第八章「魔王の封印」2
まず、アズサの身体が光り輝く根岸色の魔気を纏った。
やがて、それが上空にふんわりと浮かび巨大な玉状になっていく。
続いて、スズの緑色の魔気とジムの白色の魔気が螺旋状に上がって行って、上空の魔力の玉に巻き付いて、最後に、長老の赤色の魔気とバンの金色の魔気の玉が上空に打ち上がって、帷のように魔力の玉を覆っていく。
「これで、仕上げね!」
アズサは疲弊した自分と仲間を鼓舞するように力強く言う。
そして彼女達が最後の一手間を加えると、上空には燦々と輝く太陽のような大玉が出来上がった。
その大きさは魔王に匹敵するだろう。
さすがの魔王もその規模の魔力に気がつき、慌ててこの世界に這い出そうともがいた。
唯一恐れる封印魔法の存在を思い出したのである。
「ウガガガガガ!」
魔王の耳障りな呻き声が世界に響きわたった。
「もう一度封印世界へ戻れ!魔王!」
長老が叫び、魔力の大玉がゴ・ゴ・ゴ・ゴと魔王に近づいていく。
<封印魔法・世界送り>
魔力の大玉が魔王にぶつかった瞬間、辺りは強い光に包まれ、光が晴れた頃には魔王の姿は跡形もなく消滅していた。
「成功したの・・・?」
スズが聞いた。
「ここにある石柱が成功の証だ。しかし、これは一時しのぎにすぎん。何年後かに魔王は必ず復活する」
長老は5人が立っている中心に置かれていた石柱を拾い上げそう言った。
「アズサ。この石柱の管理、任されてくれるな?」
アズサは長老からそっと石柱を受け取る。
「確かに任されました」
「さて、じゃあ俺はここらで帰らせてもらおうかな」
バンが言った。
「しっかり持ち場に帰れよ」
長老がそう言うと、みんな声を出して笑った。
しかし、ここで一瞬だけ辺りが闇に包まれる。
「え・・・?」
闇が晴れると長老の背後に黒いドレスを着た女性が立っていた。
「エンカ・・・お前・・・」
長老の腹部から血の付いた手が伸びている。
「長老!?」
アズサは驚き叫んだ。
「七魔雄の殲滅に魔王の封印と、貴方達は私のためによく働いてくれました」
エンカの綺麗な声が響く。
「なぜだエンカ・・・?リョウのことを恨んでおるのか?」
「ふふ、違いますよ。それとは関係ない。今までは人間としての人生を楽しんできました。しかし、これからは本当の自分に戻るだけです」
「どういうことよ」
アズサが戸惑いと怒りに震えながら言った。
「本当の自分。<源流>としての人生!」
「え!?」
アズサは驚いた。
源流という言葉は何度か聞いたことがある。
長老の身体が真っ二つに切り裂かれ血が飛び散った。
よく見るとエンカの右腕は鎌のように変形している。
「ああ、この腕?七魔雄マンティスの魔力性質ですよ」
「エンカ!貴様ッ!」
バンがエンカに飛びかかった。
しかし、瞬時にバンの首が飛ぶ。
間髪入れずスズが掌を突き出すと風の刃が生成され、エンカに向かっていった。
<ウィンドスラッシャー>
「ウィンドスラッシャー・・・しかし、それはマンティスの物の下位互換」
エンカが右腕の鎌を振り下ろす。
<ウィンドスラッシャー・真>
エンカが放つ凝縮された風の刃が、スズのウィンドスラッシャーを掻き消し、スズの身体を斜めに切り裂いた。
この一瞬にして両断された長老、首のないバン、出血性ショックで死んだスズの遺体が地面に転がる。
「エンカ!」
アズサが右拳を振りかぶり、地面から浮かび上がった岩石が拳に集中していく。
<火箭岩拳>
「これは・・・良い魔力」
エンカはそう言うと、右手の鎌を振り上げた。
アズサが拳を放つと同時に、エンカが鎌を振り下ろす。
岩の拳と風の刃が衝突ししばらく押し合ったが、エンカはそのうちにアズサの背後をとっていた。
「素晴らしい魔力ですけど、所詮は人間。貴方の魔力も私が貰ってあげましょう」
エンカがアズサに向かって鎌を振る。
しかし、その鎌がアズサの命を刈り取る直前、2人の間に青白い光の玉が発生した。
<エレクトリックショック>
光の衝撃を受けエンカは飛び下がり、アズサは吹き飛んだ。
アズサの飛んだ先にはヒカリがいる。
「エンカ!てめえ・・・!」
ヒカリはアズサを受け止め、声を荒げた。
エンカの攻撃を腹部に受けたアズサの出血が酷い。
「ヒカリ、これを・・・」
アズサが懐から石柱を取り出し、弱々しい声でそう言った。
「そうか、封印は成功したんだな」
ヒカリはそう言って、アズサから石柱を受け取った。
「ヒカリ!」
ジムが叫んだ。
「ジム、説明は後でいい。アズサを頼む」
ヒカリはそう言うと、ジムにアズサを預けて、エンカに向けて歩いていった。
「ふふ、ヒカリ。これで私の思い通り。貴女が何をしようともう止められない」
「ここでお前を殺してもか?」
ヒカリが背中に携えていた手槍を右手で取り出す。
「貴女が炎の山でマンティスを倒した時、あそこに私も居たのよ。魔力は源流を辿り魔力強き者に分配される。そして全ての魔力強き者は源流から生まれた。あの魔王でさえも・・・。今、マンティスの魔力は私の中にある。私は<源流の生まれ変わり>なのよ!」
ヒカリがマンティスを倒した時、マンティスの持っていた魔力を源流であるエンカが吸収していた。
世界に存在する魔力は、世界に存在する水と同じく一定であり、全ての魔力は所持者が死亡しても消失せず、源流の元に戻っていく。
「貴女はどうあがいても私に勝てない。溢れた世界の魔力を私は意のままに操れる」
つまり、エンカは全ての倒された人間と魔族の魔力を使えるのだった。




