第五章「金の旅」2
「どういうことだ?お前が消えた時、ワープしてどこかに移動しているとでも言いたいのか?」
「そういうことよ」
確かにノゾミがワープできるのであれば、ジムの観察と報告を1人で容易に行うことができる。
「つまり、すでに金の賢者バンに会ってきた」
「えッ!?」
ジムは驚いた。
ノゾミがバンに状況を伝えたなら、バンが直接、賢者の村に向かえばいい。
「それで、奴はなんと言っていた?」
「頼む本人であるジム自身が出向いてくるのが礼儀だろうと言っていたわ」
ノゾミのその言葉を聞いて、ジムはまた怒った。
「バンは自分の立場を理解してないようだな」
賢者は魔法という超常的な力で、賊から民を守り、その代わりに不自由のない生活が保障されている。
しかし、バンの場合は持ち場を守らず遊び歩き、招集にも傲慢な態度を示した。
これでは賊と同じではないかとジムは思っている。
「とにかく明日、バンの所に向かいましょう」
「ああ・・・」
ジムは怒りに震える自分を抑えながら眠った。
ここで簡単に地理を説明すると、賢者の村の北西に炎の山があり、炎の山の北東に氷の海がある。そして、氷の海の南東に風の園があり、風の園の南西に金の洞があった。金の洞の西には賢者の村があり、線で結ぶと五角形のようになっていると考えると分かりやすいと思う。
「それで奴はどこにいる?」
金の洞を立つ前にジムは聞いた。
「<薬膳の沼>にある拠点よ」
薬膳の沼とは炎の山の北東に存在している。
つまり五角形の外側かつ、最も遠くに位置してると言っていい。
「クズめ」
ジムは呟いた。
「仕方ないわ。あなたも私の魔法で移動しましょう」
「そんなことができるのかよ!?」
「あなた程度の大きさなら私の魔法で運べるわ。ただし、私の魔法は瞬間移動できるわけではない。それに大きなリスクがある」
ノゾミの移動魔法は、直接目的地に飛べるわけではなかった。
「私の魔法は<人間界>と<魔界>を移動できる能力。人間界と魔界は表と裏の関係になっていて、地形がリンクしている。今ここで移動魔法を使うと魔界の金の洞に出ると考えて貰えばいい。ただ、魔界は人間界を縮小した形になっているため、魔界を進んだ方が早いというわけ」
「なるほど、だがいくら魔界を移動するとはいえ、そんなに時間の短縮になるのか?」
「薬膳の沼まで足で行くとしたら、どう頑張っても14時間はかかる。でも、魔界経由で行けば、2時間もかからないはずよ」
「本当か!よし!それなら早く行こうぜ」
「本当にいいの?」
ノゾミが懸念してるのはリスクのことである。
魔界を通るということは、魔族の世界に侵入するということであり、七魔雄と遭遇する可能性が高くなるだろう。
「私では七魔雄を倒せない。遭遇したら逃げられないかもしれないわ」
「お前が協力してくれるというのなら、俺もその程度のリスクは負うさ」
「・・・それなら、行くわよ」
ノゾミがそう言ってジムに触れると、紫色の世界に飛んだ。
気がつくとジムとノゾミは金の洞の目の前に立っていた。
しかし、辺りには泥のように濃厚な川が流れている。
「これは魔力の川よ。これに乗って移動すればいい」
ノゾミはそう言って、小舟をその川に浮かべた。
2人は舟に乗り込んで、川に流されていく。
「不思議でしょう?この川は自在に流れを変えられる」
「どこまで続いているんだ?」
「おそらく、世界の果てまで」
しばらく川を漂っていると、遠くの川沿いに岩の上で胡座をかいている鬼の様な生き物が見えた。
捻れた角に青黒い肌、背中から生えている大きな翼をたたんでいる。
「まずいな」
ジムは小声で言った。
「何度か遭遇したけど、あれは大丈夫だと思う。警戒しているのか、気に留める必要もないからかわからないけど、接触はしてこない」
ノゾミはそう言ってジムを落ち着かせ、静かにそこを通り過ぎようとした。
「よう、ソルダム人間に飼われるのは楽しいか?」
低い声が響く。
ジム達が後ろを見ると鬼は笑っていた。
「ソルダム?なんだそれは」
「相手にしないで・・・」
ノゾミが小声でジムを咎める。
「ふふ、人間に記憶を消されているのだろう。だが、自分のルーツに薄々気がついているはずだ」
「黙れ。気安く話しかけるな」
ジムはそう言い捨てて、鬼に背を向けた。
「なんでわざわざ相手になるのよ」
鬼から遠ざかると、ノゾミが声を荒げる。
「なんとなく、襲ってくるタイプではないと思ってな」
ジムはノゾミの方は向かず、そう言って笑って川の向こうを見ていた。
そして、ジムとノゾミは魔界にある薬膳の沼に到着し、人間界に移動した。
辺りには、草を潰した匂いの漂う沼沢が点在している。
ジムが居場所を聞くと、ノゾミは沢沼の中に建つ砦を指差し、2人はそこに向かっていった。
番兵に事情を話し、バンのいる部屋に案内され中に入ると、金色の兜を被り上裸で筋肉質な男が玉座に座っている。
「あなたが金の賢者、バン様か?」
「そうだが?」
バンは顎髭を撫でながら言った。
「長老の命令だ。すぐに賢者の村に来てくれ」
「俺は礼儀を示せと言ったはず。お前は今朝、金の洞に居たはずなのに午前中にここにいる。これは明らかに不正の意図が見え、決して自分の足でここに辿り着いたと思えない。苦労をしてここに着いていないなら、どうして敬意が伝わるのか?」




