↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/61

第59話 鉄血の凱歌2 【観測】



 ヘラドーンの宝物庫には他にも不思議なものがいっぱいあった。


︎︎まず、表面が半透明の樹脂のようなものでできた、ソフトボールぐらいの大きさの、五角形の多面体。

︎︎三十二面あるが……

 これ、幾何学かじった人間からすると、ちょっと不思議すぎる物体だ。

 普通は正五角形だけでは閉じた立体だと、正十二面体があるが……三十二面は無理なんじゃなかったかな……オイラーの定理だったかなんだか満たさないので。

 さらに燭台みたいな台座の上に乗っていて、浮いているように見えるが、多面体自体は触ってもびくともしない。


「これは空間識覚を麻痺させる宝具です」


 一緒に見ていたエチカが性能を教えてくれた。


「玄神霊の指輪みたいなもの?」

「もっと限定的で局所的ですけど、性質は似ていますね」


 つまり範囲限定の空間識覚のジャミング装置か。

 エチカが説明してくれたことによると、オノンタルガのショッピングモールでのエチカの空間識覚不調はこの装置が原因ではないかということだ。


「魔道具ということなのかな?」

「何とも言い難いですね。魔素粒子を利用してはいるのですが、古代ディカリオン文明の遺産は良く分からないものが多いんです」


 似たようなもので、正六角形の多面体もあった。

 こちらは正四十八面? こっちはもっと不思議で、正六角形では閉じた多面体は作れないのではなかったか……?

 見た目、正多面体に見えるけど、空間が歪んでいたりするのかな……


「これは逆に中継スポットみたいにして、空間識覚を延長するためのもののようですね」

「もしかして、ヘラドーンはこれで屋上を見たのかな?」

「多分そうだと思います。受信機みたいなものがどこかにあると思うんですが、ヘラドーンが装備しているのかもしれませんね」


 宝物庫でも美術品が置いてあるところをチェックしていたラティーナは悩んでいた。


「この美術品や宝飾品、全部もらっていいのかなあ」

「何か気にすることがあるの?」

「ちょっとすごい価格になっちゃうし、私たちだけでは買い手を見つけるのは無理かも。アンゼリク陛下ぐらいしか買える人いないよ」


 アンゼリク陛下って、現シャルマニア皇帝だったか。

 忘れそうになるけど、リバイアストンもルキフグッサも元は植民地で、別に本国から独立しているわけではないんだよな。

 シャルマニア帝国が新しい大陸に作った植民地だからニューシャルマニア。

 半独立状態になっているのは、遠隔地すぎて統治ができないのと、本国もドラゴンとの戦争の惨禍から回復し切っていないからだそうだ。


 正直な話、美術品は各地の権利者や都市に無償返還してもいいかな。

 財宝に関して言うと、ブロック状に綺麗に積まれていた金銀インゴットだけでも、十トン近くあった。日本円に換算すると、数百億円分になるのでは。

 これだけでも全部頂くのは気がひけるし。

 もらっても、リバイアストンだけでは確実に使い切れないし。

 地方経済がハイパーインフレになってしまうかも。


 ドラゴンのヘラドーンがなぜ金銀財宝を蓄えていたかだが、まあ間違いなく戦費だろう。

 主戦力がドラゴンなので、武器防具は必要ないが、食料は明らかに不足しているからな……。

 ルキフグッサ周辺の畑や自然に生えている草木だけではドラゴン数百匹はどう考えてもまかなえないと思う。

 もっとも、狂って市民を虐殺してしまったので、彼の王国は早晩破綻するのが目に見えていたかもしれないが。


 図書室には机の上にヘラドーンの戦略地図が広げてあって、そこには詳細に測量されたニューシャルマニア植民地の全体が記されていた。

 それを見るに、ニューシャルマニアの面積は、日本の三倍はある。

 リバイアストンが一地方都市にしかすぎないのがよくわかった。

 また、勝手に北アメリカと同じぐらいかと思っていた新大陸だが、これを見るに北アメリカ大陸よりは大分大きい気がする。

 初めてこの世界の全体的な規模感がある程度把握できた。


 そう言えば以前、赤竜王マカフシュに、


『高いところに登ったら、遠くを見渡してみるといい』


 と言われていたのを思い出した。


 丁度このセーレ大神殿は、結構な高度にある。

 財宝調査がひと段落したら、その件についても調べてみるか。

 



 

 財宝調査はレジスタンスのリーダーと一緒に目録を作り、すぐに持って帰りたい書籍や通貨、宝具以外は、レジスタンスに半分を復興費用として寄付することにした。


 ヘラドーンやルぺルカリスの死骸だけでもかなりの価値があるそうだが、余ったらリバイアストンや周辺都市に分けてあげてと言っておいた。

 虐殺の被害者であるルキフグッサの生き残り住民への慰謝料も必要だろうしな。


 マカフシュの言っていた、高所からの調査だが、ヘラドーンを倒した石橋から出たところが丁度尾根だったのを思い出し、もう一度そこから景色を見てみることにした。

 先日、ヘラドーン討伐直後では疲労していたのもあってまともに見ていないからな。


 橋の上にあるヘラドーンの死骸は解体中で多数の魔導士や技術者が処理を行っているが、まだほとんど片付いておらず、作業も時間がかかるためと、通行を遠慮してほしいと言われた。

 迷惑かけるのも気が引けるので別の通路を探すと、もう一本、人間だけが通れる橋があるというので、そちらを使った。


 外に出てみれば、前回来た時とおなじ雪景色だったが、また新しく積もったようで、以前は見えた山頂の岩肌がほとんど見えなくなっていた。


 標高約三千二百メートルの尾根だ。

 日本で言ったら富士山でないと到達できない標高。

 寒いので、今回は毛皮のコートを貸してもらっている。

 もこもこした格好でぴょんぴょん跳ねているエチカとラティーナの二人。


「おい、あんまり遠くに行かないでくれよ。地面滑って危ないから」


 俺が苦笑してそう言うと、二人共、笑顔いっぱいで手を振ってくる。

 可愛いんだが、お父さんみたいな気持ちになって心配になるな。


「わあ、すごい景色だね……みてみて! あの海に面しているところ、ニュー・イースじゃない?」


 見晴らしの良いところを見つけて、そこに立ったラティーナの指さした方角を見てみる。

 東はマステマーシュのある荒野、そして続いてリバイアストンのあるモナド平原が広がっているが、その先は霞んでいる青い地平線だ。

 ラティーナにはニューシャルマニアの首都である大都市ニュー・イースが見えるというが、俺には海どころか雲や地面との違いすらわからない。


「エチカ、何か見える?」

「私にも全く見えません……ニュー・イースまで直線距離で三百キロ近くありますよ……」


 ラティーナの視力は本当にとんでもないな。

 俺もエチカも苦笑いしかできない。

 三百キロメートル先の地平線の様子が肉眼で見えるなんて……


……三百キロメートル?


「ラティーナ、ニュー・イースの位置ってどの程度?」

「えー? どういうこと?」

「その、見える範囲でニュー・イースはどのあたりにあるの? 海はどれくらいまで見える?」

「よくわっかんないけど、ニュー・イースまでが四分の三、そっから先は海が見えるよー」


 三百キロメートルが四分の三?

 では四百キロメートル先までは見える?


 おぼろげながら、昔教わった軍事常識が一つ、浮かんでくる。

 地表に置いてあるレーダーサイトは、地球の丸みの関係で二百キロメートル程度が探知の限界なのではなかったか。

 高度三千メートルでも確か三百キロメートルだったような。

 電波でも見ることができない四百キロメートル先が肉眼で見ることができる??


 そんなことは地球では不可能……いや……《《球体の天体では不可能》》なのでは……。


 もう一度マカフシュの言っていたことを思い出す。


『この世界の秘密がひとつ分かるかもしれない』


 俺は自分の頭の中に浮かんだアイディアを確認するために、首から下げていた双眼鏡を使って左から右まで、おおよそ180度、ぐるっと地平線を観察した。


……やっぱりだ。


 勘違いではない。

 地平線はどこまで行っても同じ高さ。

 一直線だ。


 ヘラドーンと戦う前に、やつを倒すための方法を探していた時、市立図書館でざっと宗教史の本を読んでみたことがある。


(この世界の宗教は全部、地上は平らだと説いていた……)


 これらが意味するところを、頭の中で整理する。

 どう考えても、納得できる一番整合性の取れる結論は――


――この俺たちが今立っているニューシャルマニアの……いや、新大陸の大地とそれを取り巻く海をもつ天体は――《《球体ではない》》……ということになるんだが。




――本当に?






















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。