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第6話 リバイアストン西テント村 【クエスト受諾】



 都市に入場することを断られた俺たちは、再び戦車と荷台に戻った。


「モトム、テント街は西側だよ」

「ふーむ、一旦そこに行ってみるか」


 ラティーナから教えられて、俺たちは戦車と荷台ごとリバイアストン西側のテント村へ向かうことにした。


 評議員が言っていた、傭兵の仕事ってのもいいかもしれない。

 実は、戦車の中に戦車兵用の銃器や装備が一式あった。

 それがあれば、子供たちを養うぐらいの金は稼げるんじゃないか?

 と、漠然と考える。


 リバイアストンの堀沿いにぐるっと回ると、数分でそれらしき場所が見えてきた。


 簡素な柵で囲まれた区画に、結構な数のテントがひしめいている。

 戦車と荷台を村から少し離れた位置に停車して、俺たちは村の中に入ることに決めた。


 村に入る前に、俺は孤児のうち、一番背の高い二人に声を掛けた。


「ステファニー、フェンリエッタ。みんなを頼む」

「まかせといて!」

「が、がんばります」


 元気のいい朱色の髪で、両三つ編みの子がステファニー、少しおどおどしている銀色真ん中分けロングヘアーがフェンリエッタ。

 この二人は、孤児たちの中でも年長で、ラティーナやエチカの次ぐらいに実力があるそうだ。


 そう、俺は最初、ホバルク村の孤児たちは、ただの子供だと思っていたのだが、実はみんな弓術は練習していて、ステファニーなんか狩りが異様に上手い。

 昨日の野営の時も、ほんの少しキャンプを留守にしたかと思ったら、野うさぎを五頭も狩ってきたのだ。


 しかし、見た目は可憐な少女にしか見えないので、やはり心配だ。


「何かあっても、戦う前に助けを呼ぶことを考えろよ」


 俺がそういうと、彼女たちは黙ってうなづいた。

 戦車の力を見ているせいか、俺の指示に素直に従ってくれるのはありがたい。


 テント村の東、リバイアストンの西門側にも歩哨がいるので、もし戦車や孤児たちが襲撃されても、助けてくれるだろうと考えた。


 まあ、この異様な巨体を見て近づいてくる物好きはいないだろうけど。

 どう見ても、軍か国家の持ち物に見えるし。




 柵の中に入ってしばらく歩いて、


「ここがテント街、ですか。何と言うか……」


 そう言うなり、エチカは閉口する。


 結果から言うと、テント街は子供たちを保護させるにはちょっと問題が多すぎると思った。


 朝からアルコール臭や年季の入った体臭を漂わせる浮浪者連中がたむろしているし、酒場からは喧嘩のような声が絶えず聞こえる。

 基本的に難民や、食い詰めた市民や冒険者たちとその家族が住む場所で、治安と衛生状態がかなり悪いようだ。


「そうだね、モトムの馬車の方がマシだね」


 ラティーナもそう言った。

 俺の作った荷台の方がマシなんていうぐらいだから、ホバルク村のほうがよっぽど綺麗だったのだろう。


 おまけに、小規模だが奴隷市場まであった。

 軒先に半裸の、様々な人種の大人や子供が並ばされている光景が自然と目に入る。 


「異界人のモトム様には珍しいですよね。でも、私たちがいた、カムナバラの市場はこんなものじゃありませんでした」


 動揺を顔に現した俺の様子を見て取ったのか、そうエチカが呟いた。

 今までに見たことのない虚な目で。


 絶句してしまう……。


 そして嫌な未来を幻視して、不安になった。

 子供たちが、日々の生活費を得ることができなくなって、あるいは悪い大人に騙されて、また奴隷に身をやつす。

 十分に考えられることだと思った。


 数分歩いて、俺とエチカ、ラティーナの三人は、テント村の中の冒険者ギルドに着いた。


 かなり大きな建物だったが、見た目は古い田舎の大農家といった佇まいだった。

 ここが目的の場所だと解ったのは、入り口に「冒険者ギルド・リバイアストン支部西別館 大陸冒険者協会認可」と書いた看板が立っていたからだ。


 支部別館ってことは本館じゃないのかな?

 本館は城内にあるのかもしれない。


「冒険者ギルドってどんなところなの?」


 念の為、俺は左隣のエチカに聞いた。

 よくあるロールプレイングゲームのシステムと同じとは限らないし。


「元々は開拓時代の人足紹介所でした。登録者に雑用仕事や、荒仕事の紹介を。今は魔獣退治や、南西にある古代迷宮の遺物探索が主な仕事だと思いますが……」

 

(へえ、古代迷宮なんてあるんだなあ。まさしく異世界って感じだなあ)


 西部劇にあるみたいな両開きの、中途半端な大きさの目隠し扉をくぐると、広い酒場のようなスペースがあり、その奥まったとろにカウンターがあった。

 そこには頭巾を被ったお姉さんが座っている。

 いかにもな感じなので、俺は思わず「本物のギルドの受け付けお姉さんだ!」と声を漏らしそうになった。


「傭兵の仕事なんてありませんよ。今ある仕事は鉱石掘りとか、魔獣の革取りとか……」

「あれ?」


 事情を話した後、お姉さんからは予想外の言葉が帰ってきた。

 俺は首を傾げて、ラティーナとエチカを見るが、二人とも俺と同じ様子だった。


(傭兵の仕事がない? 妙だな……コクトーは嘘を言ったのかな?)


「メルタンスちゃん、こいつらはこっちで引き取るわ」

「サブマスター? そうですか……」

「あんたが評議員の言ってた連中だろ? 冒険者ギルドのサブマスターのデミスタンだ。よろしくな」


 そう言って俺たちの前に、日に焼けた金髪の壮年の男が出てきた。

 立派な体躯で、ハリウッドのアクション俳優みたいな見た目だ。


(なるほど、傭兵の仕事っていうのは、符牒みたいなものだったのか。じゃあ、このデミスタンというやつが、何か紹介してくれるってことかな?)


 デミスタンがカウンターを回って俺たちの前に来たので、俺は疑問をぶつけた。


「なんで評議員は、こんなまわりくどいことを?」

「正直じゃないんだろう。あとは政治が色々あるからな。対立議員たちの視線もあるし」


(なるほど。確かに俺たちみたいなよそ者に援助してたら、自前で武力を抱え込もうとしていると思われる、とか。そんなとこかな)


「実を言うと、具体的な仕事はまだ決まっていないんだが……ええと、名前は?」

「モトム、フジワラだ」

「ラティーナだよ」

「エチカです」


 二人ともファミリーネームは言わないのか?

 ひょっとして言わない方がよかったか?


「モトムは、氏族があるんだな。改めて、デミスタン・ラガーシュだ。よろしくな。仕事は多分これだってやつはあるんだが、軍隊と確認中だ」

「概要だけでもわからないのか?」

「異界人の好きなやつだぜ。ドラゴン退治だ」


 別に、それを好きなやつがいるわけではないと思うけどな。

 こんな風に軽口で言うってことは、過去に先輩の異世界転移者が、ドラゴン討伐にチャレンジしたのかな?


 そこまで話したところで、さっきのメルタンスっていうお姉ちゃんが、巻物スクロールを手に持ってきた。

 デミスタンがそれを受け取って広げる。

 内容に目を通している間に、彼の目が見開かれる。


「既に古竜征伐者ドラゴンスレイヤーだったとはね。恐れ入ったよ」


 デミスタンは口笛を鳴らした。

 巻物は評議員からで、俺たちの情報が書いてあったようだ。


「それから、追加の指示だ……なるほどね。まず、あんたらの住むところを手配しようか」

「このテント村の中?」

「あんた、戦車持ってんだろ? そんなのこの中に置いといたら荒らされるぜ。ちょうど良い場所があるんだ」

「サブマスターさんは、戦車のことに詳しいのか?」

「大昔に似たようなのが来たらしいぜ。だから、評議員も期待してんだろ」

「ちょうど良い場所って?」

「来る時に、都市の南に丘と林があるのが見えなかったか?」


 ああ、あれか。

 確かに、俺もあれは候補に入れていた。

 しかし、全く開発されていなかったしなあ。


「心配してるのは住むところとか、当面の生活手段だろ? その辺はこっちで色々手配する。しばらくは仮設のテント。順次人足を送るから」

「至れり尽くせりって感じだが、なぜそこまで?」

「竜退治してもらう勇者様だからな。初期投資だ」


「モトム様、お待ちください!」


 そこでエチカが声を上げた。

 ラティーナも険しい顔をしている。


「あ、ああ。すまない。エチカとラティーナの意見を聞かずに勝手に進めちゃってたな」

「そうではありません。私たちの意見など……ただ、竜退治なんて危険です! いくら90式が強力でも!」

「モトムは十分私たちを助けてくれたんだよ。これ以上、付き合ってくれる必要はないよ。その、もうお礼もしきれないし」


 二人は代わる代わる叫んだ。


 ああ、何となくだが彼女たちが妙に卑屈な理由がわかった。

 俺はデミスタンに、ちょっと三人で相談させてくれと言って、一時退席願った。


「エチカ、ラティーナ。聞いてくれ。俺は君たちを奴隷だなんて思ったことはない。俺たちは対等なバディだ。二人がいないと、戦車は動かせない。それに、俺も行くところがなくてね。しばらく一緒に行動させてくれると嬉しい」

「モトム様…… 」

「モトム、私たちの氏族になってくれるの?」


 氏族? 

 家族ってことかな?


 ……ラティーナとエチカは、もう、俺にとっては欠かせない戦車乗員仲間だ。

 戦友は、家族みたいなもんだしな。


「ああ、そうだな。ラティーナ、エチカ、二人さえよければ。家族になってくれるか?」

「モトム……」

「モトム様……」


 二人とも潤んだ目で俺を見てくる。


 照れ臭い。

 でも、異性の歳の離れた仕事仲間ってなんかぐっとくるものがあるな。


 出身も立場も年齢も違うけど、通じ合うものがある。

 俺が映画や小説を見て憧れていた、戦場の絆ってやつだ。


 と、そこでドアが開いて、デミスタンが入ってきた。


「話はまとまったか?」

「ああ、ドラゴン退治だったな。いいだろう。やってやるさ」

「さすが異界人だな。風竜卿と戦うのを二つ返事なんてな」

「風竜卿?! まさか、シルミウスですか!?」


 デミスタンの言葉を聞き、エチカが叫んだ。


 何それ? 

 風竜卿ってなんか洒落た名前だな。


「赤竜より強いのか?」

「強いといいますか……ウインドドラゴンは空を飛ぶ能力が高いんです」

「しかもブレスは雷撃だよね」


 ラティーナが付け加える。

 そんだけの情報でも、俺は(うーん、早まったかな?)と思い、苦虫を噛む。


「なんだ? 赤竜倒したんだろ? 風竜の方が弱いだろ?」


 デミスタンがよく分からねえ、という顔で聞いてくる。


「あのレッドドラゴンは、疲れて地上に降りていたからなあ」


 戦車は初体験で動揺していただろうし。

 あっさり勝てたのは、はっきり言って運が良かった。


「……なるほど。推察するに、あんたらの武器は空の敵は苦手ってわけだな」


 ウインドドラゴンがどの程度かわからないが、主砲を当てるのは厳しそうだし、90式の対空装備は12.7ミリ機関銃しかない。


 それに、敵の一番の武器が雷撃ってのも厄介だ。

 90式戦車の複合装甲は衝撃にも熱にも強いが、金属の塊だから、電気はどうしても通してしまうし、中身は電子装備だらけなので、通電すると色々とまずい。


 俺が悩んでいると、デミスタンが平然とした顔で言葉を続けた。


「いいぜ、本当ならモンスターハントの情報は有料なんだが、今回はただで教えてやる。こっちも早く風竜卿をなんとかしてほしいからな」

「その顔つき、何か作戦があるってことか?」

「あるぜ。あんたらの戦車ってやつの実力はよく知らんが、多分、これでいけると思う」


 そう言ってデミスタンはニヤリとイケメン顔を歪ませた。







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