第三章「氷の海」ラスト
すぐさま、リョウが掌から炎を噴射し、エイシンも掌から凝固な氷の塊を射出する。
<炎魔法ファイアブラスト>
<氷魔法フリーズボックス>
シャドウクラブに向けられた二つの魔法攻撃だったが、シャドウクラブはすぐに水中に身を隠してそれを躱してしまった。
「大海が奴に味方していやがる・・・」
リョウが悔しそうに呟いた。
「まずいなこのままだと渦に飲まれてしまう」
エイシンが言う。
船がどんどん大渦の中央に近づいていた。
「船を捨てるしかないね」
ヒカリは言った。
「それこそ奴の思う壺じゃないか」
「どのみち水上からの攻撃は奴に当たらないさ。ジム。酸素供給の魔法は使えるか?」
「まあ、原理は理解しているが・・・」
「それなら船頭にくっついてやってくれ」
「おいおい、マジで船を捨てる気かよ」
ジムは不安気に言った。
「ここに賢者が3人いる。どうして蟹ごときに負けられるんだ?」
ヒカリは船酔いで苛立っている。
ジムの異論は認めない。
「密集しろ!」
そのまま船を飛び降りてはただ死ぬだけで、お互いが離ればなれにならないようにヒカリは指示を出した。
まずヒカリの背に船頭がしがみつき、船頭を囲むようにリョウとエイシンはヒカリの肩しっかり掴んで船頭を抱え込んだ。
「あんたら、本気かよ・・・」
船頭は彼女等を船に乗せたことを、本気で後悔している。
「飛ぶぞ!」
ヒカリの掛け声で4人と1匹は荒れる海に飛び込んだ。
「死に急いだな!」
シャドウクラブは嘲笑し、水中を高速で移動して、大きなハサミを広げて襲いかかってくる。
そして、シャドウクラブはヒカリ達をハサミで悠々と捉え、2つのハサミで捻じ切ろうとした。
「え・・・?」
「お前、それは甘すぎるだろう」
シャドウクラブの間抜けな声に、ヒカリは腹を抱えて笑った。
密集したのにはもう一つの理由がある。
マジックアーマー、いや魔力、もとい力というものは、言うまでもなく分散するより集中する方が強くなる。
3人の賢者が作るマジックアーマーは一体化し鉄壁の防御力を誇っていた。
しかし、ストックしている2倍のサンダーでは、おそらく放電し水中のシャドウクラブを倒すことはできないだろう。
「まずいぞ。このままではマジックアーマーが破られる」
リョウが言った。
「実はサンダーストームの後遺症で、1つだけメリットがあってね・・・」
ヒカリの言う利点。
それは魔力の節約のため、物体に魔力を溜めたり移動させたりする器用さを習得したことだった。
ヒカリはこの密集状態でならリョウとエイシンの魔力を、まるで自分の物のように扱うことができる。
「このまま捻じ切ってくれる!」
「欲をかいたなシャドウクラブ。二兎追うものは一兎も得ずと言うが、お前は今から三兎の逆襲に遭うんだよ」
<トリニティサンダー>
ヒカリ達は青白い強烈な光を放ち、ハサミから伝わった雷撃が一瞬にしてシャドウクラブを粉々に引き裂いた。
「ぶらぼあッ・・・!」
ヒカリ達はシャドウクラブが完全に消滅したのを見届けると、急いで浮上した。
「船を探そう」
ヒカリ達は乗っていた船を探したが、辺りにそれらしき物は見えない。
「運良く残っていればいいなと思っていたんだけど・・・」
ヒカリはそう言いながら、波に揺られている。
「賢者が3人いるんだ。何か方法を探そう」
エイシンは年長者として余裕を持った態度で、同じく波に揺られていた。
「氷で船を作ることはできないのか?」
リョウは言った。
エイシンの氷魔法は物を形作るのに長けている。
「できる。が、上陸前に低体温症で全滅だろう」
雷と炎の船ではそもそも浮かぶことさえ不可能である。
しかし、ヒカリ達の不毛な案がつきかけたその時だった。
「先生ー!」
遠くから声が聞こえる。
ヒカリが声の方向を見ると、一隻の船がこちらに向かってきていた。
「先生ー!」
船の上で2人の若者が手を振っている。
「・・・で、弟子ー!」
ヒカリはその者達の名を思い出せなかったが、とにかく全員その船に乗り込んだ。
「まさか海の真ん中で溺れているとは思いませんでした」
「溺れてはいないよ」
どうやらレツとアオナは、はやる気持ちを抑えきれず、ヒカリを迎えに行こうと思い立ったようだ。
「でも助かった。どうしようかと考えていたところだったんだ」
「先生のお役に立てるとは、夢にも思いませんでした。さあ、里に戻りましょう」
ヒカリ達は急いで陸に向かった。
その後、里で一息ついたヒカリ達だったが、これからのことを相談しなければならない。
「アズサが風の賢者に会うため風の園に向かった。私は念のため、風の園を経由して賢者の村に帰ろうと思う。リョウとエイシンは賢者の村に直行してほしい」
ヒカリは言った。
「たしかにこの状況ならば村の方も心配だ。俺達はすぐに村に戻ろう」
エイシンは言う。
「そうだ。これを渡しておかないと」
エイシンが懐から取り出したのは、やはり帯魔石だった。
「今朝リョウから聞いていたんだ。もらってくれ」
「感謝するよ」
ヒカリは2つ目の帯魔石を受け取った。
「それで?俺達はどうしましょう」
十数人の若者を率いているレツが聞いた。
「ああ、ありがとう。帰っていいよ」
「おいおい、ヒカリそれはねえだろう」
ジムは言った。
レツらには、出航前に仕事を探してやるとヒカリは約束している。
「ごめん、そうだったな。それじゃあ私についてきてくれ。何かできることがあるかもしれない」
こうして、ヒカリとジムとレツの若者衆、リョウとエイシンの2手に別れ、氷の海の里を旅立った。




