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竜の翼ははためかない2 〜竜の瞳より鋭い視線で〜  作者: 藤原水希
第八章 人の意地 悪魔の意地 王の意地
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チャプター42

ーリュージュブルク城前庭そばの茂みー



「おおっ、ゲートムントが頑張ってる!」

 槍を手に奮戦するゲートムントを応援しながら、ついつい声が出てしまう。ゲートムントが悪魔相手に余裕を見せながらの互角な戦い。この展開は手に汗握る。

 剣と槍では、元々リーチに大きな差がある。戦闘が有利になる事は想定の範囲内だ。むしろ、悪魔がフェアな戦いをしている事の方が、不自然だった。

 尤も、それを差し引いてもこの戦いにはテンションが上がってしまうのだが。

「あいつが魔法の力を使う前に勝っちゃえ!」

 炎の力は常時発揮されているようだが、ゲートムント相手には、今のところまだそれ以外の魔法の力は使っていない。何か思惑があるのか、それとも、フェアに戦ってみたくなったのか。いずれにしろ、楽観視も油断もできないという事に、何ら変わりはないのだが。

「やっぱ、気になるなぁ……」

 せっかく一人安全な場所から観戦しているのだ。悪魔がなぜフェアな戦いを、それも武器の都合で不利になる戦いをしているのか、考えてみない手はなかった。

 もしかしたら、勝利への一手になるかもしれない。

「あいつが魔法を使わない理由……理由……」

 エルリッヒ自身も魔法の力は持ち合わせていないため、魔法の力を使わない気持ちや理由は想像するのも難しかった。単純に思いつくのは、魔法の力を使うと戦闘が有利になりすぎてしまうから、という物だが、それが的を射ているかどうかは全く分からない。

「互角の戦いを楽しむため? 戦いながら、何かを企んでいる?」

 戦いながら企むとすると……??? 見ていても、動きに規則性があるようには見えず、呪文を唱えているようにも見えない。ただただ、防戦一方でゲートムントの槍を受けているようにしか見えない。

 悪魔自身はあの忌々しい竜殺しの力は通用しないだろうが、突き刺されば大きなダメージは確実だろう、防戦一方になるのは当然だろうが、ツァイネの時と同じく、あの槍のリーチを上回る広範囲に魔法を放てばそれで済む事だ。

 とすると、やはりフェアな戦いを楽しむのが目的なのか、それとも、さらなる大規模な魔法を使うのが目的……?

 そこまで考えて、恐ろしくなった。我ながら、どれだけ恐ろしい事を考えているのだろう。悪魔の持つ魔力のほどは分からないが、もしそれがかなりのものだとしたら、温存しているだけなのかもしれない。一度有利に戦わせておいて、強力な魔法で大ダメージを与えるとともに、戦意も削いでしまおうという作戦なのだとしたら……

「怖っ! 私怖っ!」

 まず、自分の物の考えに戦慄し、両の頬に手を当てて小さな叫びを上げた。そして、次に真剣な表情を作り、それがもし本当だったらと、もう一度戦慄した。

 悪魔の放つ強力な魔法など、考えただけでも恐ろしい。炎以外の力も扱えるだろう。その気になれば二人をあっという間に消し炭に出来てしまうのではないか。こうなったら、何が何でも力の増大を検知しなくてはならない。

「私だって、自然の力を扱えるんだしね!」

 エルリッヒにはエルリッヒなりに、自然の力を扱える者としての自負心があった。それは竜の姿に戻らなければ扱えない力だが、炎も吹雪も雷も、時と場所を選ばずに扱う事が出来る。きっと、悪魔の使う炎その他の力も、ちゃんと事前に検知できるはずだ。

 たとえ魔法であっても、それはあくまで現象を呼び出す媒体に過ぎず、引き起こされるのは自然現象のはずなのだから。

「よし、そのためにはまず観察だ!」

 一旦考えをまとめると、再び二人の戦いに視線を移した。

 少しでも、怪しいところはないか。気配の増大はないか。自然の力の異常発生はないか。

「二人とも、気をつけてよね!」

 小さくとも力強いエールを送りながら。




ー再び前庭ー



「どうしたどうした? 俺のリーチに付いて来れないか? さっきから、ご自慢の炎が射程圏外だぜ?」

 エルリッヒの心配を余所に、ゲートムントは自信に満ちた面持ちで槍を振るっていた。実際、悪魔の剣はゲートムントの間合いには入っておらず、炎もこれでは届かない。槍という武器種に対して不利なのは、誰の目から見ても明らかだった。

「そら!」

 鋭い突きを繰り出す。剣戟でその軌道を逸らす悪魔。久しぶりの全力での戦いに心躍るゲートムントと、少しずつだが、表情に余裕のなくなって来た悪魔。ツァイネもこの様子には少し不安を覚えていたが、それでも、戦況が有利な事に変わりはなかった。少なくとも、二人の攻撃は、この圧倒的な悪魔に対し、通用するのだ。

「そろそろ、俺たちを舐めすぎた事を後悔させないとな!」

『後悔とは、片腹痛い。やれるものなら、やってみろ!』

 高笑いが響き渡る。悪魔はまた先ほどまでの余裕を取り戻したかのように見えた。結局のところ何が目的なのか、分からないままだ。

 しかし、ゲートムントにその不安は伝わらない。ただひたすらに攻撃を繰り出すだけだ。

「そんじゃ、俺の必殺技、受けてもらおう。シュベート! フェアリンゼン!」

 頭上でクルクルと槍を回し、勢いを付けるとともに、今度は槍を突き出す。そして、そのタイミングに合わせ、素早い踏み込みを行う。より強い一撃を与えられる間合いに入っての突き攻撃は、脅威だった。

『ぐあぁぁぁ!!』

 咄嗟に避けようとした悪魔の土手っ腹には、大きな穴が空いている。槍の太さ以上の大きさなのが、この攻撃の威力を物語っている。もしかしたら、竜殺しの力も寄与しているのかもしれない。

 昨日銀の剣で斬った時のように、もうもうと白煙を上げながら傷口は塞がりつつあったが、それでも、瞬時に回復という事はなく、悪魔は苦悶の表情のままだった。

「よし、効いてる! じゃあ、今のうちに攻撃を当てまくるぜ! 焦点連破攻撃!」

 悪魔が膝をつき、荒い息を吐いているところに、容赦のない突き攻撃を無数に繰り出した。それが突き刺さるたび悪魔はさらなるうめき声上げ、周囲に血しぶきが舞い散った。

「そらそらそらそら!!」

『おおおおおおおお!!!!』

 誰が見ても、ゲートムントの勝利は明らかだった。しかし、さすがのゲートムントもそこで油断するほど迂闊ではない。

「隠し球があるかもしれねーからな。力は抜かないで行かせてもらうぜ?」

 ひとしきりの突きの後、今度は間合いを取り、遠距離からの振り上げ攻撃を放った。攻撃というのは、時折違う行動を混ぜた方がいいのだ。

「どうだっ!」

 物体を切り裂く確かな手応えと槍への返り血によって、この攻撃も有効だったと実感する。

「どうだ!」

「どうだじゃないよ。こんなに一方的だなんて、怪しいとは思わないの?」

 大いに怪しい。と思っていたのはツァイネだけだった。ゲートムント自身は実力とリーチの差だと信じて疑わない。

「怪しい? なんで。俺たちこんなに有利じゃないか」

「それはそうだけど……わざとっぽいっていうか……どこか本気じゃないっていうか」

 その懸念はどうやら当たってしまったようだ。悪魔はゆっくりと立ち上がった。全身から、傷の回復に伴う白煙が立ち上る。

『さすがにやるではないか。では、今度は、こちらの反撃の番だ。これで、どうだ!』

 ダメージの蓄積からか、行動自体は若干ゆっくりだったが、剣を使い、地面を引っ掻くように二回、悪魔に対して真一文字を描くようなラインを二本、引いた。

「何をしようってんだ」

『貴様らの、恐れている事だ!』

 次の瞬間、二本のラインの間から巨大な炎が立ち上り、それが爆発となって二人の周囲を包んだ。

『槍の射程外なら……私が有利だろう?』

 恐れていたのは、まさにこれだった。悪魔の使う、魔法の力。炎に巻かれ、二人の姿は見えなかった。恐れていた通りの、魔法の力による反撃構成だった。

『さあ、これは私の勝利の狼煙だ! 反撃を始めようではないか!』

 一転悪魔の叫びが、周囲を包んだ、




〜つづく〜

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