第50話 レジスタンス本部 【合流】
ルキフグッサ市内から坑道入口に潜り込んで、暗い坑道内を徐行速度でしばらく進んだ。
天然洞窟を削って、岩肌を木材で補強した通路だが、もう五キロぐらいは進んでいるのに、まだ戦車が通れる広さが続いている。
「しかし不思議な道だな……」
『確かに広いよね』
車長席からラティーナの声。
坑道の天井は三~四メートル程度と低いので、ラティーナはハッチから顔を出すことはできず、ずっと砲塔室内にいる。
本来、鉱山の坑道はもっと狭いはずだ。
しかしこの道は、最初から車両を通すために作られたかのように広い。
おそらくだが、ドワーフたちが参考にしたオノンタルガ遺跡が自動車文明の遺産だったために、自然に広く作ってしまったのだろう。
「それだけじゃなくて、この道、ずっと上りなんだよな」
『どうりで、なにか息苦しさを感じてきましたね』
砲手席のエチカから。
路面の傾斜は五度から六度ほどか。
ルキフグッサの標高が二千メートルぐらいだから、もう二千五百メートルぐらいの位置になっているはずだ。
確かにそろそろ呼吸に違和感を覚え始める頃だな。
言われてみれば俺も呼吸が乱れがちになってきた。
ディーゼルエンジンの排気音もいつもより重く感じる。
上り坂、ということは、山脈の岩塊の中を掘りぬいて、山の上の方に進んでいるということのようだ。
走行中、途中に横道や下に降りるスロープがいくつか見えた。
坑道全体は立体的な迷路になっているので、あらかじめ構造を把握していなかったら確実に迷っていただろう。
一度でもルートを間違えれば、戦車では方向転換できない区画に入り込む可能性がある。
そうなれば、バックで数百メートル戻る羽目になる。
このメインの通路には、ずっとトロッコ軌条が設置されている。
トロッコの軌条が走っている通路は他にもあるが、戦車が通れるほどの幅や高さのある道はそう多くはない。
火竜たちや赤竜も最初追ってこようとしていたようだが、体がはまって戻れなくなることを懸念したのか、追跡を断念したようだ。
実際、火竜は翼が背中についているので、竜の姿のままだと横幅が90式戦車よりかなり広くなる。
また、坑道内は待ち伏せし放題だし、身をかわす場所もなくなるので、戦車が潜んでいる坑道には入ってきたくないのだろう。
今、俺たちはルキフグッサの坑道入口からみると、方角的には北西に進んでいる。
もっと北側に鉱山の本道があって、セーレ大神殿に直通の道はそちらなのだが、そこはレジスタンスのアジトには遠い。
俺たちは一旦レジスタンのアジトに立ち寄り、そこのスペースを借りて、90式に最後の改修を施す必要がある。
この改修が、ヘラドーンに勝利するための最後の決め手になる――
合計六キロメートルほど進んだ所で、道幅が狭くなり、傾斜がゆるやかになってきた。
博物館で写してきた地図によれば、ここからは分岐が多くなっている。
あらかじめ頭に叩き込んだルートの通り進む。
何回か洞窟を左折をして、車幅ぎりぎりの路地に入ったところで、ライトの先に数人の集団がまぶしそうに驚いているのが見えた。
観察すれば、ヘルメットをかぶって髭面の男性が幾人もいる。
背が低めの女性も何人かいた。
ドワーフの集団だ。
各々、ハンマーや斧やつるはしで武装していた。
目を凝らせば、後陣にはクロスボウやマスケットも見える。
ライトをハイビームからローに変えて、エンジンをアイドリングにして、操縦手ハッチから身を乗り出す。
天井が高い部屋になっていたので、ラティーナとエチカも外に出てきた。
よく見ると、遠くの壁は岩肌そのままではなく、なめらかに成形されていた。
ドワーフの集団が武器を下さず、包囲を緩めないので、俺たちは身元を証明するために、急いでニンテンブルグの兄弟からもらった品を取り出すことにした。
「あの、これ、ルキフグッサの名誉市民メダリオンです!」
「ドワーフ大王国の聖杯なんだけど……違うかな?」
他にも、ゴルディオン王朝時代の鍛鉄ハンマー、セーレ大神殿のロゴ入りのアダマンタイトのインゴットなど。
ニンテンブルグ兄弟が何が証明の品か忘れてしまったというので、とりあえず思いつく限りのものを一杯もらってきたのだ。
しかし、そのどれを見せてもドワーフたちは怪訝な表情をしているばかりだったので、俺たちは半笑いで冷や汗を掻き出した。
「こいつは戦車だな。<サントツ>に似ている。大分新しいようだが。もしかして、最新型か」
だが、ドワーフの集団の中から前に出てきた、一際体の大きな男が、俺たちが並べた証拠品に見向きせずに、代わりに90式の砲や装甲板を触りだした。
恐らくはこの人がドワーフたちのリーダーなのだろう。
「リバイアストンのドラゴンスレイヤーというのはお前さんたちか。まさか単身ダンタリオに乗り込んでくるとはな」
ドワーフのリーダーが手を差し出してくれた。
おれがその手を握ると、とても強い力で握り返される。
「こっちへ来い。この場所はまだ目立つ」
リーダーが合図をすると、遠くの石壁が音をたてながらスライドして開いた。
*
石壁の隠し扉の先には、地下都市があった。
かなり広く背の高い地下空洞で、岩肌をくりぬいて住居にしているようだ。
壁や天井には無数の煌々とした灯りがともり、炊飯や冶金のための蒸気がそこかしこから噴き出している。
鍛冶場の火花があちこちで散り、金属を叩く音が絶えず響いている。
酒場に露店らしきものまで見受けられ、地下なのに地上の市場と変わらない活気がある。
ドワーフ以外の人種も多数いて、ルキフグッサの虐殺を逃れた市民もここで保護されているようだ。
ダンタリオ坑道のドワーフたちは、元々ルキフグッサに住居を構えている者もいて、街の職人や商人とは家族同然の付き合いだったそうだ。
しばらく戦車を進ませると、広場らしき場所に出る。
その場所に隣接していた、岩をくりぬいた格納庫に案内される。
そこで俺たちは、ドワーフたちに、このダンタリオ坑道に侵入した理由を話すことにした。
「オノンタルガに乗り込み、セーレ大神殿の《《とある場所》》でヘラドーンと決戦する」
ドワーフたちはみんな驚愕したが、俺が格納庫の机の上に地図を広げて説明を始めると、興味津津で話に集中しだした。
「こんな場所で戦うつもりなのか? ここは<新竜大戦>でサントツがヘラドーンに敗れた場所だぞ?」
俺がその場所のことを話すと、ドワーフのリーダーは盛大に顔を歪ませた。
「だからいいんだよ」
「いったいどういうつもりだ?」
「そのための最後の仕上げを、ここでやりたい。作業場所を貸してくれるか?」
「赤竜公と戦おうという勇者だ。場所なんぞいくらでも貸してやるが――」
俺たちはレジスタンスの作業場の一つを貸してもらい、最後の仕上げの作業を始めることにした。




