」
おかしな話だ、と椅子に腰かけ考え込む。
数多くの冒険者を見てきた彼は自分の見立てに自信を持っていて、同じぐらい見聞の玉の情報に信頼を置いているのだ。
それが今回はすれ違っているからおっちゃんの中でもやもやしたものがうずまいている。
目の前の少女――俺――は何者だろう、と。
「なあ嬢ちゃん。面白いもんでも隠してんじゃ……」
おっちゃんは身を乗り出し、顔を近づける。
大きく釣り上った口元は、悪だくみをする少年のようだ。
怪しまれてるわけじゃなさそうだから、良いんだけど。
ひげもじゃの大きな顔がむさくるしい。
「たとえ冒険者仲間であっても、無理やり人の魔法を聞きだすのはご法度。ましてや彼女は冒険者ですらない一般人のはずですが?」
店の奥から湯気を立ち昇らせて現れたのは金髪の少女、レイナさんだ。
部屋に備えてあった綿のバスローブに着替えており、リラックスした格好となっている。
彼女の頬は薄く赤みがかっていて、旅の疲れも少しは癒えただろうか。
「おっと、レイナ・クリストファー様。村自慢の露天風呂はいかがでしたか?」
会話のターゲットを俺から外し、彼女の下に飲み物を持っているおっちゃん。
おっちゃんも宿の上客をほっぽりだして俺と雑談するつもりはなかったようだ。
助かった。
この世界の常識のない現状、下手に探られると要らないことまで話してしまうところだった。
なにせ何が常識で何が非常識かもわからないのだ。
そうなってしまったら藪で蛇だ。
「とはいえ、ユーキさん。私としましてはギルドに冒険者として登録しておくのは良い案だと思います」
隣宜しいですか?、と確認してからレイナさんは隣に座る。
座った時、ほんのり甘い香りが広がる。
無事汚れを落とせたみたいだ。
「ユーキさんの身分を保障するために何でも構いませんので登録しておくべきです。その点冒険者ギルドは来るもの拒まずですので比較的容易に登録が可能です」
おっちゃんの目を盗みながらこそこそと耳打ちするレイナさん。
「そういうことなら、登録しとこうかな」
カウンターに戻ったおっちゃんに近づき、冒険者登録したい旨を告げる。
おっちゃんは破顔し、またもや俺を叩いた後、必要な書類を持ってきた。
なんでそんなに嬉しそうなんだか。
「ふふ、有望な冒険者を輩出したギルド員には報償が出るんですよ。ユーキさん、期待されていますね」
レイナさんは俺の隣に立ち、おっちゃんとのやり取りを見て微笑んでいる。
「ほれ、これに必要事項を記入してくれ」
トン、と置かれた作りの荒い紙にはまるで読めない文字が細かく書いてあった。




