第三章「氷の海」1
ヒカリとジムはエンカと別れ、武器屋から帯魔石付属の手槍を受け取って、麓の里を旅立った。
「賢者は氷の海の先に要塞を築いて暮らしている。またやっかいな旅になりそうだな」
ジムは言った。
「暑いよりはいいさ」
ヒカリはそう言って遠くを見ている。
「どうした?」
「生きていたみたいだな・・・」
「あ」
ジムも前方に人影を見た。
緑色のローブを纏う賢者、アズサだ。
目立った外傷はないが衣服が所々破れている。
「今回はあなたに助けられたわね」
アズサは今の状態のヒカリに任務は任せられないと妨害したが、結果的にリョウを助けたのはヒカリだった。
「大口を利いた割に随分遅い登場じゃないか。アズサ」
「ちょっと、敵の罠にかかってね・・・」
アズサは肩の砂埃を払い落としながら言い、そして、ヒカリに真剣な眼差しを向けた。
「でも、今回の件で分かった。やっぱり、あなたは旅を続けるべきではない」
「何だと!?」
「あなたの手に余ると言っているのよ」
(こいつ・・・また、戦ろうってのか?)
ヒカリはそう思い、手槍を構えた。
下手な七魔雄以上にやっかいな相手だと、ヒカリは思っている。
「アースニードル・・・」
アズサがそう呟くと、辺りが振動しヒカリの足下から岩石の剣が勢いよく飛び出した。
ヒカリはそれを右に跳んで避けたが、まるで振動が伝わるように連続して飛び出した岩石の剣がヒカリを追いかけてくる。
ヒカリは手槍を強く握りしめた。
(おそらく、2倍のサンダーは貯めることができただろう・・・)
ヒカリは帯魔石と手槍自体に、それぞれサンダー1回分の魔力を貯めていた。
つまり脳の負担なく、雷の刺突ブレイクスティンガーを使用することができる。
(しかし、この岩石の剣をどうするか・・・)
アズサは考えもなくアースニードルに、ヒカリを追わせているわけではない。
ヒカリのサンダーは近・中距離で最も威力を発揮する。
そのことをアズサは知っている。
ヒカリを囲うようにアースニードルを発生させ、自分の近くに寄せ付けない、且つ近くの川へ追い詰めているのだ。
だが、逆にヒカリもアズサのやり方を理解している。
「少し強引だが・・・」
ヒカリが持っている手槍が青白い雷を纏い始めた。
「帯魔石があれば、一時的に本来の力を引き出せる・・・!」
「何ッ・・・!?」
<ブレイクスティンガー・真>
脳の負担覚悟で自身のサンダーを加えたブレイクスティンガー。
これは、ヒカリの全盛期の威力に相当する。
相乗効果で魔力の鎧マジックアーマーにも雷の力が付与されたため、アースニードルを強引に踏み砕き突破することができる。
(ちょっと痛えが・・・)
ヒカリはその雷を纏い、アズサに向かって猛進した。
アズサもその光景を見て、咄嗟に岩石の長剣を右手に生成して構える。
激突する雷槍と岩剣。
しかし、雷の刺突は岩石の長剣を軽々と突き抜けて、アズサの横腹を掠めていった。
「ぐッ・・・」
掠めたとはいえ、雷の力は強力である。
ヒカリはそのまま走り抜けてから、膝から力が抜けていくのを感じた。
「ふ、そこまでやれるなら信じていいかもしれない・・・氷の賢者は任せるわ。私は風の賢者を見てくる」
アズサは傷口を手で押さえて言った。
「勝手な奴だな・・・」
ヒカリも振り返り、息を切らしながらそう言う。
アズサもこれ以上、味方同士で争うべきではないと思っていた。
「忠告しておくわ・・・<魔雄エブリシング>に出会ったら必ず逃げなさい」
「エブリシング・・・?」
「奴は今のあなた以上に雷を扱うことができる・・・」
アズサはそう言うと、ヒカリに背を向けて歩き出した。
(とりあえず、楽になるな・・・)
とヒカリは思ったが、本当に良いのかという思いもある。
ヒカリの懸念は賢者の村の防衛力であり、長老はそのことも考えてアズサを守りに回す結論に落ち着いていた。
しかし、元々ヒカリとアズサが協力するなら、賢者の召集は盤石なものになるだろうと長老は確信していたのだ。
ヒカリは無駄なことを考えるのをやめて、氷の海に向かって歩き出した。
氷の海を渡るには、陸地にある十数個の里から船を出してもらう必要がある。
ヒカリはその中でよく栄えた里を選び、船は早朝に出航するため、ここで一泊することにした。
すでに肌を刺すような肌寒さである。
「調子が良さそうだな。ヒカリ」
ジムが言った。
ヒカリからすれば、この寒さが常に感じている頭の微熱を取り去ってくれる。
「鍋みたいなものが食べたい」
ヒカリはこの旅の間、ほとんど断食状態だったため、頭痛が楽になった今、食欲が湧いてきたようだった。
2人が飯屋に入ると店主が駆け寄ってくる。
「すいません。ペットの入店はお断りしていまして・・・」
「無礼者!賢者の村の使者であるこのジムを動物扱いするとは何事だ!」
とジムは店主を叱りつけ入店した。
ヒカリ達が鶏や野菜を加えた鍋が煮えるのを待っていると、大声で騒ぐ十数人の若者が気になった。
大体16歳から20歳まではいっていない集団のようだが、何やら良からぬことを企んでいる内容である。
「すいません、他のお客様の迷惑になりますのでお静かに・・・」
店主が注意すると、若者のリーダーらしき男が店主の胸ぐら掴んだ。
「何だよ。じいさん」
男は低い声で威圧した。
「やれやれ・・・」
ヒカリはそう呟いて立ち上がる。
本来なら見て見ぬふりをする性格ではあるが、賢者としてそうもいかない。
賢者は王の代わりであり、現代の警察のような役割は、賢者の弟子や配下が担っている。
「お前たち、静かにしなよ」
ヒカリは男の後ろから声をかけた。
「何だと?」
男が振り向くとヒカリの顔を見て驚いた。
「先生!先生じゃないですか!」




