第八章「魔王の封印」1
「念のため配置を崩すな」
長老は言った。
配置とは、封印魔法を使うためのフォーメーションである。
先頭、両翼、補填という役割があり、実力のあるヒカリかアズサが<先頭>、独創性のあるスズが左右で<両翼>を担い、知識と経験のある長老やバンが後方の<補填>でバランスを取り小技を効かせていく。
本来であれば先頭がヒカリ、両翼にリョウとスズ、補填をアズサとエイシンで行うというのが理想型だった。
しかし、今となっては先頭をアズサ、スズが両翼の右、長老が補填の左に備え、いつでも封印魔法に入れる準備をすることしかできない。
(これで両翼左にヒカリ、補填右にバンが入れば封印魔法に入れるが・・・)
アズサは思った。
ここで魔王が魔力の集中に気づいたのか、アズサ達の方向に目だけをギョロリと向ける。
常識外れの巨顔から向けられた視線は尋常でない迫力と恐怖があった。
「スズ、しっかりして!」
後方で震えているスズを見てアズサは叫んだ。
「もし、魔王が攻撃を仕掛けてきたら右に飛ぶ」
長老が言った。
回避する方向を決めていなければ、配置が大きく崩れてしまうからだ。
しかし魔王はこちらに目を向けるのをやめ、さらにこの世界に侵入しようとしてきている。
この程度の者達なら取るに足らないと思われたのだろう。
やがて、アズサ達のもとに逃げ惑う賢者の村の人々の叫び声が聞こえてきた。
「改めて言うが、50年前に我々が魔王を相手にしたのは、ちょうど今と同じくらい顔を出していた状態にすぎない。つまり今回と同様の再封印だ。それは我々の師の時代でも同じ。だから奴が本当にこの世界に出てきた場合の魔力は未知数なのだ」
長老が言う。
おぞましい姿と魔力の圧。
今みたいにそこから身動きせず世界の終わりを待つよりも、刺し違える覚悟で飛び出して行けたならどんなに楽だろう。
アズサでさえ発狂しそうになるのを必死で抑え込んでいた。
(こんな時、ヒカリが居てくれたら・・・)
とアズサは思う。
あのマイペースなヒカリならこの状況をどうするだろうか。
きっと柄にもない真剣な眼差しでこれから起こる未知の惨劇をも見つめていたに違いない。
そして、魔王はついに長い首野の付け根まで封印から脱して、真下にある賢者の村にキスをする寸前のような格好になっている。
長老が息を飲み、スズは極度の緊張と恐怖で青ざめている。
(これ以上は・・・)
アズサが思ったその時だった。
「長老、申し訳ございません。金の賢者バン、今到着致しました」
上裸で兜をかぶった男がスッと長老の右側に立った。
「おうバンか!説教は後だ。後はヒカリが来れば封印魔法に入ることができる」
「ヒカリは不在ですか?リョウとエイシンは何をしているんです?」
「リョウとエイシンは死んだ。ヒカリも意識が戻らない。だが、今はヒカリが目覚めのに賭けるしかないんだ」
「馬鹿な。あの2人が・・・」
バンは言葉を詰まらせた。
ここでアズサが魔王の圧倒的な魔力に埋もれていた後方の魔力に気がつく。
「魔雄!?」
アズサがそう言って、驚くように振り返ると長老とバンの後ろにネズミの怪物が立っていた。
「・・・あなた、ジムなの!?」
「ああ、アズサ。よくわかったな」
ジムは俯きながら目だけをアズサの方に向けて苦笑いをしている。
「俺の正体は七魔雄ソルダム。闇の賢者に捕らえられて今まで力を封印されていたんだ」
「そうか。だがお前がバンを説得してきてくれたのだろう。素直に礼を言いたい」
長老は言った。
「しかし、本当にこのまま見ているだけなのか?このままじゃ、魔王が完全に出てきちまうぜ」
バンが言う。
「戦っても勝ち目はない。今はヒカリを待つしかないのよ」
アズサが答えた。
「馬鹿げている!長老!貴方はこれが世界にとって最善の選択だと本当に信じてるんですか!?」
「ああ、信じている」
長老は確固たる意志でバンを制した。
するとジムが長老の横を通り過ぎて、両翼左の位置で立ち止まった。
「俺が5人目の穴を埋めよう」
「ジム!本気なの!?」
七魔雄であるジムからすれば魔王とは目標であり無条件で崇拝する存在である。
(しかし、罪もない賢者の村の人々が殺されるのを見るくらいなら・・・)
ジムは人間と過ごした5年間を振り返り、魔王と敵対する覚悟を決めていたのだ。
「両翼であれば俺の魔力を使えるかもしれないと、ちょっと思っただけさ。試す価値はあるだろ?」
「確かに理論上は可能だ。しかし、これもまた賭けになるがな・・・」
長老が静かに言う。
おそらく失敗すれば、今度こそ魔王がこちらに目をつけ襲いかかってくるだろう。
「やりましょう。もうこれ以上待つわけにはいかないわ」
アズサは自分自身を説得するように言った。
「みんな準備はいい?」
アズサは最終確認をした。
「ああ、お前達の成長しかと見せてくれ」
長老は微笑みながら言う。
「ここまできたら私でも腹を括れるわ」
スズは少し落ち着きを取り戻した様子で言った。
「ふふ、補助は任せろ。どーんと行けい!」
バンはそう言って豪快に笑う。
「やっとでお前らの役に立てるな」
ジムはしみじみとそう言って構えた。
「OK、さあ全力でいく!」




