第六章「波状総力戦」2
「やはり、この力の敵ではないな」
エブリシングは村の方に向かって浮遊していた。
しかしエブリシングの視界には、行く手を阻むように仁王立ちしている女性がいる。
「待ちな」
女性は言った。
その村人のような貧相な格好は、とても魔法使いには見えない。
「何だ?お前は」
エブリシングはその女性に釘付けになった。
長老の家にて。
長老が待機していると若い魔法使いが慌てて入ってきて膝をついた。
「申し上げます。リョウ様とエイシン様が亡くなられました・・・」
「なんだと!?」
「七魔雄ウォーイオットの討伐には成功しました。しかし、新たな七魔雄が現れて・・・」
「そうか・・・この村にはもう七魔雄に対抗できる者はいない。お前達も早く逃げるんだ」
「いえそれが、実はその七魔雄を食い止めている者がいるのです」
「誰だ?それは」
「わかりません。どうやら魔法使いではないようなのです」
長老や賢者の指揮下にある魔法使いは、それ相応の服装が義務付けられている。
魔法使い同士の連絡や任務を速やかに行うため、魔法使いであることが一目でわかるようになっているのだ。
「まさかな・・・」
長老には1人だけ心当たりがあった。
「心当たりがあるのですか?」
「賢者以外に七魔雄を相手にできるのは1人しかおるまい」
長老はそう言って部屋を練り歩く。
「奴は<マヤ>。一時はあのヒカリと雷の賢者の座を争った魔法使いだ。かつてはヒカリの姉弟子だったが、ヒカリが賢者に選ばれた事実を認めきれず、我々の元を去った・・・」
「まさか、そんな魔法使いが・・・」
「しかし、今の奴は危険すぎる。その後、ヒカリを殺そうとしたのだ」
若い魔法使いは絶句した。
「だが、マヤが味方であれば賢者以上の働きは見込めるだろう・・・」
長老は複雑な想いを胸に秘めて、現場が見えるわけでもない窓の外を覗いていた。
「それで?5年前、ヒカリに追い払われた七魔雄が何しに来たの?」
マヤは言った。
賢者の村の外にて、マヤとエブリシングが睨み合っている。
エブリシングはこの魔力強き一般人の実力を測りかねていた。
「魔王の復活を阻止できる者を抹殺するためここに来たのだが、地の賢者を倒した今、あとはもう消化試合のようなものだ」
「でもヒカリはまだ生きているのでしょう?」
「奴はもう俺の相手ではない。その意味、俺と戦えばわかってもらえるだろう」
エブリシングはそう言って、天に手をかざして振り下ろした。
<サンダー>
マヤは赤黒い雷に打たれてよろめいた。
「どおりで・・・」
マヤは呟く。
「馬鹿な!?なんというマジックアーマーだ」
エブリシングは驚いた。
今までこのいかづちが直撃して生きて立っていた者はいない。
「今度はこっちの番だよ」
マヤが体勢を立て直して、右手を突き出す。
<エレクトリックショック>
右手から射出された青白い光の玉が、エブリシングの身体にぶつかって弾けた。
そして身体中に電流が駆け巡って激しく痙攣し、やがて止まる。
「俺はあの時、気付いたんだ。俺は雷を吸収し操る力がある」
エブリシングはそう言ってニヤリと笑った。
なんとエブリシングは5年前に受けたサンダーストームを吸収し、自分の物として操ることができると言うのだ。
そして、間髪を入れずエブリシングはマヤに向かって急降下し、右手を横に振りかぶった。
<パームショック>
エブリシングの帯電する右手がマヤの横腹に到達する直前に、彼女は剣を抜いてそれを受け止めた。
「くッ・・・!」
エブリシングの腕力で横に吹き飛ばされたマヤだが、なんとか体勢を崩さず着地する。
しかし、すでにエブリシングは天に手をかざし、雷撃の準備を終えていた。
天は黒い雲に覆われ、赤黒く帯電している。
<サンダーストーム>
赤黒い雷が連続して降り注ぎ地面を抉り取る中、マヤは身を低くして胸に手を当てる。
すでに凄まじい雷撃に何度も身を貫かれていた。
しかし、マヤの身体は何故か青白く光続けている。
<エレクトリックアーマー>
元々そんな魔法はマヤの手札にない。
しかし、マヤは即興で自分の体表に電流を流し、エブリシングの雷撃を誘導しようとしていた。
もちろん気休めのようなもので、ほとんどの威力は軽減できない。
そして、マヤは青白い光を纏ったまま立ち上がり雷の嵐の中を駆け出した。
(ふふ、まるでヒカリと殺し合った時のようだ。今度は負けない)
マヤは思う。
エブリシングは雷を吸収する。
しかし、身体のどの部分で吸収するかによっては崩すことは可能とマヤは考えている。
そのためには接近して魔法を流し込むしかないだろう。
マヤは両手で剣を持ち飛翔して、エブリシングに向けて剣を突き出した。
(そのためにまずはこいつを殺す)
<ブレイクスティンガー>
赤黒い雷の中で、一際輝く青白い雷が横に走る。
エブリシングの雷は止み、地に落ちたマヤも倒れ込んだ。
「お前の仕掛ける事は読めている」
エブリシングは振り向いて言った。
実はマヤがブレイクスティンガーを放った時、エブリシングはカウンターのパームショックで迎え撃っていたのだ。
(ふふ、これはもうダメだ・・・でも手応えはあった)
マヤは思う。
すると、すでに死期を悟ったマヤは何かを見た。
それは、赤と青の淡い輝き。
(そうか・・・ここにまだ残っているんだな)
マヤはそう思いながら息絶えた。
エブリシングは慢心していた。
雷を完全に吸収でき、出力でさえ勝る自分に。
そんな、エブリシングが綻びに気づいたのは、少ししてからだった。
「お前がエブリシングかい?」
エブリシングがその声にハッとして振り向くと、背後には手槍と長剣を背負った小柄な賢者が立っていた。




