第六章「波状総力戦」ラスト
「間に合わなかったようだね・・・」
ヒカリは呟いた。
「賢者を2人と魔法使い1人を殺した。あまりにも退屈な戦いだったぞ」
エブリシングはマヤの返り血を浴びた右手を主張して挑発する。
「リョウ、エイシン、・・・マヤ」
エブリシングの背後にはマヤ、そして少し離れてリョウとエイシンの遺体が転がっている。
「舐めるなよエブリシング。賢者は戦うために民に生かされた存在。仲間の死で冷静さを失ったりはしない」
ヒカリは怒りを押し殺し、イテタキから借りた流雷剣ディスチャージを鞘から抜いた。
エブリシングが天に手をかざす。
「なんでもいいが、死ね」
エブリシングが手を振り下ろすと、ヒカリの頭上に赤黒い電流が降ってきた。
しかし、ヒカリが振り上げたディスチャージがそれを弾き飛ばす。
「何ッ!?」
ヒカリはすぐにその場を離れて、エブリシングと同じように天に手をかざした。
(アズサから聞いていた情報と、イテタキから剣を借りていなければ、今ので御陀仏だった・・・)
ヒカリが手を振り下ろす。
<サンダー・真>
青白い雷がエブリシングに襲いかかり、全身を駆け巡った。
が・・・。
「ふふ、お前があの時に放ったサンダーストームを喰らい、俺はさらに進化したのだ!」
エブリシングは流れる電流を咀嚼するように身体を震わせ、魔力を吸収してしまった。
「なるほどそういうことか。ならば、次はこいつを喰らわせてやる」
ヒカリはディスチャージを背の鞘に納め、今度は手槍を構えながら、エブリシングを間合いに入れた。
<ブレイクスティンガー・真>
帯電する手槍がエブリシングの腹部に到達すると同時に、エブリシングの帯電した右手がヒカリに襲いかかる。
しかし、ヒカリは身体を捻り、右手の攻撃を背のディスチャージで防いで、雷を無力化した。
ヒカリはエブリシングに背中を殴打される形になり、数メートル吹き飛ばされて着地する。
(雷は吸収されているようだが、なんだったんだ今の動きは・・・)
ヒカリの感じている違和感。
それはブレイクスティンガーの到達時、エブリシングがそれを少し避けようとして、また身体を戻した事だった。
「5年前の借りを今返そう」
エブリシングはそう言って手を振り上げた。
空が暗雲に覆われていく。
(これはまさか、サンダーストーム・・・!)
ヒカリは驚いた。
いくらディスチャージで雷を防げるとはいえ、タイミングも位置もランダムな連続して繰り出される雷の嵐を防ぎきるのは不可能である。
(それならこの違和感に賭けるしかないか)
ヒカルがそう思っていると、ここで2つのぬくもりを肩に感じた。
(まさか、この魔力は・・・)
ヒカリの中に、炎と氷の魔力が流れ込んでくる。
ヒカリは決心し、右手をエブリシングに向けて立った。
乱れ飛ぶ赤黒い雷がヒカリとその辺り一帯を破壊していく。
しかし、結束した3人分の魔力から作り上げられたマジックアーマーがヒカリの肉体の崩壊を防いでくれていた。
そして、リョウとエイシンの残留思念に支えられたヒカリの右手から凄まじい光線が放たれる。
<トリニティサンダー>
エブリシングはその光線を右手で受け止めようとした。
「う、ふおおおッ!」
エブリシングは驚く。
これは単純な雷魔法ではなく、賢者3人分の生命力、質量に等しい。
エブリシングはそれを右手だけでは抑えきれないと判断し、左手も添えて必死に押し返そうとしたが、圧倒的な力に腕を弾かれて、そのままそのエネルギーに押し流されていってしまった。
暗雲が晴れていく。
それと同時にヒカリの感じていた2人の魔力もふわりと消えていった。
(勝てよ、ヒカリ)
ヒカリにはリョウとエイシンの声が聞こえた気がした。
約50メートル先で、エブリシングが屈んでいる。
「まさか、死者の魔力を扱うとは驚いたぞ」
「扱ったわけではない。託されたんだ。魔力の塊でしかないお前達に、人間の絆はわかるまい」
「ふふ、だがな俺たちにも仲間意識というものがあるのだよ」
エブリシングがそう言うと、ヒカリの後方から羊の様な顔の筋肉質な怪物が歩いてきた。
「七魔雄ナイトメア。俺のお友達だ」
エブリシングがニヤリと笑い立ち上がる。
(七魔雄が2体・・・さてどうしようか)
ヒカリはそう思って後ろを見ると、ナイトメアはすでにお互いの間合いにまで接近していた。
ヒカリはすぐにディスチャージを振り下ろしたが、ナイトメアの剛腕に弾き飛ばされ、もう片方の剛腕から繰り出される拳がヒカリの腹部にめり込んでいく。
「ぐッ・・・!」
ヒカリの軽い身体が呆気なく宙に投げ出され、十数メートル先で落下した。
(本格的にまずいな・・・)
ヒカリは這いつくばりながら、エブリシングとナイトメア相手にどう戦うか考えたが、どう考えても戦力に差がありすぎた。
エブリシングとナイトメアが余裕の足取りで、ヒカリとの距離を縮めていく。
「雷の賢者よ。俺の勝ちだ」
エブリシングがそう言って天に手をかざした。
しかし直後、涼しげな女性の声が上空から聞こえてくる。
「アースニードル・・・!」




