第五章「金の旅」1
(幻聴だったのか・・・)
ジムは荒野で1人思った。
ブランチは最後に自分の方を見て微笑んでいたとしか思えない。
「お前はそれで満足か・・・ソルダム・・・」
ブランチの最後に放った一言。
しかし、実際に言葉を発しておらず、微かに口が動いていただけだったが、ジムにはそう聞こえていた。
(ヒカリ達には聞こえていないようだった・・・)
仮にテレパシーだったのだとしても、なぜブランチが自分にそう言ったのか、ジムには見当もつかない。
そしてもう一つ、ヒカリがサンダーストームを放った時、恐怖によって一時的に身体が動かなくなった。
(単に強力な魔法に驚いただけかもしれねえ)
ジムはそう思うようにした。
しかし、ジムが1人で金の賢者に会いに行くと言ったのは、とりあえずヒカリを自分から遠ざけたかっただけだった。
「もういいだろう。つけてきているのはわかってる。正体を現しな」
ジムは低い声で言う。
それを聞いて黒いローブを纏った者が岩陰から姿を現した。
フードを深く被っているが、わずかに覗かせた口元と肌のきめ細かさから女性であることだけはわかる。
「ジム。あなたは余計なことを考えない方がいい」
ローブの女性は言った。
「なんだと?お前が俺の何を知っている」
「知ってるわ。ずっとあなたを見てきたから」
ローブの女性はフードを外した。
その顔を見てジムは気がついた。
「お前は賢者の村の魔法使いだろう。よく見かけると思っていたが、監視してたとでも言いたいのか?」
「そうよ」
ローブの女性はあっさりと答えた。
「お前・・・まさか、<チアキ>か?」
ジムは恐る恐る聞いた。
チアキとは以前触れたが、ジムを作ったと言われる魔法使いである。
「違うわ。私は<ノゾミ>。彼女に頼まれて、あなたを監視しているだけ」
「そのチアキとやらは何者なんだ?」
「闇の賢者の本名よ。そして、私はその娘」
闇の賢者について良い噂は聞かない。
自分を作ったのがその闇の賢者であるということは、ジムにとってあまり気持ちのいいものではなかった。
「ただ、私は母からあなたのことを詳しく聞かされているわけではない。彼女の好奇心のために、私はあなたの様子を報告しているだけ。でも私の感ではあなたはあなた自身を深く理解すべきではないわ」
「ふん、そうかい。ところでチアキは魔王の復活についてどう考えているんだ?」
「母はあなた達に協力的ではない。世界なんか滅びればいいと思ってる。それに母は今、無理な実験の後遺症で深刻な病に侵されているのよ。もう長くはないでしょうね・・・」
ノゾミはそんなチアキの最後の娯楽として、ジムを監視し報告を繰り返していただけだったのだ。
「あなたは今の自分の使命に集中していればいい・・・」
そう言ってノゾミは消えていった。
「確かになあ・・・」
ジムは納得して、ゆらゆらと動き出した。
金の賢者は<金の洞>と呼ばれる巨大な崖に空いている空洞に住んでいるらしいが、近年、賢者の村からの使者が金の賢者に会うこともできず追い返されているという。
(なぜ、理由も言わず追い返す必要があるんだ・・・)
ジムは不安を感じながらも、金の洞の前に来た。
まずは、そこらを歩いている金色の服を着ている異質な魔法使いの1人に声をかけてみた。
「金の賢者様はどこに居られるんです?」
「うわ!お前言葉が話せるのか!?」
魔法使いは驚き叫んだ。
羽の生えたネズミであるジムの場合、交渉の前から説明が面倒である。
「そうですか。あなたは賢者の村から来たのですね」
「そうだ」
この場合、賢者の村の使者であるジムの方が立場が上となる。
「しかし、どなたであろうと通すなと、バン様から言われておりますので・・・」
魔法使いの言う、バンとは金の賢者の名である。
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ。七魔雄と賢者狩りの襲撃でアズサとスズは重傷を負っている。バンには何が何でも付いて来てもらおう」
ジムは魔法使いを怒鳴りつけて、空洞に向かって飛び立とうとした。
「待ってください!実はバン様は旅に出ておられまして・・・」
「なんだとッ!?」
金の賢者は賢者屈指の変わり者であり、人は同じ場所に留まっていては成長できないと言い残し、もう数年ここに帰ってきていないらしい。
その場を治める賢者としての契約違反であった。
「あては?」
「バン様は各地に拠点を構えておられるので、そこに行けば情報が得られるはずです。場所は<微光の森><薬膳の沼><塵埃の雲>です」
(ふざけるなよ・・・)
ジムは当然、怒りに震えた。
今から世界を旅するなどあり得ない話である。
「お前も来てくれ」
「それはちょっと・・・ここを任されているので」
「バンの命令は無視しろ。奴は長老から受けた任を果たせていない。そんな奴の言うことを聞く必要はない」
「しかし・・・」
「私が案内するわ」
そう言ったのはジムの後ろから現れたノゾミだった。
「場所がわかるのか?」
「ええ、地理には詳しいのよ」
そして、ジムとノゾミは金の洞に組する里で宿を取り、夜を明かすことにした。
「消えたと思ったらまた現れて、正体を明かした今、俺の前から消える必要はないんじゃねえのか?」
「別に姿を消しているわけではないわ」
ノゾミは部屋の椅子に座り、涅槃のようにベッドに転がるジムを見た。
「私はこの世界を自由に移動できるのよ」




