冒険者の宿★イラストあり
それから、レイナさんの隣に立ち村を歩く。
道端で開かれている露店では、干された拳大の赤い果実や干物、燻製など保存に向いた食材が売られていたり、実用的なナイフや薪割り斧など生活用品が多く売られていた。
期待していた、異世界的なマジックアイテムや魔術書なんかは置かれていない。
ザ・異世界といった感じではなく、古きよき中世の村、といった印象だ。
少し残念な気分になったが、革の鎧に身を包んだ冒険者風の数人――仲間かな?――が笑いながら家屋から出てくると、失ったテンションも元通りであった。
「こちらになります」
村長さんは辺りの建築物と比べると、大きな建物を前に足を止めた。
木造建築で、3階建てぐらいかな。
「こちらがナーナ村で一番安全な宿でございます。完全個室制で、各部屋には防護魔法を付与しております。時間で男と女が交代となりますが、共同風呂も屋外に設置しております。また、一階は冒険者ギルドの出張所となっておりますので安全性も高い村自慢の宿です」
お風呂があるのか。
以前の俺はきれい好きではなかったが、一夜明けて泥だらけの体はさすがに気になる。
入りたい。
「案内ありがとうございます。ユーキさん、こちらの宿で「決めましょう!」
被せるように声をあげる。
さっきまで一言も話さなかった人間が急に叫んだものだから、村長さんは驚いたようにこちらを見ている。
「そうですか。では、こちらでお願いします」
そう言って彼女は、ローブの袖から革袋をだす。
レイナさんは、袋の中に手をやり、金色に輝く一枚の硬貨を取りだすと、村長さんに手渡した。
「しばらくお世話になります。部屋は一つで大丈夫です。お金はヴィリーさんに渡せばよろしいでしょうか?」
村長さん――ヴィリーというらしい――に硬貨を握らせるレイナさん。
ヴィリーさんはうやうやしく手を出し、受け取った硬貨を見て息を飲んだ。
何度も手を握っては開き、受け取った硬貨を確かめている。
高いんだろうなあ。
本人も身分だけはと言っていたし、村人たちも彼女の顔と名前を知っていた。
普段は目に出来ない価値あるお金なんだろう。
お金か……。
早くこの世界に慣れて、自分で生活できるだけの基盤を整えないと。
いつまでもレイナさんのやっかいになっているわけにはいかない。
「い、いくらでも泊っていってくだされ」
ヴィリーさんは足早に冒険者ギルドの扉を開いて、宿の手配のために入っていった。
「すいません、勝手に一室だと言ってしまって……。ご迷惑でしたか?」
ヴィリーさんが中に入ったのを確認してから、彼女は言った。
迷惑をかけているのはこちらだし、俺が元男性だと知っている彼女に問題がないのなら特に言うことはない。
せいぜいガードのゆるさを窘める程度だ。
「二部屋取るのもお金が必要になるしね。お世話になっているし特に言うことはないよ。ただ、理由があるなら話してくれると嬉しいかな」
「お金のこと、二部屋だと相談が一々手間なこと、村の人たちに信用できると言った手前など、理由はいくつか挙げられますが……何故でしょうね」
なんとなくだったんです、とレイナさんは続ける。
なんとなく自然と、一部屋で頼んでしまったらしい。
人寂しかったのかもしれない。
彼女は見た目十八歳前後でとても二十歳を超えているようには見えない。
あんなことがあったばかりだし、誰かと近くにいたい気持ちがあったってそれは当然のことだ。
「それじゃ、中に入ろうか」
気にしないよ、と率先して冒険者ギルドに近づいていく。
西部劇の酒場に出てくるような両開きの扉を開き、中に入る。
正面には受付の男性が立っていて、ヴィリーさんと話をしている。
その隣に木製の階段があり、そこから二階へ上がれるようだ。
一階は、食事処も兼ねていて丸テーブルがいくつの並んでいて、何人かの冒険者が肉料理を食べている。
壁の一面には、依頼票だろうか――俺の視線より少し高めの位置にたくさんの紙が貼ってある。
もちろん書いてある内容はわからない。
冒険者たちは俺にチラッと目を向けると、何も言わず自分たちの食事に戻った。
ほっと息を吐く。
変に絡まれたりしなくて良かった。
異世界において、中途半端なチンピラ冒険者に絡まれる確率は俺の知っている物語では必ず起こるイベントであった。
それに今は何故か少女の姿になってしまっている。
ナンパ程度ならともかく、乱暴や人攫いなんぞ絶対に遭遇したくない
普段から戦うことを生業としている彼らと、争って勝てる見込みはないだろう。
そんな不安が外れたことで安堵の息を吐いたわけだ。
「それではこちらにどうぞ」
受付の男性――おっちゃんだ――に促されて、木製の階段に足を乗せる。
作りはしっかりしていて、コツンと重厚な音が鳴った。
「レイナさん、こっちだってさ」
遅れて入ってきたレイナさんを迎えに行く。
ちなみに冒険者たちは、レイナさんには興味津津な視線を送っていた。
失礼な人たちだ。
不躾な視線から離れるために、彼女の手を取り、とっとと階段を上る。
人に嫌な視線を向けてはいけません。
二階はまっすぐな廊下が伸びていて、その左右に部屋が等間隔で配置されている。
これまた木製で――樫の木みたいな色合いと重みだ――外開きの扉だった。
一番奥の部屋に案内され、説明を受けた。
まとめると、
朝食と晩御飯は一階ででる。
昼食も言えば作る。
部屋の掃除等は受付に言えばしてくれる。
風呂は一階に降りて右。
風呂の時間は貼り紙を見るように。
とのことだった。
滞在期間や、別途必要な料金などお金に関わる話は一切なしで、レイナさんの支払った額のとんでもなさが想像できる。
なにもかも世話になってしまって申し訳ない。
自分が大変な時に、右も左もわからない俺の世話を焼いてくれるのだ。
この恩にむくいなければ人間失格の烙印を押されても文句は言えない。




