第8話 リバイアストン南の丘2 【作戦会議】
デミスタンの作戦ってやつ、色々問題がありそうだと思った。
地図上の等高線を見る限り、風竜が根城にしている砦が建っている場所は、付近で一番高い山の中腹。
砦の西側に山地があるが、せいぜい砦と同じ高さ程度。
ということは、上から狙える場所はないってことだ。
一瞬、この世界に来た時に見えた、<生存者>表示が使えないかと思ったが、あれは赤外線感知で、探査域は精々百メートルだとマニュアルに書いてあった。
この狙撃には使えないだろう。
それにもう一つの問題。
風竜は俺たちが狙撃しようとするときに、都合よく寝ててくれるだろうか?
俺が頭を掻いていると、ラティーナとエチカはむしろ何かに気付いたような顔をしていた。
二人ともブツブツと呟いているような。
(おや? この二人、止めに入らないってことは、ひょっとして何かアイデアがあるのかな?……そういえば、今車長はラティーナで、砲手はエチカだから、俺たち90式クルーの戦闘力の大部分はこの二人が背負っているんだよな……)
もし二人に名案があって狙撃が可能なんだったら、低リスクで敵を倒すことができる。
「で、いつ行く?」
デミスタンが決裁を求めてきたので、俺は意思確認のためにラティーナとエチカの顔を見る。
チラチラ見ていると、二人とも気付いてくれて、俺に向けて同時に頷いた。
二人の瞳には何らかの確信が見える。
俺は咳払いした後、少し考えてから、
「そうだなあ……まだ拠点設営したばかりだからな。みんなの生活が落ち着くまで待ってもらえないか?」
「そうか。じゃあ、一週間後でどうだ?」
デミスタンは酒瓶の蓋を開けると、テーブルの上に置いてあった木のコップに中身を注いだ。
「ギルドとしては早く動きたいが、あんたらの事情もある。子供たちを放り出して竜退治なんざできねえってのは、理解する。だから一週間」
そう言ってデミスタンは、コップを俺の前に差し出す。
「……まあ、そんなところか」
色々と世話してもらった手前、あまり待ってもらうのも心苦しく感じる。
俺はコップを手に取り、一口だけ飲んだ。
テキーラのような、強い酒だ。
蒸留酒があるんだな。
俺はデミスタンが去ったあと、エチカとラティーナに「何か思いついたのか?」と聞いた。
ラティーナは
「私は目と耳で見つける役。実際に撃つのはエチカなんだけど」
エチカは「多分ですけど、できると思います。私も砲手として、見れる情報を一通り見ました。90式に積んである翼安定徹甲弾《APFSDS》なら、砦の城壁を貫通して、中にいるシルミウスを狙撃できます」と言った。
APFSDSは、貫通力に特化した弾頭で、鋼の装甲板なら一メートル程度の厚さまで貫通することができる。
砦の城壁はレンガで、厚みはデミスタンの残していった図面を見る限りだと、あまりなく、二から三メートルといったところ。
俺の見立てでは結構ギリギリだが、確かに壁を貫通した後でもドラゴンの鱗を砕く可能性はある。
「ドラゴンも寝ている時は魔法障壁が無くなります。風竜は鱗も薄いので、壁を貫通した弾頭でも十分殺傷力が残っています」
そうそう。この世界の知恵あるドラゴンが強いのは、全員もれなく魔法使いだからってのもあるらしい。
そしてドラゴンの防御力は魔法障壁半分、自前の鱗による装甲半分て割合だそうだ。
しかし――
敵の防御を突破できるとしてもまだ課題は残っている。
「敵が中庭のどこにいるか、正確にわからないんじゃないか?」
「モトム様にお話ししていませんでしたが、ディコーン族は障害物越しにも生物の位置を探知できる能力があるんです」
俺はちょっと何を言われているのかわからなかったので、眉を顰めてしまった。
エチカは自分の能力を詳細に説明してくれた。
現代風に言うと、エチカの能力はアクティブ探査では自分を中心に半径五十メートルの広域生物感知、セミアクティブ探査だと、五百メートル先の十メートル四方のスポットを感知できるそうだ。
しかも障害物に影響されないという。
そんな高性能対地レーダー、正直聞いたことがない。
……特に障害物に影響されないってのが、反則的に優秀だ。
今思いついたのは、FPSみたいな対戦型のアクションシューティングゲームについているレーダー。
まさにそれ。
というか、それよりも遠距離探査ができるだけ性能向上している。
もしこの能力が本物なら、壁越し狙撃、できるかもしれない。
「あとは狙撃ポジションか……」
俺がそう呟くと、ラティーナが、デミスタンが残していった地図、その地図の砦が描かれている位置から西側にある、もう一つの山地を指さした。
「ここの山道はどう? 切り立った崖みたいだけど。ほぼ砦と同じ高さだよ。水平射撃になると思うよ」
俺は指さされた地形を見る。
そこは最初に砦の位置を示されたときに、俺も着目していた場所だ。
山道と砦の距離はちょうど五百メートルないぐらい。
やはりここしか無いか。
俺は頷いた。
「エチカもラティーナも、二人共本当にすごいな……これなら、なんとかなりそうだな!」
俺が心の底から感嘆すると、
「勿体無いお言葉です」
エチカは泣きそうな顔になった。
……いや、ボロボロと泣き出した。
(なんか最初に会った時から思っていたけど、時々この子、情緒クラッシュしがちだな……)
エチカはとても頭が良くて色んなことができるのに、自己評価が極端に低いようだ。
過去にどんだけ辛い目にあってきたのかと、不憫に思ってしまう。
「よかったねえ」
ラティーナが泣きはらすエチカの背中をさすって慰めている。
俺はしばらくその様子を眺めていた。




