↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちょっと私がさあ、本気でサンダーストーム撃ったら脳が破壊されたんだが(笑)  作者: 熾火慎之助
第五章「金の旅」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/22

第五章「金の旅」ラスト

「なんて言ったんだ?」

ジムは怒りのあまり、長々しく粘っこいバンの指摘をすぐに受け入れることができなかった。


「しかも、お前は魔族だろう。それにそこの娘は闇の賢者の手の者だ。この俺がそんな者達を信じてのこのこ賢者の村まで行けるわけがなかろう」


「てめえッ!」

ジムは拳を振り上げ、小さな身体でバンに向かって突進していった。


しかし、それをバンは右手で軽く受け止めて、大きな掌でジムの身体ごと握り込んでしまった。


「ふぐッ・・・」


バンのよく鍛えられた肉体から放たれる握力はジムに身動き1つさせることはなく、肺も圧縮され完全に死を覚悟するしかなかった。


「バン様!それはいけません!」

ノゾミがそう言って止めに入ると、ハンマーのような左腕を横に振り、ノゾミを壁まで突き飛ばしてしまう。


「くくくく・・・正体を現すがいい魔族よ。でなければこの掌の中で死ねい!」


ジムの怒りは頂点に達していた。

それはバンへの報復がその他全ての事柄よりも優先されてしまうほどに。


そして、ジムは必死で考えないように覆い隠していた自分の本当の正体、記憶の蓋を自ら取り除いた。


魔力という名の湧水が、ジムの全身に流れ込んで小さな肉体を肥大化させていく。


「何ッ!?ふ、ふおおおおおおお!」

バンはいよいよジムを握り込んでいられなくなり、力を緩めるとジムの肉体は体長190cmまで巨大化した。


ジムは筋肉質な逞しい鼠の怪物へ変身し、今度は反対にバンの顔面を掌で鷲掴みにする。


そして必死にもがくバンだったが、ジムはバンをそのまま勢いよく連れ去って、窓から飛び出した。


「何いッ!」

バンは叫んだ。


バンの後頭部が二階建ての高さから地面に打ち付けられる。


普通の人間であれば死んでもおかしくはないが、しかし・・・


「何という剛力・・・」

バンはそう言ってゆっくりと立ち上がった。


金の賢者バンの魔力は、肉体を金属のように硬化させるのを得意としている。


その程度の攻撃では効き目はなかった。


「気に入ったぞ魔族よ。我が魔法を堪能するといい」

バンはそう言って、右手で手刀を作り大きく振りかぶった。


鍛えぬかれた完璧な肉体、それを魔力という砥石で研ぎ澄ます。


バンの右手は斧のように仕上がっていた。


そして、振り下ろされた手刀がジムの首の付け根にぶち当たる。


「う!」

しかし声を上げたのはバンだった。


バンの凶器と化した肉体であっても、正体を現したジムには通用しなかった。


本来、人間と魔族にはそれほどの差がある。


実は風の園の襲撃の時、教祖オーブの姿の七魔雄ブランチは風の賢者スズに完勝しており、変装というハンデを背負ってもなお苦戦することがないほどなのだ。


ジムは反撃の拳をバンの顔面に叩き込んだ。


鈍い音と共にバンは叫んだが、ジムは拳は止まらなかった。


(このまま殺してしまおうか)


ジムの正体はブランチや魔界にいた鬼がすでに看破している。


(七魔雄ソルダム・・・)


しかし、魔族としての意識よりも、ジムとしての想いの方が今は強い。


それほど彼は人間に愛されていた。


(お前は満足か・・・?)


そう、ジムの葛藤は人間への想いと魔力に対する欲求にある。


七魔雄の共通する本能は、魔王復活を第一としている。


その理由は魔王という上位の存在への信仰心であるが、七魔雄自身も魔王を超えられるものなら超えていきたいはずである。


現状魔王は封印されている。


つまり、魔王の持っている魔力が人間界に奪われたままの状態になっているのだ。


放出された魔力は<源流>を辿り、強き者に分配されていく。


七魔雄達は次期魔王の座を本能的の欲しているのだろう。


いくら良心が育っているとはいえ、魔力の誘惑は耐えがたい。


「それでも俺は・・・」


ジムはバンへの攻撃を止めた。


「な、なぜ攻撃を止める・・・?」


「俺はただお前を呼びに来ただけだ」


ジムはもう一度、ヒカリと旅がしたかったのだ。


「今までの無礼を詫びよう。ぜひ協力させてくれ」

バンはそう言って身なりを正し頭を下げた。


少ししてからノゾミが砦から出てきた。


「ジム・・・あなた・・・」


「力がみなぎっている。だが、気分はそれほど今までと変わりないな」


「そう。それならよかったわ」

ノゾミはそっと胸をなで下ろす。


「ジム。あなたに会わせたい人がいるの」

ノゾミに連れられて、ジム、そしてバンは薬膳の沼を歩いた。


しばらくして霧が深くなり、その中で3人は古びた小屋を見つけた。


「こんな所があるのか」

バンは驚いて言った。


「ここは母の隠れ家なのです」

ノゾミはそう言ってジムだけを中に通した。


小屋のベッドの上でやつれた女性が横になっている。


「ふふ、ジム。会いたかったよ」


ジムは彼女の不気味な笑みに戸惑ったが、正気のないその様子を哀れに感じた。


「チアキ。あんたはなぜ、俺を賢者の村に送り込んだんだ?」

ジムがそう聞くと、チアキは虚な目をして語り始めた。


「サンダーストーム。5年前あの究極魔法を受けて瀕死になったお前を私は実験のために捕らえた。私の仮説では魔族は人間界で長期間生きられない。何にもしなくても空気中に魔力を放出してしまうからだ。つまり人間が餓死するように魔族は魔界で魔力を食わなければ生きていけないのだという仮説を立てていた。私はお前に縮小魔法をかけ、ただの知的愛玩動物として賢者の村に送り込み、自分は安全な場所から観察させていたのだよ。例えるなら虫を籠に入れて餌を与えなければどうなるか実験する子供みたいに。しかし、お前は生きている。おそらくお前にかけた縮小魔法には魔力の放出を防ぐ何かしらの効果があったのだろう」


ジムはチアキの仮説の正しさを理解している。


ちなみにブランチもオーブに成り変わることで魔力を抑制し放出を防いでいた。


「そして私がこの実験でわかったのは、封印された魔王が魔力の放出によって死なないということだった。縮小魔法も封印魔法の一種であり、それより強力な封印魔法では魔力放出は望めない。おそらくいつかは復活する。まあ、今となってはどうでもいいことだがね」

チアキも一時は魔王の復活を恐れていたが、病に蝕まれ、すでにどうでも良くなっていた。


「でも、今のお前を見ていると思うよ。かなり落ち着いている。もしかしたら人間と魔族は共存できるかもしれないねえ・・・」


「チアキ・・・」


それからジムが何を言おうと、チアキはもうまともに応じることはなく、永遠に正気に戻ることはなかった。

ブックマークに登録すれば、どこまで読んだか簡単に確認できます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。