チャプター46
「たぁっ!」
「どりゃぁっ!!」
二人掛かりでの攻撃が続いていた。悪魔は本気ではないのだろうが、二人を相手に互角の戦いを繰り広げていた。
ツァイネの剣を受けながら、その隙を突くように繰り出される槍の一撃をひらりひらりと回避していく。
二人掛かりで攻めているのに攻撃が当たらないというのは、いささか以上に不利な戦いと言えなくもなかったが、二人からすれば、たとえ手加減してくれていたとしても、一蹴されないだけよほどまともな戦いが出来ていると言えた。
「会話をしてみる?」
ツァイネが出した提案はこうだった。なぜ悪魔がこの場に現れ、なぜ円範囲から出られず、なぜ今になって現れたのかを訪ねてみよう、というプランである。
「そう。あの悪魔には、まだ秘密がある。だから、倒すならそれを知らなきゃならない。それに、そこには重要な秘密があるんじゃないかって思ったんだ。もちろん、それだけじゃなくて、それが、攻撃する突破口になるんじゃないかとも思ったんだ」
「なるほどな。じゃ、それはお前の担当でいいのか? 俺はそこまで頭まわんねーぞ」
さすがに、そういう事は発案者のツァイネに任せたい。彼の中には、ひとしきりのプランや疑問など、言葉が浮かんでいるはずだ。だったら、今からそれを練る必要があるゲートムントよりも適任だという事になる。
「分かってるよ。そういうのは俺がやらないとね。言い出した責任は、果たすさ」
「助かる。けど、上手く行くか? 俺たちの実力で、あいつ相手にそれだけのタイミングを引き出せるかな」
最大の懸念はそこだった。会話自体は、してみないと分からない部分も大きいので、今から懸念しても仕方がない。だが、そこまでの隙や余裕があるのか、という問題が付き纏う。何しろ、油断していた訳でもないのに、あれほどやすやすとやられてしまったのだ。ゲートムントが慎重になるのも、無理はない。
「大丈夫だよ。さっきのあいつの言葉、覚えてる? 攻めて来いって言ったんだ。つまり、実力差がどれだけあっても、ある程度はまともに戦ってくれるつもりなんじゃはないか、て事だよ」
「その言葉は、信じてみるしかないな」
ついつい、苦笑いが混じる。ただの罠の可能性も十分に捨てきれないのだから。
「でしょ? どっちにしろまともにやっても勝てないんだ。じゃ、ちょっとひねってみるしかないでしょ?」
こうも歯が立たないと、開き直って戦うしかない。せっかく相手がチャンスをくれるというのだから、それには乗っからないと損をするのではないか。
「だな。傷一つを目的として余裕を見せてくれるんなら、骨を折ったり、肉を断ったりしてやろうぜ!」
「そうそう。油断が命取りになるって事を、その身で思い知らせてやろうよ! それで、あいつの秘密に迫れたら、万々歳だよ!」
ツァイネの明るい笑顔には、なぜか自信が見て取れる。それが、ゲートムントをどうしようもなく安心させ、途方もなく元気づける。この男は、最強クラスの戦士であると同時に、大切な弟分であると同時に、幼なじみの親友でもある。本当に、切っても切れない存在だ。
「んじゃ、行くか。昨日と同じで、言葉に甘えさせてもらえるうちに、甘えなきゃな」
「そうそう! じゃあ、トライデントシフトで行こう」
ゲートムントが先達を務め、ツァイネが直後に補佐をするトライデントシフトは、攻撃リーチの長い相手に向いていた。
悪魔の持つ剣は、本気を出したと言ってもそれ自体は同じ長さだが、何しろ魔法が厄介だ。まず、ツァイネが懐に入り込むだけの隙を作る事が一番の目的だった。
「そんじゃ、行くぜ!」
「うん!」
そうして、ゲートムントは駆け出して行った。
『フフ、やるではないか。だがしかし、先ほどから攻撃が一辺倒なのではないか? いくらなんでも、それでは私に一太刀浴びせる事はできんぞ?』
「分かってるさ。だから、一計を案じたんだ!」
「俺たちなりの、抵抗だ!」
鋭く槍を振り回す。それを悪魔は剣でいなし、ゲートムントを近づけさせない。まさに余裕の対応を見せていた。しかし、それは二人の狙いではない。ゲートムントの攻撃に合わせ、ツァイネが懐深く斬り込もうとしていた。
「たぁっ!」
『だから、そんな攻撃では倒せないと……何!』
攻撃ではなかった。ただ、懐に潜り込んだだけだった。意外な行動に、悪魔は戸惑う。
『貴様、何を企んでいる!』
「企むだなんて、大げさな事じゃない! ただ、話がしたいだけだ!」
その言葉は、やはり意外だった。悪魔は、真意を計り兼ねていた。
「お前は、どうして復活した!」
『話をしたいというから何かと思えば、それか。そんな事、聞いてどうする。知ったところで、私に勝てる訳はあるまい?』
意外な事に、悪魔は攻撃の手を緩め、話に付き合ってくれようとしていた。剣と剣とを撃ち合わせながら、話を続けた。
「それは、誰が決める事でもないよ。俺たちは、好奇心で聞いてるだけだからね!」
『そうか! ならば、聞きたい事、なんでも訊くがよい。冥土の土産だ!』
剣戟が、一段激しくなった。これが悪魔なりの代金請求と言う事なのだろう。質問したければ、この攻撃に受けながら質問しろ、というのである。
ツァイネとっては、とても安い代金だった。
「じゃあ、まずはさっきの質問から。なんで復活した!」
『そんな事、簡単な事だ。世界に、魔力が満ちている。ここ百年で、最も。だからこそ、私を封印した魔法陣はその効力を弱め、こうして外に出る事が出来たのだ』
尚も変わらぬ激しい攻撃。しかしそれは同時に手加減をしながらの攻撃でもあるらしく、ツァイネは十分互角に見える剣さばきで対処していた。これは、ツァイネにとっての話を聞くための資格証明でもあった。
しかし、返って来た答えはまったく分からない。魔力が満ちているから封印が弱まったとは、どういう事なのか。普通に考えれば、余計に強化されるのではないか。
「魔力の、増大? 封印の、弱体化?」
魔法が絡む世界の話となると、さっぱり分からない。だが、城に戻ればかつての魔法を研究している学者はいる。そういった連中に、伝えれば教えてくれるだろうか。
「なら、なぜこの範囲にしか出てこない!」
『元々、私はこの地域での活動を目的として召喚、契約された、それだけの事だ! ここは人間の住む世界、本来の世界ではないのでな。封印が完全には消えていない今、そのくびきからは逃れられんのだ。残念ながら、な!』
一瞬、悪魔の攻撃が強くなった。わずかに、ツァイネに不利な瞬間が生まれた。しかし、この好機、負けてふいにするのは本意ではない。すぐさま力とスピードを込め、対処する。
「お前は、この城の王じゃないのか!」
『そうだ! この城の王だ! だが、それと同時に、悪魔族の王でもある!』
悪魔の王。彼が本当にそうなのか、あくまで「自称」なのかは分からない。しかし、一つだけはっきりした事がある。それは、やはりこの悪魔はこの城の王だ、という事である。つまり、悪魔になってしまったのか、悪魔に乗っ取られたのか、そのどちらかだという事だ。
「お前が悪魔なら、人間だった王はどうなった」
『私は、人間であり、悪魔であり、そのどちらもの王である! この世界の支配のため、悪魔となった!』
それが本当なら、とんでもない話だ。かつての魔法があった時代の事ではあるが、そのような恐ろしい事があったというのか。では、一体誰が……
「でも、封印された。これほど強大な力を持ったお前を封印したのは、誰だ!」
『忌々しい話だ! 忌々しい!』
また一つ、攻撃が強まった。どうやら、悪魔の感情の昂りが、手加減のほどを決めてしまうらしい。ありがたい事ではないが、ツァイネは己の対応できる限界まで、なんとか話を引き出そうと決めた。
もし、限界が来たら、その時はゲートムントにでも引き継いでもらおう、と。
「それほどまでに強力で、凄まじい力を持った相手とは誰なんだ!」
『それだけは、語れぬな! それを知りたければ、私に勝つ事だ。そうすれば、教えてやろう』
サービスは、そこまでだった。剣の一振りで、ツァイネは大きく弾き飛ばされた。
「くっ、やっぱり、限界があるか」
「けど、色んな話が聞けたな。これを攻撃に活かすんだろ? だったら、まだまだ降参するには早いな!」
相変わらず悪魔の力は絶対強者と呼ぶにふさわしい物だったが、質問をぶつけたツァイネは一筋の糸、光明を見たような気がしていた。
そして、それは同時に、茂みで見ていたエルリッヒにも、同じ光、反撃と勝利への糸口が見えていた。
〜つづく〜




