第二章「炎の山」2
(アズサが来ていないことが気がかりだが・・・)
ヒカリは一瞬考えたが、目の前の敵に神経を集中することにした。
以前戦っているとはいえ、ヒカリはマンティスの戦法を知らない。
なぜなら前回の戦いでは開幕、広範囲の高出力魔法によって、七魔雄全員まとめて一方的に退却へ追い込んでいたからだ。
しかし、禁忌サンダーストーム。
この魔法は七魔雄達の脳に恐怖の記憶として刻み込まれている。
だからマンティスとしては、ヒカリが高出力の魔法を出す前に勝負を決する必要があった。
つまり、速攻である。
マンティスが恐ろしい速度で、右腕と一体化した鎌を振り上げヒカリに近づいた。
「気をつけろヒカリ!こいつは空気の斬撃を飛ばして攻撃してくるぞ!」
リョウが叫んだ。
高速で振り下ろす魔力を帯びた鎌が空気を押し出し、その空気すらも斬撃を帯びる。
この攻撃の厄介な点は、空気の刃のため武器を横にして受け止めることができないことだ。
しかし、ヒカリは身体を逸らしてそれを回避し、さらにマンティスに接近する。
ヒカリの作戦も速攻だった。
「サンダー」
青白い雷槍がマンティスの頭頂から踵へと駆け巡る。
マンティスの身体は鎌を振り上げた状態で停止し、煙と焼けた臭いを周囲に放った。
しかし、ヒカリは自分を見下ろすその目にまだ正気を宿しているのを見逃さない。
ヒカリは咄嗟に飛び退いて、振り下ろされる鎌を回避する。
魔族というものは、人間と違い不死身の存在だ。
廻る魔力によって生命活動を維持しているため、血や臓器が存在せず、身体を貫かれても死ぬことはない。
サンダーによる損傷も魔力の廻りによって、すぐに回復するはずだ。
「そうか。お前、あの雷の嵐を使えないんだな」
そう言ってマンティスは嘲笑う。
ヒカリは今日、盗賊に一度サンダーを使用し、すでにめまいを感じている。
二度目のサンダーによって生じたヒカリの不調をマンティスは感じ取っていた。
(雷の魔法。威力がある分、容易には使えないのだろう・・・)
マンティスは思う。
そして、ヒカリは自身の脳がリミット(限界)を迎えようとしていることを理解していた。
その前兆である手の痺れがすでに始まってるのだ。
剣による受けが不可能なマンティスの攻めに対し、ヒカリはただ避けることしかできない。
やがて、空気の刃によって高範囲化した鎌の連撃は避けきれなくなり、身体中に切傷を負ってしまった。
マジックアーマー。
マジックアーマーは全体魔力の何割かを体表を覆う防御膜に回す魔法使いや賢者の基本技術であり、これが無意識のうちに発動するよう師から常に訓練が施されている。
ヒカリは常人であれば、肉体がバラバラになってしまうマンティスの斬撃を、この賢者の防衛構造によってどうにか耐えていた。
この時点でヒカリの前兆は手の痺れを超えて、すでに視野の半分に靄がかかるほど深刻化している。
絶対絶命だった。
「ヒカリ!」
すでに満身創痍のリョウも、ヒカリの身を案じ立ちあがろうとする。
「問題ない・・・」
ヒカリは震えながらもニヤリと笑い、リョウを制した。
「今のお前に何ができる」
マンティスはヒカリの不適な笑みに疑問を持つ。
「ふふ、教えてやろうか・・・?」
ヒカリはここで初めて剣を鞘から抜いた。
「人間は全力で走るよりも、常に無理のない一定のペースで走った方が長い距離を走ることができるんだよ」
「何が言いたい?」
「さっきお前にお見舞いしたのは短距離走のサンダーだが、次にお見舞いするのが長距離走というわけさ」
そう言ってヒカリが前傾姿勢になった瞬間に、剣が強烈な光を放った。
ブレイクスティンガー。
ヒカリはここに来るまでの道中、剣に少しずつ雷の魔法を蓄電させていたのだ。
おそらくサンダー1回分以上の雷を溜め込んでいるだろう。
ヒカリが突き出した雷の剣がマンティスの腹部を貫通し、そこからさらに追加のサンダーを流し込む。
つまり2倍のサンダーの出力がマンティスを襲ったのだ。
「くわあああああああああああッ!」
強力な電撃でマンティスの身体は崩壊し、ボロボロと崩れ宙に霧散していく。
安堵から地面に膝をつくヒカリ。
(魔族であってもこれだけ破壊し尽くせば、生きてはいられないだろう)
ヒカリは思った。
しかし、禁忌サンダーストームをギリギリ耐えて撤退した魔雄が、2倍の出力のサンダーであるブレイクスティンガーで消滅するとは思えない。
おそらく、ヒカリと同様に七魔雄も禁忌サンダーストームによる大きな損傷が完治していなかったのだとヒカリは考えるようにした。
「ヒカリ、感謝する」
しかし、リョウの声はヒカリに届いていない。
ヒカリの感覚はすでに大半麻痺している。
その後、すぐにヒカリはリミットを迎え、激しい頭痛と吐き気を感じ立っていられなくなり、その場に倒れ込んでしまった。




