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第58話 鉄血の凱歌1 【宝物漁り】



 何時間眠ったかは覚えていない。


 上半身を起こして周囲を確認すると、右前方にラティーナが仰向けにお腹を出して寝転んでおり、左上方にエチカが三人分のブランケットにくるまって芋虫のようになって寝ているのを発見。

 

 まどろみながら、二人の寝相のダイナミックさを見て安心する。


「むにむに」


 毛布にくるまって眉間にしわをよせながら口をひよこみたいに突き出して、むにむに言っているのはエチカ。


「もう……ふにゃふにゃだよ……だいぶ、ふにゃふにゃ……」


 大きく口を開けて涎を垂らして、ふにゃふにゃにご執心なのがラティーナ、と。


 俺たちはレジスタンスの本拠地に帰って寝室を借りるなり、戦車内で着ていた服のままそこに伏せて、それからかなりの時間寝入っていたようだ。

 貸してくれたのは、以前ドワーフの王妃が使っていたというとてつもないサイズのベッドだったので、寝ている間に寝返り打ち続けてもベッドからはみ出ることはなかった。


 ベッドから起きて、窓を開いて地下都市の市街を眺める。


 妙に人が少ないな?

 前来たときは、お祭りでもやってるのかというぐらい人でごった返していたけど。


 地下なので時間間隔が分からない。

 昼間なのか夜なのか。


 二人を起こさないように、寝室をこっそり抜け出し、階下に下がる。


「よう、ちゃんと休めたか?」


 寝所を世話してくれた宿屋の主人にお辞儀で挨拶する。


「今日は人通りが少ないですか、何かあるんですか?」

「そりゃあお前さん。皆、オノンタルガやルキフグッサの状況確認に行っているよ。あんたらの言った通り、大半の竜たちは引き上げているようだからな」

「大半……ということは残っている竜もいるんですか?」

「赤竜どもは空に逃げちまったが、長距離を飛べない火竜の連中はまだあちこちに残っている。追撃するかどうか、今ちょうど元の住民たちで揉めてるところみたいだね」


 なるほど。

 火竜は山脈を越えられないって言ってたな。

 食料もないだろうし、人型にもなれないのだったらすぐに逃げるのも難しいだろう。


 サンダルを貸してもらって、宿屋の後ろの停車スペースに行ってみる。

 90式はちゃんとそこにあった。

 戦車の表面は洗ってくれたようで、橋の上で付いた血の汚れは綺麗に取れていた。

 手前に椅子を立てて、ドワーフの爺さんが休憩していた。

 この人が掃除してくれたのかな?


「不思議な機械だな。まるで生きているようだ」


 戦車の側まで行くと、お爺さんが声を掛けてきた。

 

「頼もしい相棒ですよ」


 相槌を打ちながら、車体の様子を見ると、後方の少し離れたところにトロッコがあり、その前側に牽引できそうな留め具が付いているのを見つけた。


「これは?」

「お前さんたちの戦車に取り付けられないかと思ってね。牽引装置はそれで良かったか? 即席だがちゃんと走るはずだ。……お前さんたち、宝取りに行くんだろ?」

「宝?」


 何のことだろう?


「ヘラドーンの宝だよ。取りに行かないのか?」


 ドラゴンの宝物!

 確かにそういうものもあるな!

 戦闘に夢中で気づかなかったが、知性のある強力なモンスターを倒したら、財宝を溜め込んでいるのは定番だよな。


 ドラゴンは光物を好きという噂もどこかで聞いたことがあるような。

 確かに、何も探さないで帰ってきてしまったが、ヘラドーンの残した遺産は気になる。


 特に書籍だ。

 最初に登場した時は、孫子の兵法書の原本らしきものを読んでいたからな。

 もしかしたら他にも、貴重な過去の書籍を一杯持っているかも。


 それに……無いとは思いたいが……もし残党の竜たちが襲ってくるような状況になった時のために、何か役立つアイテムがあるかもしれん。


 

 俺はおやっさんに整備とトロッコのお礼を行ったあと、ラティーナとエチカの二人にこの話をしようと、宿屋側に戻る。


 二人共、もう起きたかな?


 部屋の前まで行くとドアの隙間から妙なトーンの声が聞こえた。

 これは泣き声?


「モトムどこにいったの~ モトムがいなくなっちゃったよう」

「モトム様、エチカは一生お供すると約束しましたのに!」


 ええ……?


 ドアを開ける。


「あ!? モトムだモトムだ!」

「モトム様~⁉」


 二人が泣きながら抱きついてきた。


……ちょっと情緒不安定になっているみたいだ。

 激しい戦いだったからなあ。


 二人を落ち着くまでよしよしした後、宿屋の親父さんが用意してくれた朝食(時間は昼過ぎらしいが)を腹一杯食べる。


 野菜たっぷりのシチューとライ麦パンにチーズ、焼いた生ハムに豆とキノコの煮物だった。

 なかなか豪勢。

 ひどく腹が減っていたので、スパイスたっぷりでエスニックな味がするニューシャルマニアの料理をたらふく堪能する。

 そして、食卓で二人にヘラドーンの宝物の話をした。


「宝物! 確かに金銀宝石いっぱいあるよね、うん!」

「魔導具や珍しい書籍……それに竜族の歴史について書いた本があるかもしれません!」


 ラティーナが目の色変えているのが面白い。

 エチカは知的好奇心が豊富だな。


 ちょっとリバイアストンに帰るのが遅くなるが、もしかしたら赤竜族がもどってきて宝を持っていこうとするかもしれないし……速いうちに値打ちのあるものは回収しておきたいな。





 熱い風呂に入って着替えをした後、90式に乗りこむ。

 トロッコを引いて、一時間の旅程を走行。

 最初に使った道順は、急斜面があるので迂回路を選んだから、時間がかかった。

 またオノンタルガ遺跡に戻ってくると、ショッピングモールエリアにはすでにレジスタンスの都市にいた人たちが周囲を警戒していた。

 一団の中に、レジスタンスのリーダーのドワーフさんが居るのを見つける。

 操縦手ハッチから顔を出して挨拶する。


「おお、英雄さんたち。ちゃんと休めたか?」

「ええ、ありがとうございます。周囲に竜はいませんか?」

「うむ。一通り確認したが、全員引き上げたようだな。お前さんたちは、宝物の回収に来たんだろ?」

「ええ……正直に言えば」

「当然の権利だ。宝物庫は荒らされないように、ちゃんと見張りを付けてある」

「あの、すみません。書庫や図書室はありましたか?」


 エチカが砲手席から聞いた。


「宝物庫の隣だったよ。案内しよう」


 とんとん拍子で進んで嬉しい。



 ヘラドーンの宝物庫は大回廊から通じる通路の先にあった。

 なるほど。

 ここがヘラドーンの私的な生活スペースだったんだな。


 大神官がいた時は、その人の居室だったとか。


「ひやあ! 骨董品や珍しい美術品がいっぱいだよ!」

「古代ディカリオン文明の遺産がありますね!」


 俺は書籍庫で無事<孫子の兵法原本 八十二篇>を発見した。

 四十四篇もスペアがあった。

 他にも、中国の諸子百家時代の兵法書や哲学書と思われる竹簡が多数見つかった。

 ヘラドーンはどうやってこれを手に入れたんだろう……とても気になるな。


「ねえ、みてみて! この壺はいいものだよ!」


 よくわからん美術品の壺をラティーナが抱えて持ってきた。

 確かにカラフルな陶磁器できれいな逸品だが……ラティーナってこういうの好きだったんだな。


「モトム様、気になる書籍がありました。……エミリーヒルに戻って研究したら、内容をお伝えしますね」


 エチカは図書室で気になることを言っていた。

 古代ディカリオン文明の遺跡に関する興味深い書籍を見つけたということだった。


 ヘラドーンはとても勉強家だったらしく、様々な分野の書籍を大量に所蔵していた。

 ニューシャルマニアの歴史や、旧大陸、新大陸の両方の神話に関わること。

 リバイアストンの市立図書館になかった種類の書籍も大量にある。


 今後の展開がどうであれ、これらの知識は色々と役に立ちそうだ。








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