第七章「希望」1
エブリシングとナイトメアの立っている大地が隆起し、発生した岩石の棘が足を固定した。
エブリシングが見上げると、緑色のローブ姿の賢者が落下してきている。
「地の賢者、生きていたのか!?」
「アズサ!」
ヒカリは思わず叫んだ。
アズサはエブリシングに向かって急降下し、右手の掌打を加える。
もちろん、エブリシングは足を固定されているため避けることができない。
<フェイシャルプレッシャー>
落下と魔法の衝撃波の力で頭から首、背骨を破壊するアズサの極悪魔法である。
しかし、エブリシングはそれを両腕の前腕で防御した。
アズサはそれを見て、彼の前腕を土台として右手で跳躍し、宙返りしてヒカリの側で着地する。
「ヒカリ、頭の方は大丈夫?」
アズサは別にからかっているわけではない。
「今日は少し調子が良くてね」
ヒカリはそう言って鼻で笑う。
ヒカリはこれ以上の助っ人は他にないと思い、勝ちを確信するほどの希望を得て立ち上がった。
そして、今度はこちらの番だと言わんばかりにヒカリは駆け出し、アズサもそれを見て大地を踏みつける。
<アースニードル>
アズサの足下から次々に岩石の剣が飛び出し、エブリシング達に向かって範囲が拡がっていった。
迫り来る剣山の波をエブリシングは飛行して避けたが、飛べないナイトメアは後ろに退いて避けるしかない。
もし、ナイトメアが飛んで避けた場合、ヒカリのサンダーを回避する術は失われる。
ヒカリが上から攻撃する雷の魔法を得意とするならば、アズサは下から攻撃する地の魔法を得意とする。
この2人の魔法の連携は、まるで小動物を捕食する猛獣の顎のように機能していた。
(エブリシングが飛んで避けたな)
ヒカリはそう思い、アズサに目配せをした。
アズサはそれを見て頷いて、まるで切削工具のような岩石を5つ地面から生み出し、ヒカリがそれに雷の魔法をかける。
<スパイラルストーン>
螺旋状の雷の流れが岩石を回転させ、それが高速で射出された。
エブリシングは華麗に宙を舞い4発の岩石を避けたが、1つが翼に穴を開け、バランスを失って緩やかに落下した。
「あの時のサンダーストームで生きていたとは・・・」
エブリシングが最も警戒していたのはヒカリではなくアズサだった。
だから、エブリシングはアズサのもとにだけ何度も現れて、旅の序盤からアズサの妨害ばかりをしていた。
そして、最終的にサンダーストームによって彼女を跡形もなく葬り去ったと思っていたが、その激しい攻撃の後で生死の有無を確認できなかったのが失敗だった。
しかし、エブリシングにも希望がある。
ナイトメアの能力は一騎討ちでこそ最大の効果を発揮するのだ。
<マイクロスリープ>
アズサの意識が飛び一瞬の隙ができ、ナイトメアがアズサに襲いかかる。
(アズサはナイトメアを相手にするのが手一杯だろう。それならば・・・)
エブリシングは思った。
ヒカリとエブリシングの一騎討ちとなり、勝負は振り出しとなる。
エブリシングが天に手をかざす。
「どれだけ足掻こうが俺の勝ちは変わらない」
エブリシングが暗雲を呼び、戦場に影がさした。
<サンダーストーム>
しかし、一発目の雷が落ちる前にヒカリの放った青白い閃光がエブリシングの動きに隙を作った。
<ラピッドサンダー>
威力は低いが超高速で放たれる雷撃なら、一瞬でもエブリシングの動きを止めることは可能だろう。
そして、ヒカリはすでに天に手をかざしており、エブリシングの呼び出した暗雲を自身の雨雲で覆い隠した。
「ならば、私はこの違和感に賭けよう」
ヒカリがそう言って勢いよく手を振り下ろすと、連続する激しい雷撃がエブリシングの身体を突き抜けた。
<サンダーストーム・真>
このサンダーストームは5年前にヒカリが七魔雄を撃退したものと同等の威力を持つ。
しかし、それだけではない。
今度のサンダーストームは広範囲ではなく、エブリシングに集中して放つのだ。
つまり、単純に考えて威力は7倍以上となる。
「ふ、ふおおおッ!」
エブリシングは継ぎ目すら感じられない雷撃の集中砲火を受け続けていた。
ヒカリの感じた違和感。
マヤが渾身のブレイクスティンガーを放った時、エブリシングはその雷の力を吸収した。
しかし少しして、エブリシングはブレイクスティンガーを受けた部位に不快感が残っていることに気がつき、雷の力を吸収しきれていないのではないかという懸念を抱いてしまった。
そして、今度はヒカリがブレイクスティンガーを放った時、エブリシングはその懸念が頭にあったため、直撃を嫌がって不自然な避け方をしてしまった。
もし、エブリシングがこの不自然な行動をせず堂々としていたら、ヒカリは雷が通用しないと思い込み攻め方を変えたかもしれない・・・
現にエブリシングの感じた不快感は本物で、雷の吸収には限度がある。
エブリシングの吸収力は合計108回もの強力な雷を受け続けたことで過負荷によって止まり、彼はそのまま青白い光と共に跡形もなく消えてしまった。
空が晴れていく。
「ふああ・・・」
ヒカリは大きなあくびをした。
(意識が、切れる・・・)
そして、尋常じゃない眠気を感じて、そのまま前のめりに倒れ込んでしまった。
ヒカリの脳も自身の雷の生成で生じる過負荷に耐えられなかったのだ。




