第7話 リバイアストン南の丘1 【拠点設営】
俺たちは、みんなのところに戻ると、一緒についてきたデミスタンの案内で、南の丘に向かうことになった。
90式を発進させると、騎馬で追いついたデミスタンが口笛を吹いた。
「動いているところを見ると、すげえなこりゃ。しかもこの大砲が火を吹くのか? この目で見たら、ドラゴン倒せたってのも嘘じゃないって思えるぜ」
まったく調子の良い男だ。
それに堂々と馬を操るカウボーイ風の仕草が様になっていて、憎たらしいな。
デミスタンの後ろからは、馬が二頭と、幌馬車が三台付いてくる。
荷物は仮設用のテントとか、当面の水や食料、毛布、衣類など生活必需品を用立ててくれた。
これは素直にありがたい。
全部、コクトー評議員の寄付だそうなので、貸しを作ってばかり。
後が怖い。
ラティーナが、キューポラから身を乗り出し、丘を指差した。
「見えてきたよ! ちょうど正面、あの窪みに戦車が入りそう」
確かに、丘のちょうど北側が少し窪んでいて、戦車を置いて砲塁にするには都合が良い。
俺たちはまず、荷台を丘の上まで運び、戦車から荷台を切り離した。
そこで、子供達も荷台から降ろす。
仮設のテントを立てた後、俺はエチカに子供達の指揮を任せ、ラティーナと一緒に丘の周囲を見て回ることにした。
「ラティーナ、ここからならどこまで見える?」
「南と西は遮るものがないから、双眼鏡を使えば5キロメートル先までなら見えるよ」
……さすがに盛りすぎだよね?
本当なら、エルフの視力ってとんでもないな。
丘の頂上から南側は、木々が密集した林がある。
後方、南側は丘を切り落としにすれば、この林が天然の防壁になりそうだ。
後は正面に柵と堀を作り、東の川に面した側は畑にするか。
そこそこ加工すれば要害になりそうな土地だ。
ぐるっと回って戦車のところまで戻ってきた時、ステファニーが俺のところに走ってきた。
「モトム! あの馬私たちが使ってもいい?」
「馬って、デミスタンが連れてきたやつか?」
そういえば二頭余分に引っ張ってきていたが。
話を聞いていたデミスタンが、俺を向いてうなづいた。
「もともと、お前らにやるつもりでもってきた」
「馬までくれるのか?」
「礼は評議員に。返報はドラゴン退治で」
またニヤッとデミスタンが笑ったので、俺は苦笑する。
どんどん評議員に借りが増えて行く……
ステファニーが嬉しそうに馬の鼻面を撫でている。
フェンリエッタももう一頭の馬に恐る恐る近づいて、そっと手を伸ばした。
「この子たち、すごく賢いですよ。目がいいし、足も速いと思います」
フェンリエッタが、馬に顔を舐められながら、嬉しそうに言った。
「だろ? 最新の魔力強化馬だぜ」
デミスタンが当然のように言う。
魔力ってことは魔法が絡んでいる?
俺は知らないので素直に聞いた。
「それってどういうもの?」
「遊牧民から伝わった技術だが、飼い葉に符呪混ぜたり、マジックブラシで毛並み整えたりして、知性と耐久を強化するんだ。最近じゃ都市の軍馬は大半魔力を通して育ててある。感謝しろよ、一級品だぜ」
ラティーナやエチカから、この世界に魔法があるのは聞いていた。
ファンタジーアニメみたいに派手なものは滅多にないらしいが、ニューシャルマニアの教育受けた人間は大半、少なからず魔法が使えるらしい。
それでも、馬の育成にまで魔法が浸透しているのは驚きだな。
落ち着いたら、この世界の魔法の技術体系、調べてみようかな。
「モトム、私たち、これで周りを見てくる! 東の川岸とか下流とか!」
「待て待て、まずはエチカの指示を聞け。勝手に動くなよ」
「はーい!」
元気が良すぎて不安だが、まあ頼もしい。
ステファニーとフェンリエッタは馬の手綱を引いて、エチカのいるテントブースに駆け足で行った。
*
野営地の設営が終わり、夕方、丘の上で簡単な夕食を取ることにした。
子供たちが忙しなく動き、俺が戦車クラフトで作った木材テーブルの上に、十三人分の食器が並んでいく。
焚き火の上では、素朴な鍋料理が湯気を立てている。
干し肉と根菜を煮込んだスープに、鶏肉に似た胸肉をぶつ切りして加えたものだ。
味付けは塩と、香草を乾燥させた粉末――ラティーナが入れる前に確認させてもらったら、クミンやコリアンダーに近い香りがした。
「こんなにいっぱい食材使えるのは久しぶりだよ!」
ラティーナは木杓でスープをかき混ぜながら、嬉しそうに肩をゆすっている。
ホバルク村の料理長はラティーナだったらしい。
元気少女って感じだったので、家庭的なことが上手なのは意外だった。
切れなさそうな異世界短剣で野菜切る手際も、鮮やかだった。
「モトム、どう? エルフスープだよ! 私の得意料理なんだ」
ラティーナがスープをよそった木椀を差し出してくる。
これ、エルフ料理なのか?
俺はその椀を受け取ると、一口啜った。
「……うまいな。身体もあったまる」
嬉しそうに顔を赤らめて破顔するラティーナをしり目に、俺はスープをもう一口飲みながら、心の中で決意した。
(落ち着いたら、絶対にリバイアストンの市場に行く。香辛料が手に入るなら、カレー粉を作れる。カレーが作れるなら……この世界でも、陸自カレーの味を再現できるかもしれん!)
パンもあった。
普通のサワードウブレッドで、焼き立てじゃないから硬いが、スープに浸すと香辛料と鶏肉の出汁がしみ込んで、意外なほど旨い。
(米はないけど、さっきバターみたいなものもあったから、ナンならすぐ作れるな)
そんなことを考えていると、丘の下から馬の蹄音が近づいてきた。
「よお、晩飯中か。いい匂いだな。……で、ちょっと話がある」
一度リバイアストン城内に行ってくると言われて、別れたデミスタンだ。
デミスタンは馬をテントの隣に繋ぐと、酒瓶を片手に丘を登ってきた。
「風竜退治について、軍隊に確認を取ってきたぜ。正式な依頼になった。軍から報奨金も出る。倒せば一財産築けるぜ」
そう言いながら、デミスタンは子供、隣に来た狐耳のユンファからスープを受け取ると、ぐいっと一杯飲んだ。
その後、体に掛けていた筒から、大きな紙を一枚取り出す。
「で、本題だ。具体的な討伐作戦だが――」
「これは……地図か?」
「ああ、カンテラート大森林付近の地図だ。本来、風竜族の縄張りはこの森よりもっと南なんだがな。だが、風竜卿ははぐれ者でな。今年に入ってから大森林の砦を落として住み着いた」
そう言って、デミスタンは地図上、森の中の等高線が書かれている一帯を指さす。
「砦? この山の上か?」
「ああ。森の南側、岩山の上に建っている監視用の砦だ。ここは魔獣の皮革の供給地帯でな。ドラゴンが居座ると、周辺の冒険者が仕事にならねえ。ギルドとしては、一刻も早く追い払うか、討伐したいわけだ」
焚き火の火がパチ、と弾けた。
ラティーナとエチカが不安そうに顔を見合わせる。
「それで、あんたが言っていた情報っていうのは?」
「それは、その砦のことだよ」
「どういうことだ?」
「つまり、あんたの戦車ってやつは空飛んでる相手は苦手なんだろ? じゃあ空を飛んでいない時に狙えばいい」
「なるほど。竜も疲れたら決まった巣に帰るってことか?」
「そういうこった。風竜は夜行性じゃないらしいから、夜は必ず砦で寝ている。あんたらの大砲は結構遠くから狙えるんだろ?」
どうやら寝込みを襲え、という話らしいが。
それにしても、この男、戦車砲の射程距離まで知っているのか。
昔来た戦車が狙撃でもしていたのだろうか?
「しかし、砦ってのは……その竜は砦のどこで寝ているんだ?」
「それも調べてあるぜ。城壁に覆われた広間の中だ」
うーむ、と俺は唸った。




