第一章「旅立ち」1
「もう一回最初から説明してもらって良いっすか?」
そう言ったのは、藍色の帽子とローブを身に纏った<ヒカリ>という名の小柄な女性である。
帽子とローブにはそれぞれ雷のマークがワンポイントで入れられてあった。
そんなヒカリが木陰で座り込み、目の前の老人を見上げている。
「分からんのなら、途中で質問せいと何時も言っとるだろうが」
老人はそうヒカリに怒鳴りつけた。
ここは<賢者の村>
賢者とは、簡単に言えば凄い魔法使いで、ここは優秀な魔法使いの中から賢者を選定するための村だった。
そして、この老人はこの村の長老であり、賢者達に指示を出す重要な役割を担っている。
「いや、ちょっと今日は熱っぽくて・・・」
ヒカリは額に手を当てて言った。
「またそれか」
「いやほんとなんですよ」
「とにかく、賢者達を呼び戻せと言っているのだ」
「ああ、本当に今日は熱っぽい・・・アズサにでも頼んだらどうです?彼女の方が上手くやってくれますよ」
「言い訳せず、さっさと行かんかッ!」
長老が怒りの炎を吐くと、ヒカリは飛び上がり村の外へ走っていった。
「まったく・・・」
長老が自宅に戻ると、暗い緑色のローブを纏いメガネをかけた女性が待機していた。
見た目からヒカリと同じ歳くらいなのが分かる。
「まさか、ヒカリに行かせたんですか!?」
その女性が語気を強めて長老に迫る。
「ヒカリにしかできんのだ」
「私に命じてくだされば」
「アズサ、確かにお前は天才だ。<地の賢者>としてよくやってくれている」
女性の名はアズサ。
地の賢者に選ばれた偉い魔法使いである。
「だが、お前にもわかるだろう。ヒカリは別だ。現に彼女は一度世界を救っている」
「サンダーストーム・・・」
アズサは過去を思い出し俯いた。
「そう。あれがあれば魔王であっても容易に近づけんだろう」
「だから心配なのです!」
「ああ、確かにあれは諸刃の剣・・・あれのせいでヒカリは脳に深刻なダメージを負ってしまっている・・・」
「分かりました。私が彼女よりも早く賢者達を連れてきます」
アズサはそう言い残し去っていった。
(気持ちは分からんでもないが、アズサの負けず嫌いも困ったものだ)
長老はそう思った。
長老は本心、アズサにも一緒に行ってもらいたかったが、対立する2人の賢者を仲裁することは不可能だった。
そして一方、ヒカリは村を追い出され道を歩いていた。
「確か長老は何かに注意しろって言っていたな・・・」
ヒカリがそう呟くと、目の前に羽の生えたネズミのような生物が飛んできた。
「ヒィッ・・・!」
ヒカリはそう叫ぶと、腰を抜かして尻もちをつく。
「おいおい、しっかりしてくれよヒカリ」
羽ネズミはそう喋ると腕を組んだ。
「ネズミが喋った!?」
「また記憶障害か?勘弁してくれ。俺はジム。お前だけじゃ心配だから着いてきたってわけよ」
ジムは魔法によって生み出された知能の高い生物で、賢者の村で人間と共に生活している。
「へえ」
「そんなことより、長老が言っていたのは<賢者狩りに気をつけろ>だろ?」
「何それ?」
「賢者狩り。それは賢者が人間に害をなすと信じてやまない組織だよ。最近では魔法使いさえも否定していて、正体が知れれば豹変して襲ってくる。はっきり言って異常な奴らさ」
「難しい言葉を使わないで」
「お前にも分かるように言えば、悪い人だよ」
ジムはそう言うと、ヒカリの肩にちょこんと乗った。
「さあ、行こうや」
「どこに?」
「はあ・・・お前の間抜け発言にツッコんでいたらきりがない。まずこの先の森を抜け、炎の山にいる<炎の賢者>に会うのが良いんじゃないか?」
ヒカリはジムの指示の通り、森を目指した。
しかし、道中で待ち構えていたのは6人の盗賊だった。
それぞれが剣を携えている。
「どう見ても魔法使い。しかもガキだ」
盗賊の長らしき男の声量が大きく、ヒカリ達のもとまで声が届いてきた。
「生捕にすれば報酬もでかいだろうな」
そう言って盗賊達がにじり寄ってくる。
「おいおい、あれは賢者狩りの手先じゃないか」
ジムがそう言いながら、ヒカリの頬をつついた。
そして、先頭にいた盗賊がヒカリに飛びかかろうとした瞬間、青白く発光したかと思えば、黒く焼けた状態で前のめりに倒れこんだ。
<サンダー>
相手の頭上に雷を落とす雷の魔法である。
「う・・・!?」
盗賊は相手の力量を測り間違えていた。
相手は魔法使いの上位の存在である賢者なのである。
驚いた盗賊の1人が逃げ出し、それに続いて他の者も逃げていった。
(めまいがする・・・)
ヒカリは思う。
ヒカリの脳には、過去に最大出力でサンダーを使用した時の後遺症が残っており、魔法を使うたびに発熱するようになってしまっていた。
「大丈夫か?」
ジムが額を押さえるヒカリを見て言った。
「ああ・・・」
ヒカリは焼け死んだ盗賊の剣を手に取って鞘に収め、森に向かって歩いていった。
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