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竜の翼ははためかない2 〜竜の瞳より鋭い視線で〜  作者: 藤原水希
第八章 人の意地 悪魔の意地 王の意地
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チャプター47

ーリュージュブルク城 前庭そばの茂みー



「あいつは世界を征服するために悪魔を呼び出して契約した。で、その悪魔を自らに憑依させた。それから、呼び出すのに使った魔法陣の効果が及ぶ範囲から外へは出られない。あの姿は悪魔に憑かれて色がおかしくなってるけど、王様の若い頃の姿。その娘に当たるお姫様は呼び出すのに使った魔法陣のそばに倒れていて、お付きの兵士は死んでいたのに自分は生きていた。けど、なぜかゲートムントがそのお姫様と出会った……と」

 改めて、一つ一つの要素を指折り数えながらこれまでに分かったこ事をおさらいしてみる。なんとなく引っかかっている糸口に、しっかりとした対策をたぐり寄せる事が出来るのかどうか。

 まずは考えなくては。直接参戦できないエルリッヒは、苦手ながらもここで考える事が今できる仕事と認識していた。

(ーー世界征服が目的なのに、なんでここから出られない?ーー)

 重要な事のはずなのに、なんで気付かなかったんだろう。ここから動けないのでは、世界を支配するどころではない。では、どういう計画だったのだろうか。封印の効果が残っているから動けない、という言葉は、何を指し示しているのか。

「そもそも、なんで封印する事になったのかしら? 封印しなかったら世界中を飛び回れた? そもそも、封印は契約とは関係あるのかないのか。うぅむ……」

 口に出して、意外な可能性に気付いた。もしかしたら、そんなに遠くない仮説なのかもしれない。

「呼び出して契約した悪魔が御し切れなかった時、悪魔をこの場所に閉じ込めるため……」

 確かに、この仮説なら説明はつく。王が自らコントロールできる範囲内なら好きに利用するが、万一それが叶わないなら、その時はここに閉じ込めてしまおう。そんな計画だったとしたら、十分に説明がつく。この地に封印をして、もし封印が弱まったとしても、完全に効果が消えるまではここから出られないようにする。そんな二重の保険だったとしたら。

 悪魔は言っていた。「魔力の増大によって封印が弱まった」と。それはつまり、魔王の復活を示唆しているのではないか。

 魔王と言って、エルリッヒにとって、魔王に関して思う所は何もない。ただ、約百年前、勇者と呼ばれた存在とその一行が命を賭して戦い、そして勝利した絶対の存在だという事を知っているだけである。そして、同時代に人間として他の人々と同様に。その動向に注目していたに過ぎない。ただ一つ違うのは、人間と違い、魔王軍の侵攻や征服に恐怖していたわけではない、という事だ。

 そして、勇者一行は自らの帰還と世界の平和との引き換えに、この世界の人間から魔法の力を奪った。いや、分かっている話を総合すると、そもそも魔法の力自体、人間の生来の物ではなく、魔王の持つ力のおこぼれだったのかもしれない。だがしかし、理由はどうあれ、魔王の消滅と共に、人間からは魔法の力が失われ、世界は平和になった。その点だけは、紛れもない事実だった。

 そして、その魔王が復活しつつあるという噂は、ここ最近エルリッヒの店でも時折聞かれたので、改めて驚く情報ではない。であればこそ、魔王の復活が封印の力を弱めるというのも、納得のいく話である。魔王とは、突き詰めると悪魔の総大将のような存在である。その力が強まれば、眷属である悪魔にとって不利益な力は、弱まってもなんら不思議はない。封印されている悪魔の力が強くなっても、不思議はない。

 これらの仮説がもし事実だったとしたらどうだろうか。そして、もし全く的外れだったとしたら、どうだろうか。

「的外れなら真相究明に頭を抱えるけど、ほんとなら、めんどくさいけど一応の説明はつくか……」

 もし、本当に魔王が復活しつつある影響で空間中の魔力が増大しているのだとしたら、人間が再び魔法を使う時代が来るとでも言うのだろうか。

 考えるという事は骨が折れる。正直言って、料理とお店の経営以外の事であまり頭を使いたくはないのだ。だから、エルリッヒにできる推測はこれが精一杯だった。

 仮にも、三百年以上という長い時間を人間として暮らして来て、今回の事件のキーとなっている魔王の登場から消滅までの全期間を経験している者として、出来る限りの知識を活用したつもりだった。が、いかんせん一般庶民としての関わり方では、知識レベルにはあまり影響が出ない。それに、魔王がいた頃から魔法を使う事はできなかったので、それに関する知識も乏しい。魔法の知識が、魔王の詳細が、果たして推測にどこまで影響するかは分からないが、なんとなくそれを知らない事が推測に対する決定的な「何か」を欠く結果に繋がっているような気がしていた。

「あーっ、もう! 私は元々力押しの方が得意なんだよー!」

 もういっそ、ドラゴンに戻って蹴散らした方が早い。それができない事のなんともどかしい事か。結局の所、色々考えているのは倒すための糸口を探すためであり、原因究明や今後の対策といった小難しい話は正規兵の仕事なのだ。二人に与えられている任務はただ倒す事のみ。だからこそ引き受けたというのに、なんでここまで考えているのか。よくよく損な性分なのかもしれない。

 だが、悪魔が手加減をしてながら二人との戦闘を楽しんで「くれている」今のうちがチャンスなのだ。なんとしてでも、解決の糸口を見つけなければ。

「そういえば……あの悪魔の意思は、悪魔のものなのかな。それとも、元々の王様の? それか、合議みたいな形? うーん、どうなんだろう……これ、結構大事な事のような気がするぞ?」

 やはり、あれこれ考えるのは性に合わない。料理を作る時や、大量のお客さんを捌く時にはそれなりに思考力が働いている自覚もあるが、今はそれがほとんど発揮されなかった。ヒントのようなものは色々と浮かぶのに、それを元に真実に辿り着く事が出来ないでいた。

 少ない情報からどこまで真実に近づけるか、というのは確かに一つの課題ではあるのだが。

「まずは、あの悪魔が悪魔なのか王様なのかだけは、はっきりさせないとね。王様の意思が残ってるなら、言葉で解決する道も残ってるかもしれないし、完全に乗っ取られてるなら、悪魔の考えに染まってるなら、その余地はないだろうし。問題は、それをどう導きだすかなんだよね……うぅん……」

 腕を組み、首を傾げて短く唸ると、不意にアイディアが浮かんできた。そうだ、これしかない。これしかないんだ。

 きゅ、とフライパンを握りしめると、茂みの隙間から三人をじっと見つめた。ゲートムントとツァイネが必死に武器を振るい、それを悪魔が黒い炎の宿った剣でいなしている。やはり、どう見ても悪魔は手加減をしているように見える。

「よし、やってみるか」

 ゲートムントたちの動き方は、長年のコンビネーションによってパターン化していた。一期一会の敵と戦う上ではあまり影響がないが、長い間戦うとなると、それは攻め手を見破られる事にもなり、敗北の種になる。だが、それは同時に、今のエルリッヒから三人の動きが手に取るように分かる、という事でもあった。

「このまま動くと、次のタイミングで少し右に移動するはず。という事は、あの辺りに悪魔の頭が来る。だから、速度をコントロールするとして……そこから移動するまでの時間に当てるには……」

 瞬時に考えを巡らせる。考えてる暇はあまりない。

「よし、今だ!」

 その時が来た。エルリッヒは茂みから姿を現すと、思い切りよく振りかぶり、手にしたフライパンを投げつけた。

「うりゃー! 当たれー!」

 あの「超重量」のフライパンが宙を舞い、それが狙い澄ましたように悪魔の頭部にヒットした。

 三人が団子状態で戦っているため、ゲートムントたちに当たってはならない。だから、このタイミングを狙っていたのだ。

 まさに鈍器がヒットした時ならではの重たい音が鈍く響いて、まるでスローモーションのようにフライパンが足下に落ち、悪魔は少し吹き飛ばされた後、昏倒する。

「よし!」

 この一連の出来事に、二人は驚きのあまりつい動きを止めてしまう。が、次の瞬間我に帰り、急いでエルリッヒの方へと駆け寄った。

「エルちゃん! どうしてこんな事!」

「もし俺たちに当たってたら、間違いなく即死だったんじゃねーか? いやいやそんな事よりなんで出て来たんだ。ここは危ないぜ? それに、今のフライパンだって、悪魔に当たるかどうかも分からなかったわけだし、もっと早くから気付かれてたら危なかったし」

「ごめん、心配と迷惑と驚きについては謝るよ。でも、どうしても伝えたい事があって。あいつを気絶させるにはこれしか思いつかなかったし、気絶してるように見える今がチャンスなんだ。だから、耳を貸して」

 エルリッヒは二人の方を抱くと、耳打ちをした。それは、二人にとってはまるで甘い媚薬のようなささやきだった。




〜つづく〜

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