開拓村――ナーナ村
村。
俺の記憶にある村は、市町村の中で最も人口が少なくひなびた印象がある。
人口は減少するばかりで雨風に晒されてボロボロに錆びた住居がたくさんあり、緩やかに衰退していく地域のことだ。まあもっともそこまで極端な例ばかりではないだろうが。俺はそんな印象を村という言葉には持っていた。
ところが、レイナさんに連れられて立ち寄った村はそんな印象とは真反対であった。
これから大きくしていくだろう開墾している土地があり、新しく作られている多数の家屋、行商人が床に商品を並べ声を張り上げている。
こういうのなんて言ったっけ――そうだ開拓村だ。
これから発展していくだけの十分な土地があり、経済発展が見込める地域、そんな村に見えた。
ただまあ、人口は百人単位といったところか。三百人は居ないだろう。
外から見えるいくつかの家屋からは湯気が立ち上っており、今が昼時だと思い出させてくれる。
「ここはナーナ村です。マニュット地方の端にあって、王都へを繋がる道沿いの村です」
マニュット地方の重要な村なんですよ、とレイナさんは続ける。
「なんか騒がしいね」
村の入り口で武器を構えた若い男たちが集まっている。
――武器というより農具か?
名前は忘れたが、フォークのようになっている農具が実際にあった気がする。
「嫌な予感がしますね」
同意見だ。
厳しい表情を浮かべる彼らはこれからランチを楽しむようには見えない。
「どうかしたのですか?」
レイナさんが近づき、彼らに声をかける。
率先して人助けしようと出来るのは彼女の良いところなんだろう。
彼らは一様にレイナさんの顔を見て、口を開けたあと、地面に頭を垂れた。
やはりレイナさんは良いところのお嬢様だったようだ。
俺も彼らのような態度を取った方がいいのかもしれないと思いつつ黙って見ていると、レイナさんは頬をかいて苦笑いを浮かべている。
頭を下げている彼らはそれに気が付いていない。
……ま、俺との距離感はこのままでいいでしょう。
駄目だったら誰かが教えてくれるよね、きっと。
「それで、どうかしたのですか?」
彼女は頭を上げるように彼らに告げる。
そしてこちらを振り向き、近くに来るように目で告げる。
「それが、奇妙な事件なんですよ……」
話し始めたのは、入口に集まっていた中ではたった一人の老人で、彼は村のまとめ役の立場にあるらしい。
「異変に気が付いたのは倉庫番でして。うちの村の農作物が少しずつなくなっているんですよ」
「始めは勘違いかと思ったのですが、毎日減っていて。合計するとかなりの数になります。ただ、おかしなことに誰も倉庫には近づいていないんですよ」
怪しいのは倉庫番だな。
「そんな時、冒険者から芋を運ぶゴブリンを見たとの情報が入りました」
「なるほど。ゴブリンは農耕をする習性はありませんからね。つまり何らかの手段で手に入れたということですね」
レイナさんが納得して頷くとと、我が意を得たりと若者たちが口々に騒ぎ立てる。
失った村の収穫物のはずだと。
「この辺りにはほかの村はありませんから、うちの若者たちが言うようにほぼ間違いはないのでしょうが……。いかんせん盗み出した方法がわからんもので。早まるなと伝えておった所だったのです」
話は単純だった。
血気盛んな若者はゴブリンを討伐したい。
村長(?)は慎重論を唱えているわけか。
「村長さん、でいいんですかね。村の人でなく冒険者に頼んだりはしないんですか?」
これから大きくなっていく村なら冒険者パーティーの一つや二つぐらい来ていてもおかしくはない。
「頼めんことはないんですが……、彼らもその、容疑者の可能性がありますので……」
言いづらそうに、俺、ではなくレイナさんに向かって返答する村長。
犯行の方法がわからないのでは、冒険者を信じきれないのだろう。
気持ちはすごくよくわかる。
冒険者が善人の集まりでないことは昨日のレイナさんへの裏切りでよくわかっている。
ああ、俺が憧れた冒険者たちはしょせん物語の中だけだったんだろうなぁ……。
冒険者は何らかの事情や考えで一発当てようと思って集まった根なし草でありドリーマーであることを考えてみれば当然なのだが、残念な気持ちになってしまう。
「お話はよくわかりました。ありがとうございます。ところで、私たち二人が数日泊まれるだけの宿はありますか?」
意外なことにレイナさんは食糧紛失問題には触れなかった。
彼女の気質なら手伝いを申し出そうだったんだけど。そうでもないみたいだ。
レイナさんの今置かれている状況を思い返すと人助けしている場合じゃないもんね。
「ええと、あるにはあるのですが……その、レイナ・クリストファー様……?」
「はい。なんでしょうか?」
マシュマロの微笑みを浮かべる彼女。
俺にだってわかるんだから、レイナさんも村長さんの言いたいことはわかっているはずだ。
だけど、レイナは自分からは決して手伝うとは言わないつもりだな。
後ろの若者たちもたじたじだ。
「レイナ様に、調査依頼を出すというのはその――出来ませんか?」
おお、村長さん頑張った!
「可能ではありますが、そうですね。正規の依頼として、冒険者ギルドに条件を提示していただきたいです。それと後ろの方たちも納得のいくものであれば話を伺いたいと思います。いかがでしょうか?」
今にも飛び出していこうかと話し合いをしていたんだったか。
すっかり忘れていた。
村の意見をないがしろにして勝手にしゃしゃりでるのは得策じゃないもんね。
「わ、わかりました。それではこちらにどうぞ……」
村長さんはちらりと俺に目をやる。
「旅の同行者、ユーキさんです。信用のおける人ですので心配要りません」
彼女は俺の手を取って、無害アピールする。
すらすらと淀みなく流れ言葉に、村長さんたちは納得したようだ。
あんな目にあったんだし、本当は俺なんてまだまだ彼女にとって信用のおける人物になっていないだろうけどね。
「では、こちらへどうぞ」
村長さんが先導し、若者たちの前を通り抜ける。
彼らはレイナさんと目が合うと、すぐに目を伏せ頭を下げている。
小さな声で、レイナ様に頼んでみよう、とか、これで一安心だな、とか呟いている人もいた。




