第一章「旅立ち」ラスト
ヒカリ達が通る森は<腐敗の森>と呼ばれており、運気や生命力を吸われる言い伝えられている。
民はまず不気味がって近寄らない。
魔法が使える者であっても、十人以上での通過が決まりであった。
特に何か猛獣が住んでいるとかいうわけでもないが、辺りは不気味で空気も悪く、身を隠せるような物が無数に存在している。
何者かの奇襲を受けても文句は言えない。
それでもヒカリ達はここを通ることにした。
理由はジムが急かすのと、ヒカリ自身この仕事を早く終わらせて帰りたかったからだ。
森の入り口、木々の間を通過する時、ヒカリは薄紫色に見えるほどの瘴気を嗅いだ。
「空気が悪いな・・・」
「気をつけろよ。奴らが潜んでいるかもしれない・・・」
ジムはヒカリの肩の上で囁く。
奴らとは言うまでもなく賢者狩りの手下である。
ヒカリは木の根や不気味な花々に足を取られそうになりながら進んだ。
そして森の奥に行けば行くほど、何者かが発する音や気配を感じて仕方ない。
(鬱陶しい奴らだ・・・)
ヒカリはこの森ごと雷で焼き払いたい衝動に駆られたが必死で抑え、しかたなく剣を鞘から抜いた。
そんなことを考えながら少し開けた場所に出ると、左右の茂みからから2人の盗賊が飛び出して同時に斬りかかってくる。
ヒカリは片方を素早く斬り払って、もう片方も鍔迫り合いに持ち込み、金的を蹴り上げてから斬り倒した。
今度は木の上から飛びかかってくる盗賊達を、ヒカリは空中で華麗に薙ぎ倒していく。
さらに現れた数人の賊を倒し、それでもまだ茂みや木陰に複数の賊が潜んでいることは明らかだった。
「どうやら大将さんは臆病者のようだ。剣だけで相手してやるから出てきなよ」
ヒカリが賊の指導者を挑発する。
やがて、手下では手に余ると見て、指導者らしき影がヒカリの前に移動してきた。
「どうやら、ただの魔法使いではないな」
その影の正体は黒いマント姿の美形な男だった。
「私は賢者狩りの幹部イテタキ。名前を聞かせてもらえないか?」
男はそう言って、剣を横に構える。
「雷の賢者ヒカリ」
「ほう、これは大物だ」
イテタキは跳躍に近い足捌きで高速で移動し、ヒカリを剣の間合いに入れると思いっきり斬り上げた。
魔法使いとの戦いでは間合いを潰すのが鉄則である。
ヒカリはそれに張り合わず、飛び退きながら剣で受け、宙返りしながら距離を取った。
それでも、イテタキはさらに深く踏み込み、勢い任せの連撃でヒカリを追い詰めていく。
「ヒカリ・・・!」
ジムが思わず声を上げる。
(なかなか強いな・・・)
ヒカリのサンダーであれば、倒せないこともないが、脳への負荷で動けなくなることも考えられる。
ヒカリはそう思いながら剣に力を込めると、お互いの剣がバチッと音を立てて一瞬青白い光を放った。
「くッ・・・!」
イテタキはそう唸って一歩後ろへ退がり、ヒカリはその隙を見逃さず、素早く逆袈裟に斬りつけた。
そして、イテタキは苦悶の表情で後退りしゃがみ込んだ。
「どうかしたかい?」
ヒカリはニヤリと笑い、イテタキを見下ろす。
ヒカリは<エンチャント>という手法で自身の剣に微量の雷を流し、イテタキを剣伝いに感電させたのだ。
「覚えていろ・・・」
イテタキは懐に手を入れ白い玉を取り出すと、それを地面に投げつけて破裂させた。
破裂した玉から飛散した濃厚な煙が辺りを包んでいく。
煙幕だった。
周囲の気配が遠ざかっていく。
「逃げやがったか」
ジムはそう言ってほっとした。
ヒカリは剣を鞘に戻し、何事もなかったかのように歩き出す。
こんな空気の悪い場所には1秒でも居たくないヒカリは駆け足で森を通り抜けた・・・
この世界には王がいない。
その代わり、魔法に長けた者である賢者が各地で密かな権力を握り、民を守っている。
50年前に不死の魔王が世界に侵攻してきた時も、5人の賢者が力を合わせ<封印魔法>でそれを封印した。
長老はその賢者の1人であり、今は引退して各地の賢者に指示を出す、いわば王のような役割を担っている。
そして今、魔王の復活の予言を聞いた長老は、各地を治める賢者達を呼び戻すためヒカリを向かわせた。
・・・というのが今回の経緯だった。
しかし、本来であれば適当な使者を送れば済む話である。
ヒカリでなければならない理由は、急を要するのと、<七魔雄>の存在であった。
七魔雄とは、魔王に使える強力な魔族であり、それぞれが賢者を超える力を持っている。
実は5年前にその七魔雄が世界に侵攻した際、人類が一度滅びかけていたのだ。
七魔雄は必ず封印魔法を妨害してくるだろう。
つまり、賢者の中でも才ある者が使者でなければならない。
幸い、賢者の村にはヒカリとアズサという2人の天才が控えていた。
(七魔雄、今度こそこの世から葬り去ってやる・・・)
この世界の運命を背負うヒカリは厳しい戦いを予感していた。




