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チャプター28

〜朝 中央テント前〜



「それでは、本日は昨日着任した新たな英雄の紹介から始めたい! 三人とも、前へ!」

 キャンプ地に、威勢のいい男の声が響いた。そして、その声に促されるように、三人が中央のひな壇に立った。

「さあ、堅苦しい挨拶は抜きだ。思う存分挨拶し、己の存在をアピールするがよい!」

「おう! じゃあ、俺から! 俺はゲートムント! ギルドの戦士だけど、王様に認められてここまで来た! 必ず勝ってみんなと美味い酒が飲みたい! 頑張ろうぜ! ちなみに、俺は槍使いだ!」

 そうして、ゲートムントはあの槍を大きな動作で振るった。ブンブンという風切り音が響き渡る。なんとも威勢のいい、ゲートムントらしい挨拶だ。これには、前線駐屯の兵士たちからも歓声が上がる。

「じゃあ、次は俺なのかな? えー、初めましての人もいるかいないか分からないけどそうでない人も、俺はツァイネ。俺もギルドの登録戦士。でも、見ての通り、前の所属は親衛隊。みんなの期待は裏切らないから、しっかり頑張ろう!」

 こちらもツァイネらしい、健気な挨拶をする。だが、最後にすらりと剣を抜き放ち、それを高く掲げた。これこそ、城に務める兵士の中でも、限られた者にしか許されない、親衛隊の挨拶である。

 これには、さすがに兵士たちのボルテージも最高潮にならざるを得ない。そもそも親衛隊は王の直接警護が目的の組織で、精鋭部隊という言葉では足りないほどの実力者だ。元とはいえ、その親衛隊に所属していた、王の信任の厚い騎士が来たとなれば、どれだけの戦意高揚になろうか。

 落ちている士気も、高まるというものだ。

「俺も、ゲートムントと同じだから! 頑張って悪魔を討伐して、みんなで美味しいお酒を飲もう!」

「うむ、見事な挨拶である! では、最後!」

 いよいよ、エルリッヒの番だ。このような場での紅一点、なんと緊張する事か。しかし、挨拶をしない訳にはいかない。同じく壇上に立ち、声を発した。

「みんな! 初めまして! 私の名前はエルリッヒ! 知ってる人は手を挙げてください!」

 この呼びかけに、幾人かの手が挙がった。よし!

「じゃあ、知ってる人には話が早いけど、私はただの食堂の主です! 今回、どういうわけだか王様に呼ばれて、そこの二人の食事係担当として選ばれました! だから、大した事はできないけど、悪魔の姿は見てみたいし、二人の勝利には立ち会いたい! という事で、付いてきました! 足手まといにならないように頑張りますから、どうか応援してください! そして、みんなで美味しいお酒を飲みましょう!」

 その挨拶は、明らかに場違いだったのに、紅一点という事もあって、異様な興奮を生んだ。このような殺伐とした場所での女性、それだけで価値があるのだろう。

「み、みんな、落ち着いてね? 私あくまで二人の飯炊き担当だから」

 慌てふためくエルリッヒを余所に、指揮官はまたも豪快な声を上げた。

「なんでもよいではないか! 威勢のよい挨拶は結構である! 三人とも、この前線部隊、そして指揮官グリーグはお前たちを歓迎しよう!」

 こうして、歓声とともに朝の自己紹介は終わった。なんとなく疲れたが、指揮官が竹を割った性格だった事には救われた。あの性格のおかげで、この場になじむ事が出来た。さあ、早速出陣だ。




ーキャンプ前ー



「それでは、第一隊、出陣! 第二隊以降も、順次出陣!」

 グリーグの声によって、十人単位の分隊がそれぞれ出撃して行く。早朝軍議によると、悪魔が出るとされる円範囲を細かく区切り、そこを分隊単位で調べて行き、悪魔と出会った時点で合図のラッパを鳴らし、他の分隊が集合する、という戦法を取っているらしい。

 しかし、悪魔は魔法のような物を使うらしく、大人数で攻めても返り討ちに遭う事の方が多いらしい。

「魔法か、厄介だね」

「だな。そんなもん、見た事もないぞ。ドラゴンの火の息みたいなもんか? だったら、まだ対処できるんだけどな」

「ゲートムントさー、強いくせに、言葉だけは油断全開だよね。そのくせ、内心じゃもっとすごい攻撃を想定してる。ほんと、面白いっていうか、強さの無駄遣いっていうか。とにかく、用心せいって事だね」

 三人の所属は、名目上自由部隊という事になっていた。合図のためのラッパは手渡されたが、被害を最小限に留めるためなら、吹かなくてもよい、とすら言われた。待遇は悪くない。分隊に組み込まれても、お互いやりづらい。そういう指揮系統での行動が苦手だからこそ、二人ともギルドの所属を選んだのだし、相手にしても、名実ともに格上になる親衛隊出身者を相手に指示を出すのは、明らかに分不相応だ。親衛隊員には、一人一人が有事の際の指揮官となって働けるだけの権限が与えられ、それに恥じない程度の実力が保証されているのだから、むしろ自分より適切な判断をしているかもしれない、とすら思ってしまうかもしれないだろう。

 そして、それだけの訓練を積んで来たのだ。ツァイネは。

「さて、それではワシの部隊も出撃するが、お前たちはどうする? まさか、怖じ気づいた、なんていう事は、あるまいな? ガッハッハッハッハ! せいぜいいい働きをする事だな! では、後ほど会おうではないか! 者共、第二十隊、出陣だ!」

 豪快な笑い声を残して、グリーグも部下たちと出撃した。残るは、いざという時の残留部隊と、怪我をした負傷兵だけだ。この場にいると、さすがに気まずい。

「じゃ、行こうか」

「だな」

「てゆーか、私も馬がよかった」

 騎士たちは、皆馬に乗って出撃した。一方、三人は徒歩である。広さはあるのだが、馬の用意がなかったため、歩いて出撃する事になった。当然、御者から馬を借りる事も出来ない。彼にとって、馬たちは大事な商売道具である以前に、大事な家族なのだ。ゲートムントが重い台車を引きながら、残る二人がそれを後ろから押しながら、三人の出陣は始まった。



〜一時間後〜




 ようやく日が昇り切り、気温が穏やかに上がって来た頃、三人は森の中をまだ歩いていた。さすがに体力はまだまだ残っているが、それを差し引いても、この森は飽きる。ツァイネは悪魔の気配を感じない、というので、緊張感もなかった。

 それでも、とりあえずの目的地を「リュージュブルク城」に定めた事で、行動指針はあった。時折、他の隊の面々と顔を合わせる事もあったが、今は有事、世間話をする事も出来ず、挨拶と簡単な戦闘指南やこれまでの報告をしてもらっただけで別れた。これもまた、飽きを加速させる原因だった。

「地図上だとそうでもないけど、歩きだと結構遠いねー」

「だな。もうちょっと、城が見えてると張り合いもあるんだけどなあ」

「二人とも、何言ってるの。へこたれる時間じゃないでしょ? 飽きて来たのは私も同じなんだし、しゃきっと歩こう! しゃきっと!」

 この声に何度励まされて来た事か。あれだけの人数がいて、この声に直接声援をもらえるのは、自分たちだけなのだ。一緒に旅が出来るのは、自分たちだけなのだ。この優越感が、二人のモチベーションを何度となく、それも大きく押し上げていた。

「だよな。それに、城までは一直線なんだし」

「だよね。油断禁物だって事も、すっかり忘れてたし」

「そうそう。張り切る張り切る!」

 どこにそんな元気が、というような元気が、エルリッヒにはあった。悪魔への好奇心というのが回答だが、それにしてもうらやましいほどの元気である。

 ついつい、その元気に背中を押されていた。

「もう少し歩けば、きっとお城も見えるよ!」

 その言葉に導かれるように、三人はいつの間にか森を抜けていた。軽口でも、話しながらだと少しは違うものだ。それを実感するような出来事である。

 森の向こうは開けており、そこには立派な城がそびえていた。と言っても、人が住まない荒れ放題の城で、壁は至る所に穴が開き、天井も崩れ落ちていた。建物崩落の危険は少なそうだが、ぱっと見て朽ちている事が分かる程度には、ボロボロになっていた。

「おお〜! これがお城! すごいじゃん!」

「立派……だけど、やっぱりちょっと朽ちてるね」

「しばらく誰も住んでないんだろ? んじゃ、こんな風にもなるだろ」

 しばし感慨深げに見つめると、再び歩き始めた。彼らの主な探索場所は、城の中。どの分隊も調査をしない、とても危険な場所だった。

「じゃ、行こうぜ」

 頼もしく、ゲートムントがリーダーシップを発揮した。




〜つづく〜

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