第60話 自由都市リバイアストン3 【凱旋】
――赤竜公ヘラドーンが斃れ、リバイアストン一帯はドラゴンのくびきから解放された。
その一報は伝書鳩や魔道具通信によって、その日のうちにルキフグッサからリバイアストンに知らされた――
ヘラドーンの財宝を回収した俺たち90式戦車チームは、自分たちの自宅、エミリーヒルに帰還することにした。
ダンタリオ山脈を下り、また湖畔で一泊キャンプをする。
周囲にドラゴンがいなくなったので、盛大に焚火をして、ダンタリオ坑道でもらった香辛料を使ったラティーナの得意料理、そしてそれに戦闘糧食のレトルトパウチをかけた晩餐で、戦勝パーティーの前夜祭をする。
朝になったら寝袋から飛び起きて、待ち遠しいのですぐに進発。
荒野からステップ地帯を抜けて、マステマーシュへたどり着く。
防衛している連隊の歓喜の声に手を振りながら、廃都市を横切る。
そしてリヴェー川を左手に見ながら、モナド平原を渡り、リバイアストンだ。
テント村西に到達。
冒険者ギルド別館で、デミスタンとメルタンスが迎えてくれた。
「モトム、やってくれたな……俺がリバイアストンで最初にありがとうを言う男でいいのか?」
相変わらず見た目もセリフもイケメンな男だな。
「あんた以上に腐れ縁の相手はいないよ」
「どうする? 御大にご報告する前に先に一杯やってくか?」
「せっかくのお誘いのところ悪いが、酔っ払って運転した経験がないんでね。多分そこそこ英雄になった俺が、祝賀会の前に人を轢いちまったら全部台無しだろ」
「そこそこってのはまた控え目な奴だな。だがまあ確かに、俺も泥酔して馬に乗ったとき、落馬して大けがしたことがあるな……」
思わず吹いてしまった。
見た目通り、やんちゃな奴なんだな。
「じゃあ酒は市についたらってことにして……俺もその戦車に乗っていってもいいか? 評議員の所に一緒に報告したいからな」
そう言えば、デミスタンを戦車に乗せたことなかったな。
俺が二つ返事で同行を了承すると、メルタンスも一緒に乗りたいと言ってきた。
もちろん作戦ブリーフィングお姉さんやってくれているし、他人ではないからオーケーしたが、デミスタンが抱き抱えるようにしてエスコートして90式の後部に乗せた。
前から思ったんだけど、この二人、妙に距離が近いよな……
デミの奴め、職権濫用してるんじゃなかろうか。
「メルタンスさん、久しぶり」
「ラティーナもエチカも無事でよかった。ところで、あっちの方も進展あった?」
「どうなんでしょうね」
「急がないと、私の方が先にゴールインしちゃうかもしれないわよ」
「それってサブマスターとですか?」
「そう。私は第三夫人だけどね」
う……。
女子たちが何を話しているのか。
俺ももう意味が分からないとは言えない。
正直、いつかはけりを付けないといけないと思っている案件ではある。
リバイアストン西門から入城すると、付近にいた住民に気付かれ、また花吹雪を投げられた。
すでに祝賀準備を整えていたらしい。
街頭から、街路の建物の二階三階から、大勢の住民が花を投げてくれて、石畳があっという間に花びらで埋め尽くされる。
この街、いつでも花があるな……
市の中央に行く途中に、表彰式で使っている軍令本部宿舎の前を通るが、そこにエミリーヒルのみんなが立っているのが目に入り、俺もエチカもラティーナも驚く。
「みんな⁈ どうしてここに!」
「モトム様! ラティーナもエチカも、黙って行くなんてひどい!」
ナスリンが頬を膨らませて怒りつつ花輪をラティーナの首にかけるという器用な真似でお祝いする。
「ほんに驚かされますわぁ」
相変わらず不思議な方言で話すユンファ。
「村長、私たちを連れてってくれなかった……のは、まあ仕方ないですよね。今回は行っても役に立たなかったかも」
「今度また別の所でお役立ちしたいですね」
ステファニーとフェンリエッタのコンビも前に出てきたので、俺は二人の頭をくしゃくしゃしてやる。
二人がエミリーヒルにいるから、安心して出撃することができた。
「モトム様があまりにも偉大過ぎて、気を失いそうです」
ハンスが思いつめたような顔で言うので苦笑する。
「ありがとう、ハンス。なかなかしんどかったけど、上手く行ったよ。みんなもありがとうな。ちょっと報告を済ませてくるよ。後でみんなでお祝いしよう」
子供たちの顔を見ると、家に帰って来たという気持ちが強くなる。
早くみんなの座ったいつもの食卓で、もう心配ないんだよ、って言ってあげたいな……。
皆の笑顔を後に、市の中央にある市議会の議事堂、<虹の水塔>に向かう。
そこでお歴々相手に勝利の報告をすると、大勢の議員や周辺の村長さんたちも、今回は諸手を上げて、心の底から喜んでいる感じだった。
中には泣き出している人もいた。
その後、俺たちの最大の支援者であるコクトー評議員とは別室で会談する。
コクトーさんは相変わらず食えない笑みを浮かべていた。
「よくやってくれたとしか言いようがないが、まいったな……君たちのおかげで勝てたが、仕事はどちらにしろ増えるな」
コクトーが肩をすくめて笑ったので、俺も苦笑する。
「すまないが、報酬は少し待ってくれるか? もちろん、通常の生活物資ぐらいなら、これからはずっと市から無償で提供させていただくが」
「気にしませんよ。それよりヘラドーンの財宝をどう処理するか考えないといけないですよね」
「うむ。君も君の家族も一生かかっても使いきれない分の数百倍はあるだろうしなあ。あとは、ダンタリオ鉱山の利権をどうするかという問題もある」
そういえばヘラドーンから奪還したダンタリオ鉱山、もし再開されたら天文学的な利益を産むんだよなあ。
俺の知る限りだと、ヨーロッパの経済を崩壊させかけた、有名なチリのポトシ銀山……の数倍の規模があると思う。
しかも金に銀に鉄に石炭にダイヤモンド、なんでも出るらしいし。
敵に奪取され、持ち主が既に亡くなっている鉱山だから、解放者の所有になるのではないか? って問題も出てきている。
あんなもの個人でもらっても、どう考えても持て余す。
俺が所有権を放棄したところで、俺が所属しているリバイアストン市が所有者でいいのか、という問題も出てくるだろうな。
なんで所有権放棄を考えているかと言うと、ダンタリオ鉱山の所有権には、最寄り都市であるルキフグッサの防衛責任が付随してくるからだ。
たぶん、鉱山を所有するって言ったら、ほぼ確実に、ルキフグッサの総督的な地位への就任を打診されるだろう。
俺は正直、エミリーヒル以外は守りたくないので、それは受け入れたくない。
コクトーさんもそれをわかっているから、俺にその話を振ってこないんだろうな。
「ダンタリオ鉱山はルキフグッサ市の所有だったが、かの市の人的資源は虐殺でかつての規模の五分の一もない。抵抗組織の人間たちが鉱山を再稼働させても、掘り出した鉱石を運ぶ人手が全く足りないだろうな。彼らだけでは再侵攻されたとき、防衛も困難だしな」
コクトーさんは本気で頭を悩ませているようだ。
俺も、「じゃあ俺が」とは言えないし。
「通常、こういう場合どういう方法があるんですか?」
「そうだな。君にやってもらうわけにはいかないから……他から調達するとしたら、本国に依頼するのが普通かもな……」
なるほど……。
ニューシャルマニアはシャルマニア帝国の植民地だからな。
本国に増援を頼むのが筋か。
「君が赤竜公を倒したと知れば、撤退していた本国軍も帰ってくるかもしれんな。ついでに鉱山の利権に群がる貴族や商人もついてくるだろうが、ある程度は我慢するしかない」
確かにそうなるだろうなあ。
元々ドラゴンの脅威を恐れて新大陸から撤退した人たちだ。
ただじゃ戻ってきてくれないだろう。
「ところで、赤竜公以外にまだ敵がいるんですか?」
「調査中だが、当面の間は襲ってくる勢力はないと思っている。赤竜公の息子、バルバス候は父の遺領の継承を主張し、仇討ちを考えるだろうが……兵力も物資も激減しているはずだから……すぐには動けないだろう」
ああ……ヘラドーンの息子か。
娘のヘラギネアは、父親の仇を討つという感じではなかったが、息子はそうじゃないのか。
仮に別に父親を慕っていなかったとしても、貴族なら建前として仇討ちは唱えるだろうしなあ。
「まあ、君もしばらくはゆっくりできると思うよ。英気を養ってくれ」
平和は次の戦争への準備期間にしか過ぎない、という言葉をどこかで聞いたことがあるな。
しかし……多少は不穏な話は残っているが、しばらく平和を堪能できると思っていいのかな。
コクトー評議員との会談が終わった後は、自然に非公式パーティーが起こり、軍需物資も大放出してのどんちゃん騒ぎが連日連夜続くことになった。
色とりどりのエスニックな料理やフルーツが並び、珍しい魔法の花火やシャルマニアの民族舞踊が披露されたりと、俺も子供たちも、舌も目も楽しませることができた。
家族と一緒にずっとこういう異世界情緒を味わえる日々が続くなら、最高なんだけどなあ……




