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竜の翼ははためかない2 〜竜の瞳より鋭い視線で〜  作者: 藤原水希
第九章 真昼の月、夜の領域
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チャプター63

「なんで急に雪なんか……」

「こう寒くっちゃ、まともに戦えねーよ……」

 急に下がった気温に、悪魔ですら戸惑いを隠せないでいた。

『なんだこれは! 私は天候を操ったりはせぬ! いかに本調子ではないとはいえ!』

 魔法の力を使い、昼を夜に変える悪魔とて、天候や気温を操ったりは出来ない。もちろん、それをゲートムントたち三人は知らないのだが、この動揺っぷりに、否応なく思い知らされる。

「お前がやったんじゃないのか!」

「俺も、てっきりお前が苦し紛れにしでかしたんだとばかり……」

『私ではない! これは私ではないぞ!』

 それでは一体誰が。いや、何が起こっているのか。謎は尽きなかった。




「ふっふっふ、上手く行ったわ〜」

 茂みに隠れて、エルリッヒはひとりほくそ笑んでいた。ものは試しと、人間の姿のままで本来の姿の時のように、自然を操ってみたのである。気温を下げ、雪を降らせるという現象は、本来の姿の時に起こす、「吹雪を伴う嵐」に比べれば、いくらも弱い。だが、自然を操る力は、体中の様々な器官や角などによってコントロールしているため、完全に人間の姿を維持したままでは、これが限界でも仕方のない事だった。

「まずは小手調べ成功。次は、もう少し本格的にやってみないとね。さっきみたいに、雷を落とせるかどうか……」

 先ほどは、怒りのあまり無意識に行っていた。今度は、意識してコントロールせねばならない。

「ん〜〜〜っ!!!」

 力を込め、気合いを入れ、なんとか頭の角だけ元に戻れないかやってみる。

「ん〜〜〜〜っっ!!!! だめか……はぁ……はぁ……何がいけないんだろ。やっぱ、怒らなきゃだめなのかな……」

 怒れと言っても簡単に出来る事ではない。今は諦め、他に出来る事はないかと思いを巡らせてみる。

 本来の姿をしたエルリッヒが出来る事は、まだまだあるのだ。火を噴き、吹雪を起こし、雷を落とし、近付く者を灼き払う灼熱を纏い、人間では立っていられないほどの風を起こす。今の姿で、これらの自然を操る能力のうち、他に何ができるだろうか。

 今この局面で役立つ能力は何だろうか。

「やっぱ、雷なんだよねぇ〜」

 雷は遠距離からの攻撃に最適である。そして、ツァイネの剣による一時的な魔法の力とも違い、自然界に発生する本当の雷を落とすため、ダメージも大きい。こんなに魅力的な攻撃方法はないのだ。

「でも、あれは角でコントロールしてるしなぁ……」

 角自体は放っておいてもある程度の長さまでは生えて来るため、途中で折れても問題はない。しかし、人間の姿でいる時に角だけ元に戻ると言う芸当は、やはり怒りに支配されたあの時にしかできていなかった。

 きっかけさえ掴めれば。もどかしい思いが支配する。

「ぬ〜!!! ぬ〜〜!!!! ぬ〜〜〜〜!!!!!!」

 唸っていると、周囲の木々がざわめいた。今度は、風を起こす能力が発現したらしい。

「そっちじゃないんだってば〜!!」

 誰に聞かれるともない叫びが、辺りに響いた。




「お、気温が戻って来た?」

「雪も止んだみたいだね」

「先ほどのはなんだったのだろうな」

 エルリッヒの実験が終わったため、雪は止み、本来の気温が戻って来た。しかし、これで会話は一旦止まり、そして、謎の混乱が生まれた。

『思いがけぬ事に取り乱してしまったが、お陰で大分楽になったぞ?』

「しまった!」

「回復されたか!」

 忌々しい事に、この短い時間に、いくらかの回復をしたらしい。完全回復でない事が唯一の救いだろうか。願わくは、光の力に耐性を身につけていない事を。そして、剣に宿った力が、まだ残っている事を。

『さあ、続きと行こうか』

「そうだな。私の話はまだ終わっていないのでな」

「王様!」

「危ねーって! これだけ回復されたら、何されるか分かんねーんだから、下がってた方が!」

 二人とも、エルリッヒの事は口にしない。何らかの思惑の元にこの付近を離れ、目的を果たしたのか目的の完遂を諦めたのかここに戻り、その上で何らかの目的のもと、二人は今別行動をしているのだ。それならば、下手に口に出すより、悪魔に意識を向けさせてしまう事の方が危険に思えた。

「私には、この件の当事者、いや直接の原因として、果たさなければならない責任があるんだよ。そなたたちの気持ちはありがたいが、こればかりは譲れぬでな。止められても、納得いくまでは奴と話をさせてくれ」

「王様……」

 ゲートムントとツァイネはお互いの顔を見合わせ、小さく頷く。決意が固いなら、下手に口出しをせず、納得いくまでやらせてみよう。その上で、もし危険が降り掛かったら、その時は自分たちが守ればいい。そんな結論に達した。

 幸いな事に、降雪の一件で回復していたのは、悪魔だけではない。

「んじゃ、やるだけやってみっか。王様、納得できるまで話をしてくれ。俺たちはサポートする」

「おお、やってくれるか!」

「はい。ただし、悪魔にその気があれば、ですけどね。こればっかりは保証できません。もしだめなら、容赦なく戦いますよ。それはご勘弁ください」

 ルードヴィッヒも、小さく、しかし力強く頷く。そして、一歩前に踏み出して、再開の一声を発した。

「悪魔よ!」

『なんだ? こちらにはもう、話す事など何もないぞ?』

 つれない返事にも、ひるむ事なく続けて行く。

「そなたは私の体を乗っ取り、後に行った儀式にて、家臣と妃の魂を奪った。しかし、姫の命を奪わなかったのは何故だ! あの時の私には、そのような自由はなかった! 悪魔の所業に干渉し、力を抑えるだけの自由は、なかったのだ。それが、何故そのような手心を加えた? あくまで結果論、感謝を言うつもりはない。だが、冷酷な悪魔にしては、明らかにおかしくはないか?」

『貴様もそこの小僧共と同じ事を言うのだな。この私自身が分からぬと思っている事、何度問われた所で、返す答えはない!』

 大きく腕を振り払い、周囲に黒い炎を巻き起こす。ルードヴィッヒの語りかけは、悪魔の感情に火をつけてしまったかもしれない。

「うを、やべーぞ! ツァイネ、氷の力か水の力はねーか!」

「あるにはあるけど、こんなので効くかどうか分からないよ。人間世界の炎じゃないんだから!」

 悪魔の発する闇の炎は、詳細が分からないまでも、自然の炎よりも熱いように感じられた。それだけでも凶悪だというのに、この森を前にした環境下で放たれては、森林火災に繋がりかねない。なんとか止めなければ。

「くそっ! せめてさっきの雪がまた降れば……」

「焼け石に水かもしれないけどね」

「いや、そうでもないかもしれんぞ? 今の季節、さすがに雪は早い。であれば、あの雪は、それだけの力を持って降っていた事になる。ならば、期待できるかもしれん」

『ふははははは! 無駄だ! いかにあの不自然な雪とて、この炎を消す事は敵わぬ! 魔界の炎は人間界の炎とは違うのだよ!! さあ、燃え尽きろ!!』

 悪魔の高笑いが、周囲に響き渡った。




 森で見届けていたエルリッヒが、慌てた様子で頭を抱える。

「やばっ! でも、こっちだってただ自然界の雪を呼んでるんじゃないっつーの! さ、そんじゃ、火消ししますかね」

 下手に風を起こしては、余計に燃え広げてしまう。ならば、やはり気温を下げ、雪を降らせるのが一番だ。もっと多くの雪が降れば、消火効果もあるだろう。後は、それだけの力をこのままで発揮できるかどうか。

「いや、この森を燃やすわけにはいかないもんね。やるっきゃないか」

 叶う事なら、角だけでも。雷以外にも、自然を操る力の総合コントロールセンターとなっているため、角だけでも戻れれば、格段に大きな力が扱えるのだ。

「ぬ〜〜〜!!!」

 何をどうすればいいのか分からないままに、力と気合いを込めていた。

「ぬぬぬ〜〜〜〜〜っっ!!!!」

 気合いのこもった叫びが、森に響く。




〜つづく〜

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